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2010年5月19日 (水)

書評・小泉今日子(女優)=『ほしいものはなんですか?』(益田ミリ)

(2010年5月17日 読売新聞)―――人生、なにか足りない。
 今あなたがほしいものはなんですか?と質問されたら、私はなんて答えるだろう? 労働の楽しみも、一人の時間の心地良さも、気の置けない女友達も、とりあえず今を生きるために必要なものを十分に手に入れてしまった私にはほしいものなんてないのかもしれない。でも、心のどこかで自分の人生には確かになにか足りない、とも感じてしまう日々でもある。
 可愛らしいキャラクターと肩の力の抜けた優しい画風に油断していたら何度も痛いところを突かれてしまった。小学生のリナちゃんはいつも心の中でなにかを考えている。ときどき胸に湧(わ)いた疑問を大人達に投げ掛ける。「ママ、40歳は嫌(いや)なの?」。専業主婦のミナ子さんは夫と子供とそれなりに幸せに暮らしているけれど、このまましぼんでいくのかしら?と、40歳の誕生日を素直に喜ぶことが出来ないでいる。ほしいものは「存在感」。「タエちゃんは、なりたいものになれなかったの?」。子供の頃の夢が一つも叶(かな)っていない叔母、35歳独身OLのタエ子さんは、地道に働いてローンでマンションを買ったものの、お嫁さんになる夢は叶ってもいいんだけど……と呟(つぶや)いている。ほしいものは「保証」。どちらの気持ちも痛いほどわかる。
 子育てをしている友達と会っている時、お互いに少し気を使って会話を選ぶ瞬間がある。ないものねだりと分かっていながら、それぞれの環境を羨(うらや)ましいと思ってしまうこの感覚、男の人には一生分からないんだろうなと思う。アラサーとか、アラフォーとか元気な言葉の響きで自分たちを盛り上げているけれど、それなりの悩みがあるのだ。男の人にも是非読んで頂きたい。で、女心をもう一度研究して頂きたい。評・小泉今日子(女優) (2010年5月17日 読売新聞)
『ほしいものはなんですか?』(益田ミリ◇ますだ・みり=1969年、大阪府生まれ。イラストレーター。著書に『すーちゃん』など)ミシマ社 1200円

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