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2010年11月27日 (土)

詩の紹介 「背広」小川哲史

「背広」         小川哲史

私も妹も/父を知らない/けれど姉だけは/父が戦死したとき/十三歳だったから/父の声も表情も/また手の温もりも/よく覚えていると言う/大きな声を立てたこともなく/まして手を上げたことなど/一度もない/優しいひとだった/背は高く/立派な体格をした父さんだった/と遠い目をして姉は話してくれた

母が大切にしまっていた父の背広を/大人になって着てみたことがある/袖丈は短く/ボタンをはめるのも難しいほど/小さな背広だった/なんだ/大きなひとではなかったんだ/私は少しがっかりした

だからと言って/姉を詰る気はさらさらない/少女だった姉にとって/父は誰にも増して/素敵な男性だったのだから

小川哲史詩集「片道橋」より 平成22年11月1日 詩区かつしか 東京都葛飾区

(紹介者「詩人回廊」江素瑛)
兄弟の中、戦死した父を知るのは姉だけ。数えられない母子家庭を作った凶悪な戦争。父を失った幼い子供が、父を慕う温かい気持ちの溢れた詩である。親子の絆は時代が変わっても変わらないはず、今時の離婚などに見るような、すぐキレる人間による母子家庭は、どのようにしたら父を知らない子供の飢える心を満たせられるのであろうか。人の存在の大きさは、姿や形ではないことをこの詩は示している。

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