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2010年5月 6日 (木)

「曼珠沙華」で、老いと不条理の重奏を描いた鶴岡一生さん=第53回農民文学賞

第53回農民文学賞(下)「曼珠沙華」で、老いと不条理の重奏を描いた鶴岡さん
 文芸評論家の秋山駿氏は、体調の都合で贈呈式には出席しなかったが作品評を寄稿。「実にしっかりとした『描写』があった。これは、最近の文芸誌をにぎやかにしている新鋭の作品にもあまり見られぬもので、わたしは大いに感心した。冒頭は、老人が一人で山を登って行くところだが、その歩みとともに『(トガの大木の)太った幹の弾けた樹皮の裂け目から幾本もの枝を養って縦横に広がったその姿』やその根株から見下ろすと、平地から眺める山々のそれとは違って、『ひと山ひと山がむくむくと盛り上がって互いを押し合い圧し合いししていた』という光景が、次々に現れて、これが小説描写というものだ」と賞賛を送る。

 鶴岡一生さんは、出身は大阪で、早稲田大学社会科学部中退。早稲田文学新人賞佳作の文学歴がある。現在は長野県上田市で農業、炭焼きに従事し「武石炭人会」代表でもある。受賞のことばも炭焼きの話から入る。

 「幾日も山に入って木を伐採し、玉に刻み、斧を入れ、さまざま苦労をして、ようやくのこと準備が整い、さあこれからだというとき、『この先、何窯も焼かなければ、良いものは出ない』と炭焼きの師匠は言った。じゅうぶんに窯が温まらなければ、ほんとうに良い炭は焼けないということらしい。それまでは、良い炭にはならないのを承知で何窯も焼きつづけなければいけない。ずいぶんと遠回りをするものだと思った。事実、そうするより道がないのだから。覚悟をきめるほかない」とする。

 さらに「地に足のついた小説を書きたいと思って、信州の山奥に家族ともども越してきて4年。理想とするよい小説にはまだ遠いですが、このたび、賞をいただけましたことには、大変勇気づけられました」と語った。

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