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2010年4月11日 (日)

書評・小泉今日子(女優)/朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社)

(2010年4月5日 読売新聞)
どんな音、聞いた?
 高校のバレー部でキャプテンを務める桐島が突然部活をやめた。その小さな事件は数人の同級生達の心の中にある変化をもたらす。それぞれの氏名で章立てされた物語からは、それぞれの放課後の音、部活の音や心の音が聞こえてくる。
 放課後の学校はたくさんの音で溢れていた。私は、どの音の中にいたのだろうと考えると、ソフトボール部をサボって友達の部屋で聴いていた洋楽のレコードの音が蘇ってきた。あの頃は自分のことばかりに関心があって身の回りの音しか聞こえていなかったけれど、音の数だけ青春の物語があったのだと今ならよくわかる。
 主人公達は、高校生活の中でいつの間にか見えない線を引かれ階層化されていることに気付く。カッコイイ、普通、カッコ悪い、大きく三つに分けられた階層の中、自分はどこにいて、どうあるべきかを考え出す。それは大人の入り口への第一歩なのだ。楽しいばかりの毎日の中に少しずつズレを感じ始め、この先に待つ大きな世界に不安や焦りを抱いて無性にイライラした時期が私にもあった。ううん、今でもある。第一歩を何度も繰り返し踏み出してちょっとずつ大人になればいいのだと、当時の私と小説の中の高校生達に言ってあげたい気分になった。
 桐島くんは最後まで人の会話の中にしか登場しない。渦中の人はその時どんな場所で、どんな音を聞いていたのか、本を閉じた後に想像するのも楽しかった。読書ってやっぱり最高!
 ◇あさい・りょう=1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中。本作で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

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