« 「法政文芸」6号(東京)だんだん良くなる | トップページ | 活字文芸誌「Zowv(ゾヲヴ)」22号(東京) »

2010年7月26日 (月)

【文芸時評】8月号 早稲田大学教授・石原千秋

「同窓会小説」に複雑な思い (1/2ページ)(産経ニュース10.7.25)
 今月は、少しばかり複雑な気持ちで2編の小説を取り上げたい。以前僕はこの欄で、「同人誌小説」というジャンルがあるのではないかとやや皮肉混じりに書いた。同人誌の小説には、ある種のパターンがはっきりあったからである。その1つが、同窓会を契機にかつての思い人と淡い関係が続くもの。そこには初恋への強い思い入れがある。先に「複雑な気持ちで」と書いたのは、プロの小説家であればそういうアマチュアがよく使う設定を乗り越えていなければならないと思ったからである。
 綿矢りさ「勝手にふるえてろ」(文學界)は、26歳で処女のOL江藤良香が、友人の名前を騙(かた)って中学時代の同窓会を開いてしまう話。彼女には中学時代から密(ひそ)かに思っていた人がいた。彼を「イチ(1)」と呼んでいる。一方、江藤良香には交際を求める同僚がいる。江藤良香は彼を「ニ(2)」と呼んでいる(正確には、心の中でそう呼んでいる)。江藤良香は「イチ」に思いをそれとなく告げるが、はかばかしい反応はない。そうこうしているうちに、江藤良香は「ニ」を受け入れる気持ちになっていったというお話。最後になって「ニ」の名前が、霧島と書かれる。「さあ私は、愛してもいない人を愛することができるのか?」。これが江藤良香の気持ちの整理のしかたである。
【文芸時評】8月号 早稲田大学教授・石原千秋「同窓会小説」に複雑な思い

|

« 「法政文芸」6号(東京)だんだん良くなる | トップページ | 活字文芸誌「Zowv(ゾヲヴ)」22号(東京) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「法政文芸」6号(東京)だんだん良くなる | トップページ | 活字文芸誌「Zowv(ゾヲヴ)」22号(東京) »