第143回直木賞の林真理子委員選評
発表前ツイッターに情報/文学賞にもデジタルの波/候補作を電子書籍化
第143回直木賞は15日、中島京子さんの『小さいおうち』に決まった。選考委員在任中の4月に亡くなった井上ひさしさんへの献杯で始まった選考会は、他2委員の退任もあって7人での密度の高い議論となったが、その一方で、発表前にツイッターで受賞情報が出回るなど、伝統ある賞を巡るデジタル時代の環境変化を印象づけた。
選考会後、記者会見した林真理子委員は受賞作を、「戦争が始まっても豊かな文化を持っていた山の手の中産階級の家庭が、リアル」と講評。当時の資料の作中への取り込み方も、「なめらかに文章の中に入っていた」と評価した。受賞を最後まで競った道尾秀介さん『光媒の花』については、「(4度連続の候補で)1作ごとに力をつけてきたが、この作品はもう一つ魅力に欠けた」という。
他の候補作では、姫野カオルコさんの『リアル・シンデレラ』は「破綻(はたん)した部分がある」という声が上がる一方で、「『その破天荒さこそが姫野さんの魅力』と強く推す意見もあって賛否両論」。本屋大賞受賞作の冲方丁(うぶかたとう)さん『天地明察』は、「才能のある新人」との評価で一致したが、「もう1作見てみたい」との結論に。
また、芥川賞・直木賞の受賞作が、15日夜、発表前に両賞を運営する文芸春秋のホームページに掲載される手違いがあった。主催の日本文学振興会によると、受賞作決定後、候補全員に電話連絡してから、記者会見場で発表する手はずだったが、その前にツイッターで情報が飛び交い、「担当者がプレッシャーに負けアップしてしまった」という。
同会では、今後、発表まで十数分かかる時間を短縮する方針だが、主催者側以外の関係者が、候補から直接得た情報をツイッターに流すことまでは規制できないという。
このほか、冲方さんが都内で開いた異例の「大・待ち会」にはテレビカメラ10台、出版、映像関係者ら約150人が詰めかけて結果を待ち、光文社は、姫野さんの候補作の電子書籍版を15日まで期間限定発売。候補になること自体をプロモーションに結びつける傾向も強まった。(佐藤憲一、村田雅幸)(2010年7月20日 読売新聞)
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