詩の紹介 「昼の月」 皆木信昭
昼の月 皆木信昭
背なかや腰が曲がって/ふり仰ぐのが苦しい/歳をとったら上を見ずに/下を見て暮らせ/明日の天気など気にすな/と言うことか/腰が曲がった女房が畑に行って/採ってくるきゅうりまで曲がっている/久しぶりに旧友に便りを書く/まっすぐに書いたつもりが曲がっていて/折り返して受けとった返事も曲がっている//
足や腰は言わずもがな/小鬢をかついで首が曲がっているのか/顔がゆがんで斜めになって/鼻すじや口元もまともでない年寄りばかりの/介護予防教室
結んで開いて/開いて結んで/伸ばしてちぢめて/ちぢめて伸ばして/いいち
に いいち に 手足の体操/結んだつもりが結んでなくて/伸ばしたつもり
が伸ばしてなくて/指も腕も曲がったまんま//
空には曲がった昼の月
(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
年をとるほど背筋が曲がる。頭を使って知恵を出す一生で、脳みそが巨大になる。重くなった頭が土に近づき、土に帰ろうとするのか。もともとまっすぐな人生はありえないのかも知れません。曲がったキュウリのように自在で自然の風味があり、曲がりを直視するまっすぐな視線が際立っている。
皆木信昭詩集・「心眼」より 2010年9月 コールサック社 東京都板橋区
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