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2010年11月30日 (火)

詩の紹介 「時化る日」 西川敏之 

「時化る日」  西川敏之

風化も 足踏みする間もなく/人生は終えに向かい走っている

地下道の道は外の舗道に出る時も無い/遠い日から暴風を避けて探り足で歩み/暗い密室で幾年も計画を企てていた/だがその思想は色盲のような異常さで/社会をみつめては自虐していた

肌に汗はもう流れず/心に新鮮な風はもう吹かない/老体は苦と疲れに無知なのが むしろ不幸なのだ

茶色になった夜の敷布に横たわり/もう朝のこない夜に眠れないままコツコツと/時計の動く音を耳にして
詩誌「岩礁」144より 2010秋 三島・岩礁の会

( 紹介者「詩人回廊」江素瑛 )
暗い灰色の情調の老境を嘆いている詩である。人は子宮から出て、へそのひもを切られた瞬間からすでに一歩ずつ命の終りに向かっている。そこに気づくのは何時からか。
老年に辿りついたら、無欲、無感、無動、無知、座禅の僧になる如くの道もあります。めでたいことだが、「むしろ不幸なのだ」と長生きの時代の悩み。人生にまだ十年の時間があるとしたら、若き日の十年のつもりで楽しめる幸せもあるのではないでしょうか。

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2010年11月29日 (月)

「季刊文科」50号から~伊藤桂一氏の戦記物新作について

 「季刊文科」50号の創作欄に、村田喜代子「楽園」、伊藤桂一「アイタペ河畔」、岡松和夫「友だち」が載っている。
 伊藤桂一「アイタペ河畔」は、戦記物の延長的な新作であった。何年か前に「群像」に発表したもの以来であろうと思う。戦友会の会員の幾人か兵役体験と戦後の生き方を、渋い紋様の帯を広げてみるように味わいをもって仕上げてある。
 こうした過去の出来事を重ねて配置する作品の手法を、かつて講談社の小説教室の講師時代に、丁寧に解説していた。過去のエピソードの近いものから小過去、中過去、大過去と分類し、効果的にそれを物語として繰り出す。その手順は『文章作法―小説の書き方』(講談社)に詳しい。
 手法は「アイタペ河畔」にも採用されている。まず、戦友会の解散式の由来が低音の静かなトーンで始まる。そこから会員の人柄とエピソードがユーモアを交えて紹介され、やがて凄惨な戦争体験のクライマックスの山をいくつか越える。ユーモアと凄愴さのアップダウンを含んで、静かな終章に入る。全体の低音な調子というか、トーンは乱さずに劇的な回想を展開している。
 以前に、自分は短いものだが、過去の回想を幾つか使った物語を書いて提出した。いまひとつ冴えないが、素材に無理があるのかと思っていた。それを「これは、出来事のエピソードの溶接の仕方が下手だね。ぼくならもっと巧くかけるよ、はっは」と指導をされた。素材は悪くないのか? と思いながら、どうにも生かせずに捨てた。その後、師の作品を検討してみて、個別のエピソードを全体のトーンに調整しないので、挿話と挿話が不調和に乱反射して、印象が分裂しているらしいと気づいた経験がある。
 その意味で「アイタペ河畔」は、散文と詩の微妙な境界線を学ぶことができる作品でもある。

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2010年11月28日 (日)

【文芸時評】12月号 早稲田大学教授・石原千秋

【文芸時評】12月号 早稲田大学教授・石原千秋

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2010年11月27日 (土)

詩の紹介 「背広」小川哲史

「背広」         小川哲史

私も妹も/父を知らない/けれど姉だけは/父が戦死したとき/十三歳だったから/父の声も表情も/また手の温もりも/よく覚えていると言う/大きな声を立てたこともなく/まして手を上げたことなど/一度もない/優しいひとだった/背は高く/立派な体格をした父さんだった/と遠い目をして姉は話してくれた

