同人誌「孤帆」(こはん)16号(神奈川県)
【「赤い響き」奥端秀彰】
奔放な生き方をしてきた父親。息子がその人生と死後の想いを描く。晩年に案外とおとなしく過ごしていた父親が写真に凝り、高級カメラを残す。そのデーターを取出してみると、ある山頂から見た赤い夕陽が見事に捉えられていた。
父親の人生と息子の関係。息子のそこはかとない喪失感が短いなかにバランスよく描かれている。隠れたテーマとしては、写真の表現者である父親の表現が息子にどう伝わったのかというところがあり、それを追及すると、単なるファミリーストーリーから脱皮した芸術表現の伝達という普遍性をもつテーマにもなったのではないかと思った。
【「晩夏に」北村順子】
季節の日本的な花鳥風月の描写を柱に、人の生き方とその過程を並行的に描く。人も自然の変化のなかにあるという明確な視点が作品をすっきりとさせている。
【「男の世界」塚田遼】
男であると、あらゆる異性に種を振りまかねばならぬーーという肉食系男子の遺伝子に突き動かされ、女性をものにしていく過程を描く。女性のタイプを書き分けるのが手際よく面白く、楽しく読ませる。哀歓も含んで、純文学への足がかりも残している。
【「欲望と性格」淘山竜子】
主婦と独身女性との現代の生活と意識の違いを書きわけて手際よく描く。女性らしいリアリズム手法に凝っているのか、現代性を重視するためなのか、作品の狙いでどの範囲を描くか、創作へのビジョンを読者へゆだねるようなところがある。小説的リアリティと現実のリアルとの違いはどこにあるのかな?と思わせるものある。(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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