詩の紹介 「かむ」 西 杉夫
かむ 西 杉夫
こぶりなカマキリだが/この食いかたはどうだ。/自分より大きなアブラゼミを/前足でがっしりかかえて/頭からかみくだすのだ。/どんな部位もえりごのみしない/ただ順番に/ひたすらのみこんでいく、/音たてるいきおいだ。/いくらか動いていたセミの足が/まったくとまった。/カマキリのこの細身の体の/どこにどう入った/どうおさまっていくのか。/速くはないが/休むことはない、/着実に消えていく、その一直線のくりかえしだ/木の上にくりひろげられる執念に/しばらく見とれたが/こいつの食い気はおさまる気配もない。
夏も終わるに近づいている、/羽のいたんだセミたちが/地面にパサパサもがいている。/そんなのをおさえこんで/こんな食い方をするのか。/味ではあるまい、/ただ食うことがほとばしっていた。/カマキリだったな、/交尾のメスがオスを食うっていうのは。
しばらくあとでそこを通った、/木の下にセミの羽だけが/二枚落ちていた。あいつはいまどこにひそんで/何をねらっているか。
(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
カマキリの食事の光景を恐ろしく描いた。カマキリも人間と同じように新鮮なものが好きらしい。動く蝉を捕獲する。メスは交尾の相手も動けば餌に見なすのかしら。あの人を癒す緑の森のカマキリは弱肉強食の世界に生きている。
ご用心!癒されたがる疲れた君はどこかに潜んでいる光る目に狙われているかも知れませんよ。
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