母が大切にしまっていた父の背広を/大人になって着てみたことがある/袖丈は短く/ボタンをはめるのも難しいほど/小さな背広だった/なんだ/大きなひとではなかったんだ/私は少しがっかりした

だからと言って/姉を詰る気はさらさらない/少女だった姉にとって/父は誰にも増して/素敵な男性だったのだから

小川哲史詩集「片道橋」より 平成22年11月1日 詩区かつしか 東京都葛飾区

(紹介者「詩人回廊」江素瑛)
兄弟の中、戦死した父を知るのは姉だけ。数えられない母子家庭を作った凶悪な戦争。父を失った幼い子供が、父を慕う温かい気持ちの溢れた詩である。親子の絆は時代が変わっても変わらないはず、今時の離婚などに見るような、すぐキレる人間による母子家庭は、どのようにしたら父を知らない子供の飢える心を満たせられるのであろうか。人の存在の大きさは、姿や形ではないことをこの詩は示している。

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2010年11月26日 (金)

三島由紀夫没後40年、昨年1年間の重版部数は約17万部

 三島由紀夫の40回目の命日となる25日を前に、フェアを開催する書店も多い=東京都渋谷区の有隣堂アトレ恵比寿店 壮絶な自決から40年。作家、三島由紀夫(1925~70年)の命日となる25日の「憂国忌」を前に、関連書籍の刊行が相次いでいる。10月以降でも10冊以上。三島の全集や文庫を発行する新潮社によると、昨年1年間の重版部数は約17万部に上る。長引く出版不況下でも、昭和のスター作家の人気は衰えない。(磨井慎吾)
三島由紀夫、没後40年で関連本ラッシュ “仮面”の素顔気さくな一面も (産経ニュース2010.11.23)

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2010年11月25日 (木)

【文芸月評】心の空洞埋める営み(2010年11月24日 読売新聞) 

淋しさ抱えた生を肯定
《対象作品》和田葉子氏(50)短期連載『雪の練習生』(新潮10月号~)・『尼僧とキューピッドの弓』(講談社)/文学界新人賞受賞の吉井磨弥氏(32)「ゴルディータは食べて、寝て、働くだけ」/田中慎弥氏(37)「第三紀層の魚」(すばる)/西村賢太氏(43)「苦役列車」(新潮)/戌井(いぬい)昭人氏(39)「ノミの横ばい」(文学界)/吉田修一氏(42)青春小説『横道世之介(よこみちよのすけ)』(毎日新聞社)柴田錬三郎賞を芥川賞作家で初めて受けた「受賞の言葉」/河野多恵子氏(84)の短編「緋(ひ)」(新潮)。(文化部 待田晋哉)

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2010年11月24日 (水)

