<詩の紹介> 「青い母」 山本聖子
港は
そっと抱いている
旅立てなかった真昼の夢
海面下七メートルの
まだ幼い曲線をえがく水の宮
うす青い温塊を
川からの離岸流で酔わせないよう
霧をはらう笛で起こさないよう
北西の寡黙をすこし
南南東の情をすこし混ぜ
二十日月が満ちるのを待っている
わたしは
そんな港から海へ出た
詩誌「まひる」 第6号より 2010年4月あきる野市・アサの会
<紹介者「詩人回廊」江素瑛>
川からの離岸流で酔わせないよう/霧をはらう笛で起こさないよう/
とやさしい気持ちを込めた若い母の子守唄と祈りである。
胎内の記憶というか、羊水の記憶というか、自分を孕む若い母親の気持ちを、満月の出航を待つ胎児の心を、作者は表現しているのか。なぜか秘められた内なる悲しみが感じられる。
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