詩の紹介 「雨音」 大塚欽一
「雨音」 大塚欽一
書斎の肘掛け椅子に腰掛け 半ば微睡みながら 先ほどから降り始めた雨音を聞いている ぽつりぽつり 屋根を打つ軽妙な音 車庫の屋根を打つ甲高い音 庇を打つ重たそうな音 代わる代わる リズムを取って繰り返される小さな雨の音楽 本降りになってきたのだろうか やがて地面を打つ低く湿った鈍い音が加わる 庇から落ちる雫がキーボードのように規則正しい音を立てる 窓硝子を打つ甲高い音がそれに呼応し 折からの風までが参加して もう忙しい打楽器と弦楽器の小さな協奏曲だ ふと来客でもいるように思って 外を見るか
誰もいない 無人のなか雨だけが降り続けている 庭には小さな水溜まりができて ぴちゃぴちゃぴちゃ ぴちぴちぴちぴち 盛んに雨粒が跳ねている
<後略>
(紹介者「詩人回廊」江素瑛)
忙しい仕事の合間、雨の音を聞く時間を持って、豊かな一刻を手に入れている。雲から地上に落ちてきて、屋根、庇、窓硝子、地上、雨滴の足跡の音を一音符でも逃がさず、耳を傾いて聞き、「ふと来客でもいるように思って 外を見るか 誰もいない」誰かが来ているのではないかという気がするのは、なにかを期待する心の動きなのであろうか。しかし、人は「誰もいない」無人のコンサートホールを一人占めしたい心をもつ。この詩を読んだときには、ショパンの「雨だれ」を聴くのがよいかも知れない。
詩集「湖底の風景」より 大塚欽一 2009年 9月 10日 水戸市 泊船堂
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コメント
数年前の春雨、車中で一人、人を待っている間、
静かに降る雨の音に耳を傾けていました。
雨の音だけに集中しながら、一体、どんな擬態語として
表せばいいのだろうかと、
頭の中に、カタカナを縦に浮かべたことを
この記事読んで思いだしました。
わたしはこちらのブログ、ときどき拝見させていただいて、
初めて書き込みさせていただきました。
ありがとうございます。
投稿: | 2010年9月13日 (月) 04時34分