石原慎太郎「日本堕落論」(雑誌「文芸春秋」)に同感

 12月号の石原慎太郎「日本堕落論」では、日本の国家的な自立性が失われてきたことに対する警告と対応について述べている。
 冒頭に、太平洋戦争の敗戦後に坂口安吾が書いた「堕落論」からはじまるのは、文学者らしいところだが、その後の展開は政治国家論になる。
中見出しだけを記すとつぎのようになる。
 「平和の毒」「日本は自前の戦闘機をもつべき」「『核の傘』のまぼろし」「尖閣を守れるのか」「中国を凌駕する日本の戦力」「核保有による抑止力を」「司馬遼太郎の慨嘆」「教育を再生し国家の誇りの回復を」「人間相互の連帯回復こそ国家再生の鍵」「三島由紀夫氏の予言」
 こうした見出しだけで、どういうことを論じているか推察できるであろう。
 これは、「暮らしのノートPJ・ITO」(ITOのポストモダン的情報)で述べたことと重なりあう。全共闘安保闘争の学生時代に、ソ連のスターリン主義、米帝主義のなかで独立国たるには、日本の核武装が必要で安保条約は害になるという理論をITOはもっていた。そのため経済流通業界での活動に専念することになった。当時では、生産力を上げればよい社会になるというマルクス主義経済思想と自己矛盾していなかった。
 いま世界経済をみると、アメリカはモノづくりの力を失い、経済の20%を占める程度である。そのため日本のモノづくり企業を奴隷のようにして使いこなさないと基本的な国家力にならない。アメリカは金融トリック的虚業で世界から金を巻き上げている。しかし、札束をやりとりしても何も産まない。その富のもとはモノをつくり、それを売る実業のものである。日本の財政赤字が巨額でも、だから円高になる。
 日米同盟を強調するメディアのコメンテイターにはアメリカの意向があると考えられる。自民党が小沢つぶしに力をいれるのも米国の意向と何らかの理由があるであろう。そのうち「武器輸出三原則」をいじくる話が出てきたら要注意だ。
 いすれ米国資本は、日本の重工業企業を買収しにかかるであろう。なにしろその産業力がないと飛行機が満足につくれなくなるからだ。買収にきたら、日本は持っているアメリカの国債を全部売却し、ドルを大幅安にする。円高になったところで、逆に米国の軍需産業を買収する法でも考えるしかない。
 日本の生命保険業界をみよ。大蔵官僚の国民への裏切りで、完全にアメリカ企業に侵略され、本来は若者が入るべき生命保険を老人に勧めている。べつにアメリカがきらいではなくても、経済理論からして、この商法はおかしい。
「石原都知事が事業仕分け批判」

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2010年11月22日 (月)

野間文芸新人賞に円城塔さんと柴崎友香さん

 今年の野間文芸新人賞を射止めたのは、円城塔(とう)さん(38)と柴崎友香(ともか)さん(37)。選考経過を作家、多和田葉子さんは「どちらも強く推す委員がいて、はじめから評価が高かった」。
 円城さんの受賞作『烏有此譚(うゆうしたん)』(講談社)は、本文の下にユーモラスな注釈が付された異色の小説。純文学、SFとジャンルを超えて活躍する気鋭らしい前衛小説だが、「どのページを読んでも面白く、小説という形式の可能性を示してくれた」(多和田さん)と好意的に受け止められた。
 円城さんは「多様な読みを許容する作品と評価してもらえたのがうれしい」「読みにくさは今後の改善点。もう少し多くの人に受け入れられる形で書いても罰は当たらない」と漏らし、笑いを誘った。
 一方、柴崎さんの受賞作『寝ても覚めても』(河出書房新社)は東京と大阪を舞台に、十年越しの数奇な恋を描く。多和田さんは「著者独特の観察眼が、友人関係に自足せずに外に開かれている。跳躍しようとして成功した作品」と称賛。
 柴崎さんはデビューから10年余り。「新人」の冠が似合わないほど多くのファンを持つが、「経験を総動員して新しい領域に踏み出そうと思って書いた」。「表層にこだわる作家であることを宣言したマニフェストのような小説」との意見が選考会で出たと伝えられ、「小説を書くことで、この驚きに満ちた世界について考え続けたい」。
産経ニュース「野間文芸新人賞は実力派2人」

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2010年11月19日 (金)

ポプラ社が水嶋ヒロ氏のデビュー作に新販売方式導入

 書籍の販売法が多様化するなかで、ポプラ社は12月15日にポプラ社小説大賞を受賞した齋藤智裕(水嶋)氏の『KAGEROU』を歩安入帳の責任販売で発売する。同社から取次会社の出し正味は65%で、取次会社から書店には74%で出荷する。返品は書店から取次会社へは64%、取次会社からポプラ社に55%の歩安入帳となる。完全受注制の満数出荷。事前受注の締切日は11月25日。書店は返品率28%以下で利益となる。ポプラ社で責任販売を導入するのは初めてである。

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2010年11月15日 (月)

