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2010年4月30日 (金)

文芸月評(読売新聞2010年4月27日) 自己実現の場失った鬱屈(文化部 待田晋哉)

《対象作品》村上春樹氏(61)『1Q84』BOOK3(新潮社)/中森明夫氏(50)「アナーキー・イン・ザ・JP」(新潮)/松井周氏(37)「そのかわり」(すばる)/喜多ふあり氏(29)「望みの彼方」(群像)/柴崎友香氏(36)長編「寝ても覚めても」(文芸)。

 東京・渋谷の「TSUTAYA」で16日未明、村上春樹氏(61)『1Q84』BOOK3(新潮社)の発売を取材した。若者の集まる店は本よりDVDやCDのフロアが混雑し、向かいのビルに歌手、浜崎あゆみの巨大広告があった。電子書籍が広まり始め、本の将来がよく見えない時代だ。紙の側に立つ作家として、若者向けエンターテインメントとしても成立する作品を意識したのではないか。
  BOOK2の終盤で、宗教教団リーダーを殺害して追い詰められ、拳銃を口に突っ込んだはずの<青豆>は、実は生きていた。まるで人気女優が主演する大ヒット映画の続編のような展開だ。
 前2巻まで、<青豆>ともう一人の主役<天吾>の章を交互に繰り返した物語は、BOOK3に入り、教団から派遣された中年探偵<牛河>の章から始まる。探索の過程で彼が過去の内容を説明しながら進むのも、前作を見なくてもストーリーが分かるシリーズ映画の手法を連想させた。
 
 中森明夫氏(50)「アナーキー・イン・ザ・JP」(新潮)は強烈な長編だった。17歳のにわかパンク・ロック少年に、関東大震災の混乱の最中に虐殺された無政府主義者、大杉栄(1885~1923年)の霊が住み着くのだから。

 躍動する大杉を一層まぶしく見せるのは、現代に広がる鬱屈(うっくつ)の気分である。不景気なのか、人間の絆(きずな)が薄れたためなのか。若手作家の小説には、自己実現の場を社会で見つけられず悶々(もんもん)とする青年の姿を描くものが目立つ。

 30歳を機に「新しい気持ち」になろうとして挫折する会社員を描くのは、松井周氏(37)「そのかわり」(すばる)。喜多ふあり氏(29)「望みの彼方」(群像)は、細々と小説を書く29歳が主人公だ。英会話学校の外国人講師を殺害し逃亡生活を送る男に自分を重ねてスリルを感じ、自分が「無」でないことを確かめようとする姿が切実である。

 柴崎友香氏(36)が、長編「寝ても覚めても」(文芸)を発表した。1999年に22歳だった女性の10年に及ぶ恋愛の軌跡を追う。この間、デジタルカメラやカメラつき携帯電話などの普及で、恋人の顔の映像を簡単に複製できる世の中が到来した。この現象が、直接会う喜びをどう変化させるか。

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2010年4月27日 (火)

『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)が2010大学読書人大賞に決まる

5大学文学部による2010大学読書人大賞は『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)が16点を獲得し大賞に決まった。2位は『植物図鑑』(有川浩=11点)、3位は『1Q84』(村上春樹=10点)、4位『あるキング』(伊坂幸太郎=7点)、5位『ボトルネック』(米澤穂信=6点)となった。同賞は「大学読書人大賞」実行委員会と出版文化産業振興財団との共催によるもの。
「大学読書人大賞」実行委員会委員は次の通り。委員長 白土貴裕(中央大学文学会)。副委員長 高樋未来(法政大学文学研究会)。委員 新田柊平(中央大学文学会)。青木岬平(一橋大学文芸部)、内田太朗(同会)。飯島初音(法政大学文学研究会)。大西蘭子(立教大学文芸思想研究会)、柳澤真美子(同会)。綿貫美紀(早稲田大学現代文学会)。

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2010年4月26日 (月)

第30回横溝正史大賞は伊与原新さん「お台場アイランドベイビー」

 第30回横溝正史ミステリ大賞(角川書店主催)は、伊与原新さんの「お台場アイランドベイビー」に決まった。賞金は400万円。また、テレビドラマ化を前提としたテレビ東京賞には、佐倉淳一さんの「ボクら星屑のダンス」が選ばれた。賞金100万円。伊与原さんは昭和47年、大阪府出身、富山市在住。佐倉さんは39年、浜松市出身、同在住。

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2010年4月25日 (日)

第53回農民文学賞は国梓としひでさん(沖縄)と鶴岡一生さん(長野)

