同人誌「奏」2010夏・20号(静岡市)
【「ウキワ物語」田代尚路】
22歳の息子をもつ主婦の生活を描く。大学生の息子と食事をすること。息子のブログを読んでいること。結婚生活。スポーツジムのインストラクターのこと。不自由のない恵まれた主婦の立場になって、失われた若さを自覚し、なにか輝くものをつかみたいという心象を描く。ストーリー性をもたせず雑然と描いているのかと思ったら、しっかりテーマをもった表現に読めた。言うにいえぬところの表現力に感心させられるものがある。折角だからもう少しその精神を追求して欲しいところもある。
【「クレオールへの夢―安部公房の文学言語」戸塚学】
多種類の民族言語が混交する言葉が生まれる背景には、文化交流だけでなく国家および国家戦略による侵略や占領がつきまとうことが多い。カフカやベケットをクレオールと見た安部公房の視点を解説して興味深い。
【「評伝 小川国夫―第二回」勝呂奏】
小川国夫の同人誌「青銅時代」のことや、大田区大森の教会や新井宿の親戚のことなど、安部公房と同じく城南地域に縁があるのを知って驚いた。小川国夫が志賀直哉に傾倒していたのは知っていたが、ヘミングウエイにも興味をもっていたことを知り、彼の文体から納得できるものがあった。とにかく長いものになりそうだ。途中まで読んで感想でも書こうと思っていたが、ついに終わるまで読んでしまった。「奏」発行所=〒420-0881静岡市葵区北安東1-9-2。(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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