文芸季評2010(読売新聞11月13日)安藤礼二氏

 前書き「文学とは、言葉を通じて、現実とは異なった虚構(フクション)としての作品世界を創り上げる営為である。虚構の作品世界は、想像力によって、通常の「時―空間」の認識では捉えきれない、われわれが生きている世界の真のリアルを提示する。文学作品と現実世界の最大の相違は、そこに流れている「時間」にある。言葉を使って、現実とは異なった「時間」の流れを描ききること。そのような作品が一斉に刊行された。しかも書き手はすべて女性である。
《対象作品》小川洋子「原稿零枚日記」(集英社)/絲山秋子「妻の超然」(新潮社)/多和田葉子「尼僧とキューピット」(講談社)/柴崎友香「寝ても覚めても」(河出書房新社)/朝吹真理子「流蹟」(新潮社)。

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2010年11月14日 (日)

同人誌「文芸中部」85号(愛知県東海市)

【「輝く日々」堀井清】
 400字原稿用紙にして360枚という長編の一挙掲載である。70歳代の小田信吾は定年退職後、息子たちが自立すると、血のつながらないずっと若い柘植夫妻と自分の家で共同生活をしている。他人家族である。小田の妻はその前に家出し、自立して店で働いているが、小田には妻がなぜ家出したかわからない。
 クラシックの演奏会に行って、中津という年金生活者と知り合いになる。彼は妻が交通事故死したが、それは自殺であろうと信じている。
 碁会所を経営する男など、小田の行動で出会う人や出来事は、理屈では言い切れない、老いて生きる状況を雰囲気小説として、読むものに興味をかきたてるように、面白く伝えていく。
 黙読の声調というものがあるかのように、練られた文体。四重奏のように静かに、そしてそのスタイルに相応しいうねりと変調のスタイル。うねりをもって少しずつ世俗的な話があらわれ、時間の流れがなめらか河を船で行くように示され、現代的な課題が浮き彫りにされていく。見事で学ぶところの多い作品なので、当会の会員に貸したら、長編純文学なのにあっという間に読んでしまい、絶賛するほどの名品。
 発行所=〒477-0032愛知県東海市加木屋町泡池11-318、文芸中部の会。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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テレビが新聞を読み上げる時代になりました。情報ルートが単純化しすぎています。情報の多様化に参加のため「暮らしのノートPJ・ITO」ニュースサイトを起動させました。運営する団体・企業の存在感を高めるため、ホームページへのアクセスアップのためにこのサイトの「カテゴリー」スペースを掲示しませんか。文芸同志会年会費4800円、同人誌表紙写真、編集後記掲載料800円(同人雑誌のみ、個人で作品発表をしたい方は詩人回廊に発表の庭を作れます。)。企業は別途取材費が必要です。検索の事例

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2010年11月12日 (金)

詩の紹介「十六歳の少女―ランダ・ハムウィの遺書」

作者 マハムード・ダルウイッシュ   東庄平・訳

「十六歳の少女―ランダ・ハムウィの遺書」 マハムード・ダルウイッシュ 

パレスチナよ/あなたの身の上を/あれこれ心配して涙ぐんでいた私/でも私に何が出きて/悲しみで胸は潰れそう/まだ 子供だから/銃を取ることは許さないと言われて//   パレスチナよ/あなたの勇ましい兵士が野の露を染めて/一人、一人倒れて行くのに・・・・//   でも敵に殺されたあなたの兵士の屍が私に/何をしたら良いか 教えてくれました//   私は今、あなたに命を捧げ 死の床に横たわっています/私は戦ったのです//   パレスチナよ あなたに命を捧げるのに/若過ぎると言うことがあるでしょうか//

(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
「パレスチナよ あなたに命を捧げるのに 若過ぎると言うことがあるでしょうか」
国のために一度だけの命を捧げることを、十六歳のパレスチナ少女は、どこから発想するのか、平和の国とされる十六歳の日本少女とくらべてどうでしょう。夜の新宿か原宿か渋谷、たむろする少女達に、およそ国というものは存在しない。戦争にならないと愛国心も薄れでいく。だけれども、愛国心を失ってもいい、平和は失いたくない。これから命が輝いていくはずだった十六歳のパレスチナ少女のためにも。