 第53回の農民民文学賞(主催・日本農民文学会)は、沖縄県島尻郡の国梓(くにし)としひでさん(61歳)の小説「とぅばらーま哀歌」と長野県上田市の鶴岡一生さん(42)の小説「曼珠沙華」の2作に決まった。受賞作は季刊「農民文学」289号・春の号に掲載されている。
 最終候補作品は受賞作のほかに、小説部門で原田武信さん「癖」(岩手県)、清水利也子さん「高倉騒動記」(岡山県)、詩集で磐城葦彦さん「不滅の豊饒」(神奈川県)、増田庄三郎さん「野に生きる」(千葉県)、評論の大金義昭さん「薄井清文学アルバム」(埼玉県)が選考対象になった。

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2010年4月24日 (土)

鳩山政権と基地問題は日米安保条約解消の歴史的なはじまりであろう

 現在、鳩山政権と基地問題について、新聞やジャーナリズムでは、鳩山政権と基地問題を冷ややかに報道している。日本のメディアがこれほど、自民党政権がごまかして実施してきた米国服従の姿勢をよろこんでいたとは、まったく信じられないような気がする。
 一体、日本人は、いつまで現在のような日米安保条約を維持するつもりなのであろう。自分はこの鳩山政権の問題提起は、戦後から独立して、日米安保の解消する将来のきっかけになると見ている。サルでもわかるその論理を見つめない思考停止の(ふりをした)メディアの情報姿勢ぶりには、あきれるばかりだ。
 米国が鳩山政権を罵倒するのは、米国の都合である。それを喜んで報道する新聞の知らないふりは、とてつもなく、限度を超えている。日本には日本の都合がある。たとえ罵倒されようとも自国の主張をするべきだ。
 鳩山政権がいかにウダウダ、もたもたしようと、これだけ長く続いた米国服従意識を変えるための努力は、日本人が自らしなければならない。軍事が必要なら、一億人総貧乏になっても自国民の負担でまかなうのも仕方がない、という覚悟がいる時代ではないのか。
 アメリカが候補地は住民の了承がなければだめだと、本当にそう言ったのか。
 それなら、鳩山政権は、日本の全都道府県を基地の候補に挙げて、アメリカに提示すべきだ。
 沖縄でなければならないという理由はない。どの自治体もいやだといったら、安保条約の終焉となる。鳩山総理は、日本で米軍基地に賛成する人はいないので、日米安保を解消しましょうと言えばよい。
 どんな条約であろうと、いつかは見直しすべきで、鳩山政権のやることは、それほどおかしいとは私は思わない。
 日本も米国も国の繁栄の峠を越えた。凋落の時代に向っている。落ちぶれた国は根性が悪くなる。いずれ利己主義の本性を現すであろう。そろそろ手を切る準備が必要だ。

 もしという仮定を使って、損得勘定をすれば、安保条約を今、解消すると米軍の抜けた分、自衛隊員が不足する。失業率が低くなる。また、ひきこもりの若者は法律で自衛隊入隊期間を設けることで、将来のホームレス化が防げる。
 アメリカから輸入している戦闘機やミサイルを至急に自国開発する必要があるので、軍需産業が盛んになり経済に活気がでる。
 農業は農薬に汚染された穀物の輸入がなくなり国産米が主流になる。日本は自動車と家電の米国輸出の代償に農業をアメリカに売っていた。本来、耐久消費財メーカーは得た利益から農家に保証金を払うべきだったのだ。
 子供手当てなどのバラマキをしなくても景気回復するであろう。
 日本は現在、アメリカの戦争に協力して戦時中であるが、その事実に目をそむけている。そうしたごまかし意識から開放されるであろう。

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2010年4月23日 (金)

雑誌「旅かばん」創刊号(福岡市)

 「旅かばん」(発行:花書院)というリトルマガジン。内容はさばさばしていて、面白く読めそう。書き手のメンバーも大阪、名古屋、東京と九州外からもいる。小説、紀行文、報告など、生活の知恵から海外トラベル日誌など活き活きとした読み物がある。

【「『日本人化』と沖縄方言論争」石津川八生】
 鳩山政権が沖縄の嘉手納基地の移転を試みている時期に、いまのタイミングにあった論文である。
 日本人の沖縄人に対する差別意識と傲慢な態度が、どこから出ているかを、知るヒントになることが、この論文に出ている。かつて沖縄・琉球王国は、中国には中国に従属したふりをする姿勢、日本には日本に従属したふりをする姿勢をする2面外交で国の平和を維持してきた。日本向けの儀式用具と清国王朝向け儀式用具の存在があるという話をきいたことがある。たしか、江戸時代には昆布の産地として経済的にも潤っていたはずである。
 その琉球文化を日本政府がどのように同化させ言葉を変えてきたが、かなり詳細に調べて資料にしている。良い企画である。

