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2010年6月22日 (火)

著者メッセージ:『老猿』 藤田宜永さん

 物語は厳冬期の軽井沢から始まります。雪が降り、急坂が凍結すると、人里離れた僻地と化してしまう高台に、主人公の男が住みつきます。彼はリストラされ、家族とも別れた還暦男です。
  近所に住んでいるのは、気難しく、すこぶる感じの悪い老人だけ。何となく高村光雲の『老猿』の雰囲気をも持っているので、主人公は密かに老猿と名付けます。しかし、老人は光雲の『老猿』のように猟などしません。家に引きこもっていて、酒ばかりくらっています。
  そんな隣人しかいない高台に、得体のしれない中国女がやってきたことで、主人公の周りが、にわかに騒がしくなります。そして、彼らと親交を深めていくうちに、中国女の秘密、そして老猿の謎が解き明かされていきます。
  最後の方で、三人は北京に行きますが、そこで起こることは伏せておきましょう。六十年間、ごく普通の人生を歩んできた男が、老猿と中国女の破格な生き方に誘われ、逸脱することの愉しみを知る物語です。
 恋あり、ドンパチあり、論争ありというハードボイルド風の作品ですが、男性だけではなく、女性が読んでも愉しめる人間ドラマに仕上がっていると思います。盛りをすぎた人にも、すぎていない人にも、手に取っていただきたい、十二年振りの書き下ろしです。(藤田宜永)(講談社『BOOK倶楽部メール』 2010年6月15日号)

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