詩の紹介 「電話の向こう」 戸台耕二
「電話の向こう」 戸台耕二
昼間/家にいると/煩わしくらい/日に何度となく電話がかかってくる/その多くがセールスである
資産を殖やさないか/という証券会社には/これ以上お金があっても使い道に困る/と答える/もちろん嘘だけど/万一のときのために加入しないか/という保険会社には/受取人がいないから/と事情を説明する/これは本当だ/アンソロジーに詩を載せないか/という出版社には/原稿料はいくらか/と反問する/相手は言葉に詰まった揚げ句/掲載料を頂きたい/と話しはまるで噛み合わない/そのほか/墓地を買わないか/当分は死なないつもりだから必要ない/畳替えをしないか/そもそも畳の部屋がない/などなど/電話のむこうからの問いかけに次々と答え/日は過ぎていく
あるときは/まだ届いてないのだが/と厳しい口調でなじられ/振り込め詐欺がと身構えたが/よくよく聞いてみると/新聞販売店への間違い電話だった
(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
電話セールスに対していちいち丁寧に対応するのが面白い趣向になっている。うるさく鳴っているセールス電話は、景気の良し悪し関係ない。一生懸命に生きようとして、うごめく人間の闇のような存在感を意識させる。
潮流詩波の会「潮流詩波223号」により 2010年10月東京都中野区潮流出版
| 固定リンク
コメント