詩の紹介 「揚羽蝶」 有森信二
「揚羽蝶」 有森信二
わたしは病んでいた/ゆえ知れない脊椎の痛みに/心臓は激しくあえいでいた
わたしの眠りは/苦しい息遣いの中で/ふいに目覚めた/ほっかりと浅い/奇妙な目覚めであった
まるで/果てのない荒野に/むやみに/雪が降っている/ようであった
眼を開いてみると/漆黒の揚羽が雪のいたる所に/点々と/果てもなく点々と舞い降りたらしく
ビロードの布切れのように/千切れた/夥しい/花を咲かせていた
文芸同人誌「海」通巻第71号より 太宰府・H22年10月 福岡・花書院
(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
温暖化により短くなった冬。季節の移り変わりが乱れ、蛹になった芋虫は、自分が作った繭に閉じ込まれて冬を過ごそうと、体の異変にとまどい悶える心象情景にも読める。春になったかなあと、浅い眠りから目覚めたようで、定めなく、移ろう世界にとまどう命と心。真冬の雪の大地に「漆黒の揚羽が雪のいたる所に/点々と/果てもなく点々と舞い降りたらしく」生死の境に彷徨(さまよ)うさなぎの如く、幻視的美意識を感じさせる絵画的な作風です。
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コメント
御紹介をいただき、心から感謝申し上げます。
投稿: 有森 | 2010年12月 4日 (土) 16時33分