「遊撃」390 号より 2010年 10月 新・原詩人 No.32 転載

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2010年11月10日 (水)

文学フリマと文化的活動の経済学

 文学フリマ事務局によると、文芸同人誌の「第11回文学フリマ」の参加者が550件を超えたという。前回は約420件くらいであったろうか。100件以上の増加である。文学フリマは、年1回開催であった。それを年2回にした。参加するのには、年2回新刊を出すので、参加者が減るという感じを受ける。ところが、かえって増えてしまった。
 ひとつには広い会場を設定できたので、参加者申込したものすべてが参加できるようになったことがあるようだ。
 申し込むと確実に参加できるなら、事前に発行計画が立てやすい。抽選があると、抽選で決まってから発行の準備をしなければならず、制約があった。当会も「詩人回廊2011春」を制作し、準備ができた。
 すでに会員の仕事場が人の出入りがあるというので、販売をしてもらっている。無料頒布はしないので、いつも50冊程度だが、それでもかまわない。これまで観察してきた結果をふまえて、独自のシステム開発の過程である。そのなかでの、情勢判断は下記のようなもので、この流れと異なる道を考えないといけない。
 同人雑誌については雑誌「文学界」が同人雑誌評を廃止したのに結びつけて、衰退したのだという意識があるようだ。
 しかし、その一方で同人雑誌は隆盛しており、専門印刷会社が安く制作するシステムを開発している。かなり印刷業界に貢献しているのである。運送業者も仕事が増える。
 もともと同人雑誌の発行と、商業的な文芸雑誌の編集・販売方針とは乖離がある。そのもととなっているのが、本の流通システムである。本を流通させるのには経費がかかるので、ある程度販売量のあるものでないと、流通コスト負担に耐えられない現状がある。
 国内の年間における商業的な出版点数は7万点に及ぶという。これを販売する書店は、2000社あるらしい。これはチェーン店を形成するから店の数は何倍かになるであろう。出版社は2600社ある以上という。
 これらの本を書店に流通させるのが、日販、トーハン、大阪屋などの専門業者である。手数料をとって、委託販売流通ルートに情報を流し、売れ筋を把握し、売れた本のお金を回収し出版社に渡す。それで出版社は経営を維持している。
 ところが近年は、本を書店に置いても売れずにそのまま返品されるものが多くなった。発行部数が多くても売れないのである。
 返本が増加すると、送品時に手間と送料がかかり、返本にも同様の経費がかっかるので、従来の手数料では商売にならないのである。
 そこで、取次ぎの大手では、日販のように書店約2000店に導入している売上げデーター(POS)から、委託送品しても売れない本を把握し、5%程度の仕入れを抑えることで、ムダな経費の削減に乗り出した。
 とくに過去2年間で、返本率が40%を超えるようなジャンルを対象にしているという。
 しかし、これが出版社側からする発行部数を減らすと広告がとれなくなる、という問題につながる。出版社は、広告をとるのに公称発行部数というのを示したりし、これに影響するらしい。

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2010年11月 7日 (日)

詩の紹介 ダンスをする母 長谷川修児

ダンスをする母 長谷川修児

母はダンスを踊っていた 眠り込む母に手をさしのべる老紳士 手をあずけて立ちあがる母 広いフロアに優雅に踊る 母が踊るなんて信じられない 赤い
小さな水玉模様のパジャマを着て 眠った母が踊る 波のように静かに滑っていく 崩れそうになる腰を紳士の腕が優しくささえて未来へと踊っていく