 新聞テレビは、沖縄から移転候補地の、反対の声を盛んに報じ、同時に鳩山政権を揶揄している。候補地の「自分の島を戦場にするのは許せない」という報道を目にするたびに、それじゃ沖縄なら、どうしていいのか?といいたくなる。沖縄県人に対しての差別意識をことさらに助長して報道するメディアの失礼な姿勢はどうだろう。あきれかえる。
 建前ではきれいなことをいいながら偽善的な報道姿勢は、アメリカの外交姿勢とよく似ている。早く本性を現したのは、沖縄人にとってもいいことかもしれない。

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小林多喜二18歳デビュー作「スキー」全集未収録発見

 小林多喜二の全集未収録の小説が掲載された「国民新聞」のコピー 北海道小樽市立小樽文学館は21日、日本プロレタリア文学を代表する作家、小林多喜二(明治36~昭和8年)が小樽高等商業学校(現小樽商科大)在学中の18歳の時に「国民新聞」に投稿し、掲載された全集未収録の小説が見つかったと発表した。
 小樽文学館は「完成した小説としては最初期の作品」と評価。館報に収録し、公表する。
 文学館によると、小説のタイトルは「スキー」。400字詰め原稿用紙6枚半の短編で、新聞は大正10年10月30日付。事実上のデビュー作で「小説倶楽部」(10年10月号)掲載の「老いた体操教師」とほぼ同時期に書かれた。
 主人公は多喜二が卒業した小樽商業学校(現小樽商業高)の実在する体育教師で、2作品共通。
 「スキー」は、日露戦争で負傷した高齢の体操教師「T先生」が授業のため、不自由な体をおして、生徒に笑われながらも懸命にスキーを学ぶ姿を描き、社会的弱者に寄せる多喜二の思いが伝わるという。
 政治思想史を専攻する岡山大の大学院生が昨秋、偶然発見。「全集未収録の作品ではないか」と問い合わせを受けた文学館が調査していた。(産経ニュース2010.4.22)

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2010年4月21日 (水)

第30回横溝正史大賞に伊与原さんの「お台場アイランドベイビー」

 第30回横溝正史ミステリ大賞(角川書店主催)は、伊与原新さん(37)の「お台場アイランドベイビー」が大賞(賞金400万円)、佐倉淳一さん(46)の「ボクら星屑のダンス」がテレビ東京賞(同100万円)、蓮見恭子さん(44)の「薔薇という名の馬」が優秀賞(同30万円)に選ばれた。

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2010年4月20日 (火)

「新 同人雑誌評」「三田文學」春季号(2010.05.01発行)

対談「新 同人雑誌評」勝又浩氏・伊藤氏貴氏
冒頭の対話中、「AMAZON」の「われらの時代」(むとう都真子」)を引用
今号で取り上げられた作品
塚越淑行「三十年後のスプートニク」(「まくた」266号、横浜市)/田中憲子「欠落ぴーす」(「港の灯」2号、神戸市)/しみず黎子「喪失」(「私人」67号、東京都)/和木亮子「柿色の風呂敷」(「人間像」179号、北海道北広島市)/野坂喜美「悪食仲間」(「米子文学」56号、米子市)/倉永洋「早春の俤」(「雪渓文學」59号、大阪市)/権野宏子「来月同じ時間にここで」(「AMAZON」438号、尼崎市)/野沢薫子「帰郷」(「長崎文学」62号、長崎市)/浅田厚美「シミュラクラ・クラリス」(「別冊 関學文藝」39号、西宮市)/南綾子「時計草」(「素粒」7号、富山市)/二上法幸「パンチョの青い空」(「樹林」539号、大阪市)/米沢朝子「点景の旅人」(「蒼空」14号、高知市)/木戸順子「たずね人」(「弦」86号、名古屋市)/市川しのぶ「月に祈る」(「弦」86号、名古屋市)/谷口あさこ「タネを起こす パンを焼く」(「せる」82号、東大阪市)/喜勢和子「夜汽車」(「湧水」44号、東京都)/飛田一歩「悪癖」(「湧水」44号、東京都)/木下恵美子「死の島」(「詩と眞實」727号、熊本市)/難波田節子「遺産の周辺」(「季刊 遠近」38号、東京都)/笠原さき子「老らく」(「黒馬」37号、長野県岡谷市)/蒲生一三「溶けてゆく街」(「文芸中部」82号、東海市)/新村苑子「律子の舟」(「文芸驢馬」58号、東京都)/坂井真弥「甲羅」(「文藝軌道」11号、神奈川県中郡)/興津垚四郎「父の橋」(「丁卯」26号、沼津市)/中井正文「文芸にこだわる手記」(「広島文藝派」24号、広島県廿日市市)
ベスト3
勝又氏:「三十年後のスプートニク」(「まくた」)、「悪食仲間」(「米子文学」)、「遺産の周辺」(「季刊 遠近」)
伊藤氏:「悪食仲間」(「米子文学」)、「死の島」(「詩と眞實」)、「三十年後のスプートニク」(「まくた」)
推薦作:「三十年後のスプートニク」
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年4月19日 (月)

