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2010年10月29日 (金)

同人誌「淡路島文学」第5号記念号(兵庫県島州本市)

【「むらさきの煙 島の辰造」蘇我文政】
 身近に接するお線香の産地が、淡路島の江井というところにあることをこの作品を読んで知った。話は江井というところで、主人公の辰造は、上方の紺屋に奉公に行き、そこでの職人技を捨て、故郷の江井に戻り線香造りの元祖となって地域産業のもとになる。だが、現在はあまり知られず、地元の寺の小さな墓地があるということである。
 漁具や持ち船などの生産手段をもたないで、浜辺の海藻をとって暮らす磯乞食とよばれた人たちの家系から奉公に行った男が、村人のひややかな視線のなかで、線香づくりをはじめ、ついに成功者となる。その仕事の犠牲となった息子の病弱な様子と、家族の運命が身にしみて伝わってくる。
 身振りの大きな逞しい文体で、視座を大きく構えたもの。そこに人間味をもった語り口があり、大変魅力的である。風景の形容も随所に光るものがあり、潮の匂いが全編にただよう。史実をよく噛み砕いて挿入されているらしく、大変面白く読める。素朴さを装いながら、練達の語りといってよいであろう。とにかく勉強になったし、感銘を受けた。

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