ねじれるベンジャミン
ああ母さんやめて
ダンスをやめてベッドで眠って

(紹介者「詩人回廊」江素瑛)
人間の無力さを感じさせながら、ユーモラスなものになっている。
「紳士の腕が優しくささえて未来へと踊っていく」亡くなった父親か、次の別世界への使者か。老紳士が眠り込んだ母をリードして遠い未来へ連れていく。母がずっと居てほしい気持ちといずれ居なくなる覚悟。作者の不安が募る。
「踊らないで、踊るのをやめて、ベッドにそのままで居て」踊りながら次第に遠ざかる母を止めることもできない作者の叫び。

長谷川詩集「 緋」より 2010年 4月 新原詩人No,29 転載 

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2010年11月 6日 (土)

【Q5】おすすめの警察小説や法廷小説は?【BEST3】

『マークスの山』(高村薫)/『隠蔽捜査』シリーズ(今野敏)/『新宿鮫』シリーズ(大沢在昌)<講談社『BOOK倶楽部メール』 2010年10月15日号>
★『薬師寺涼子の怪奇事件簿』(田中芳樹)警察小説といえるかは微妙ですが…。エンターテイメントとしては最高です。警察の暗いイメージがなくなってしまいました。(千葉県 N様 10代)★『マークスの山』(高村薫)硬派でずっしりと重い警察小説です。格好悪くて最高に格好良い男たちの 物語です。(北海道 K様 20代)★『百舌の叫ぶ夜』(逢坂剛)行きつ戻りつくらくらする展開とドライなハードボイルドぶりがたまりません。(静岡県 B様 20代)★『陪審法廷』(楡周平)アメリカの陪審は、裁判員と違って有罪か無罪かの判断のみ。「有罪だけど、有罪になった場合の刑は重過ぎる…」。そんなとき、有罪と無罪、どちらを選べばいいか? 迷う陪審たちの物語。(大阪府 S様 20代)★『隠蔽捜査』シリーズ(今野敏)普段余り舞台とならない警察庁の内部が描かれていること、官僚である主人公の変人ぶりが魅力的です。(神奈川県 I様 30代)★『事件』(大岡昇平)読後何かと考えさせられる一冊。人を裁くことの難しさがわかり、現在の日本の司法制度を鑑みても今読むべき小説だと思う。(大阪府 I様 30代)★『同期』(今野敏)主人公の宇田川が、先輩刑事に学び意欲的で優秀な警察官になっていく様を主人公の同期が巻き込まれた公安事件の謎解きと絡めて魅せる、非常に面白い小説です。(神奈川県 I様 30代)★『第三の時効』(横山秀夫)警察という組織の中で、真実をつきとめようとする者、組織を守ろうとする者など、様々な人が絡み合っていく様がしっかり描かれていて面白い。(愛知県 O様 40代)★『犯人に告ぐ』(雫井修介)公開捜査という方法や、それに乗せられて動く犯人の様子が上手に描かれていて、息つく暇もなく一気に読みました。(東京都 A様 40代)★『十二人の怒れる男』(スタインベック)裁判員制度の原点ともいうべき古典作品ですが、今に通じる内容が随所にある作品と思います。(東京都 S様 50代)

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2010年11月 4日 (木)

西日本文学展望「西日本新聞」11月02日(火)朝刊・長野秀樹氏

テーマ「草食男子」
八田さん「夢見る文人-磯野徳三郎の生涯」(「周炎」44号、北九州市)、西尾知子さん「豆電球」(「午前」88号、福岡市)
暮安翠さん著作『マドンナの帰郷』(創作研究会刊、北九州市)・翻訳『ロチェスター卿の猿』(暮安翠刊)
「海」第二期4号(福岡市)より牧草泉さん「青春の断層」・有森信二さん「幻日」、「南風」28号(福岡市)より紺野夏子さん「石の家」、「火山地帯」263号(鹿児島県鹿屋市)より折尾由紀子さん「貰ってください」
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年11月 3日 (水)

【文芸時評】11月号 早稲田大学教授・石原千秋

【文芸時評】11月号 早稲田大学教授・石原千秋

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2010年11月 2日 (火)

