詩の紹介 「時化る日」 西川敏之
「時化る日」 西川敏之
風化も 足踏みする間もなく/人生は終えに向かい走っている
地下道の道は外の舗道に出る時も無い/遠い日から暴風を避けて探り足で歩み/暗い密室で幾年も計画を企てていた/だがその思想は色盲のような異常さで/社会をみつめては自虐していた
肌に汗はもう流れず/心に新鮮な風はもう吹かない/老体は苦と疲れに無知なのが むしろ不幸なのだ
茶色になった夜の敷布に横たわり/もう朝のこない夜に眠れないままコツコツと/時計の動く音を耳にして
詩誌「岩礁」144より 2010秋 三島・岩礁の会
( 紹介者「詩人回廊」江素瑛 )
暗い灰色の情調の老境を嘆いている詩である。人は子宮から出て、へそのひもを切られた瞬間からすでに一歩ずつ命の終りに向かっている。そこに気づくのは何時からか。
老年に辿りついたら、無欲、無感、無動、無知、座禅の僧になる如くの道もあります。めでたいことだが、「むしろ不幸なのだ」と長生きの時代の悩み。人生にまだ十年の時間があるとしたら、若き日の十年のつもりで楽しめる幸せもあるのではないでしょうか。
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