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2010年8月 6日 (金)

新刊「トクソウ事件ファイル」シリーズの著者  牧野修さん

 よほど犯罪者的なオーラを放っているのか、自転車に乗ってるとやたら職務質問される。最初は「うっひょ~、これが職質っすか」と心の中で小躍りしていたのだが、頻繁にされるとさすがに飽きてくる。やることにしたって、自転車の登録番号を調べたらそれでおしまいだ。両手を壁につけろと言われ て警棒で尻を殴られたこともない。びっくりするぐらい紳士的だ。いや、別 に暴力的に取り調べされたいと思っているわけではないのだけれど。(講談社ミステリーの館2010年8月号)  
 私の個人的な警察とのかかわりというと、所詮はこの程度だ。それでも犯罪にかかわる小説を書くことが多いので、警察の出てくるシーンは幾度も書いていた。それなりに資料も調べた。だから今回の小説のネタを考えたときも、特別、警察が舞台であることなど意識していなかった。甘かった。資料を調べても調べても手応えがない。資料は大量に存在する。が、私の頭の悪さと情報処理能力の低さから、どうにも具体的な警察官の日常を自分のものにできない。組織の有り様がなんだか理解しきれない。書けないじゃん!
  安全ベルトをしていなかったらフロントガラスを突き破って飛び出すほどの勢いで筆が止まった。筆は使ってないけど。キーボードの上に指が乗っかったまま動かない。ストーブに手を翳している時でももうちょっとは指を動かすだろう。
 とはいえ小説を書いて暮らしているので、書けないから書けるまで待つ、というわけにもいかない。飢えて死ぬからである。だから別の長編を書いたり、短編を書いたり、連載をこなしたりしつつ時間ばかりが経つ。というわけで、この二冊の小説は、発案から書き終わるまで、最も時間の掛かった小説になってしまった。とはいえこれは作者の都合。同じ年月をかけて読め、とは言わない(当たり前か)。サクサク読み進んで、あっという間に読み終わり、面白かった、と本を閉じてもらえれば、作者としては一番嬉しい。
 ところで私と警察との唯一の接点、職質であるが、にこやかな応対をすればするほど時間が掛かることが経験上わかっている。一度満面の笑みで「どうぞ何でも訊いてください」という態度で接していたら、ちょこちょこと無線でどこかに連絡し始めて、どんどん警官が増えていった。時間稼ぎなのか質問も微に入り細に入り、態度もなんだか高圧的だ。面白いものだからさにニコニコして余計なことまで話しつつ応対していると、いつの間にか五、六人の警官に回りを囲まれていた。そこまでいかなくとも、にこやかで協力的な態度だと、疑われて時間が掛かるのは間違いない。ところが、無愛想な態度で、苛立ちを露わにしていると、あっという間に職質は終わるのである。
 この職質豆知識、今後職質されたときの参考にしていただければ幸いである。<牧野修>

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