詩の紹介 「かむ」  西 杉夫

      かむ   西 杉夫
こぶりなカマキリだが/この食いかたはどうだ。/自分より大きなアブラゼミを/前足でがっしりかかえて/頭からかみくだすのだ。/どんな部位もえりごのみしない/ただ順番に/ひたすらのみこんでいく、/音たてるいきおいだ。/いくらか動いていたセミの足が/まったくとまった。/カマキリのこの細身の体の/どこにどう入った/どうおさまっていくのか。/速くはないが/休むことはない、/着実に消えていく、その一直線のくりかえしだ/木の上にくりひろげられる執念に/しばらく見とれたが/こいつの食い気はおさまる気配もない。

夏も終わるに近づいている、/羽のいたんだセミたちが/地面にパサパサもがいている。/そんなのをおさえこんで/こんな食い方をするのか。/味ではあるまい、/ただ食うことがほとばしっていた。/カマキリだったな、/交尾のメスがオスを食うっていうのは。

しばらくあとでそこを通った、/木の下にセミの羽だけが/二枚落ちていた。あいつはいまどこにひそんで/何をねらっているか。

(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
カマキリの食事の光景を恐ろしく描いた。カマキリも人間と同じように新鮮なものが好きらしい。動く蝉を捕獲する。メスは交尾の相手も動けば餌に見なすのかしら。あの人を癒す緑の森のカマキリは弱肉強食の世界に生きている。
ご用心!癒されたがる疲れた君はどこかに潜んでいる光る目に狙われているかも知れませんよ。

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2010年11月 1日 (月)

第5回ポプラ社小説大賞の大賞作「KAGEROU」の作者の齋藤智裕さんは、水嶋ヒロさん

 第5回ポプラ社小説大賞の大賞作「KAGEROU」の作者の齋藤智裕さんは、9月に所属していた芸能事務所を退社した水嶋ヒロさん(26)であることが朝日新聞社の取材でわかった。賞金は2千万円。
 水嶋さんは学生時代にモデルを始め、テレビドラマ「仮面ライダーカブト」や「メイちゃんの執事」などで若手人気俳優として脚光を浴びた。その後、昨年4月には歌手絢香さんとの結婚を明らかにし、同時に絢香さんが病気療養に入ることも発表して話題に。最近も映画「BECK」に出演するなど活躍していた。
 ポプラ社小説大賞はエンターテインメント小説を対象に2006年に始まり、2千万円という高額の賞金が話題にもなった。水嶋さんの作品は今回、1285編の応募作の中から選ばれた。

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文芸時評10月(東京新聞10月27日)沼野充義氏

楊逸「陽だまり幻想曲」生が秘めるおぞましさ/大森兄弟「まことの人々」違和感に満ちた味わい。

《対象作品》トルコのノーベル賞作家・オルハン・バルク「新しい人生」(安達智英子訳、藤原書店)/楊逸「陽だまり幻想曲」(群像)/すばる文学賞・米田夕歌里「トロンプルイユの星」(すばる)/新潮新人賞・小山田浩子「工場」(新潮)/大森兄弟「まことの人々」(文藝)。
             ☆
 この時評のなかに、雑誌「文藝」の公募で最有力候補作がインターネットのサイトを剽窃した疑いが濃厚であったため該当作なしとなったことが記されている。剽窃はよくないのは確かだが、膨大なネット情報のなかから、よくぞ気が付いたものだ。
 また剽窃した者も、これぞというフレーズをみつけて作品に展開したのだとしたら、かなりの技術ではないかと思う。 作品にネットでこういうものが書いてあった、と出典を明らかにし、ネットの作者に了解をとるという方法ではだめだったのか。現代は、コピーをさらにコピーし、増幅させるのがネットの特質なので、これは時代の特徴でもある。対応策を創作手法として確立できないのか。
 他者の作品の利用を明確にしたものを作品中に入れたことを示すパターン形式をつくるとか、したらどうであろう。

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