村上春樹「1Q84」3、累計部数は314万部に達する

 村上春樹さんの長編小説「1Q84」BOOK3(新潮社)が16日、全国一斉発売された。BOOK3はすでに70万部まで増刷が決定。累計部数は314万部に達したという。
 この本は出版業界のひとも読んでおかないと仕事にさしつけかえるそうで、会った人の誰かがあの重い本を持っていたのに驚いた。
≪参照:暮らしのノートPJ・ITO文芸

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2010年4月18日 (日)

同人誌時評「図書新聞」(2010年4月3日)たかとう匡子氏

《対象作品》「俳句雑誌塵風」第2号(塵風句会)「風景」特集より山口東人、「スーハ」第6号(よこしおんクラブ)「私の街角」特集より安川奈緒
「新しい天使のための…」第6号(エッセンティアの会)より作田教子「飢え、乾き、あるいは渇望(一)」、「沈黙」第39号より宮内憲夫「一本足の魂」、「ひょうたん」第40号(ひょうたん倶楽部)より水嶋きょうこ「旅立ち(他二篇)」の「犬」
「文芸誌O」第45号(文芸誌Oの会)より寺山あき「ぬくぬく」、「海峡」第23号より瀬川笙子「沈まぬ錨」
「詩論へ」第2号(首都大学東京 現代詩センター)。
)。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年4月17日 (土)

文芸同人誌評「週刊読書人」(2010年4月9日付)白川正芳氏

《対象作品》重本恵津子「高齢者劇団二〇〇九年(「群青」76号)
「新しい天使のための」6号より大坪れみ子「現代詩の課題」、南夏子「何者でもない者」
佐多玲「○△□」(「渤海」59号)、岩代明子「水を買いに行く」(「ignea」2号)、盛武蘭緒「現代文学とロスジェネ論壇」(「メルキド」6号)
「古代文化を考える」55号より山中光一「日本語の変遷を考える」
加地慶子「文人」(「まくた」266号)、古木信子「月、犬、そして雨。」(「季刊午前」41号)、穂積実「軍歌大好き少年」(「白雲」29号)。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年4月16日 (金)

第36回川端康成文学賞は高樹のぶ子さん

 優れた短編小説に与えられる第36回川端康成文学賞(川端康成記念会主催)は15日、高樹のぶ子さん(64)の「トモスイ」(「新潮」平成21年4月号掲載)に決まった。賞金100万円。

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2010年4月14日 (水)

第29回新田次郎文学賞に帚木蓬生さん、松本侑子さん

 第29回新田次郎文学賞(新田次郎記念会主催)の選考委員会が12日開かれ、帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんの「水神(上・下)」(新潮社)と、松本侑子さんの「恋の蛍-山崎富栄と太宰治」(光文社)に決まった。賞金は各100万円。

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2010年4月13日 (火)

大江健三郎賞受賞「掏摸」中村文則さん 作家生活も9年目

(産経ニュース2010.4.11)作家、中村文則さん 電話で知らせを受けたとき「エープリルフールかと思ってカレンダーを見た」という。小説『掏摸(スリ)』(河出書房新社)で第4回大江健三郎賞を受けた作家の中村文則さん(32)。平成17年の芥川賞以来の受賞に、「僕の人生は小説(を書くこと)で終わると決めていたが、その気持ちがより強くなった」と語る。
 東京で「裕福者」を狙うスリ師の主人公が、ある男との再会を通じて究極の「悪」に巻き込まれていく受賞作。娯楽性の高い物語展開の中に、都市生活者の「存在」をめぐる文学的問題を盛り込んだ意欲作として話題を集め、現在9刷と読者のすそ野を広げている。
 選考委員の大江健三郎氏は選評で、主人公はスリを通じて「裕福者」だけを他者として選別しており、それ以外の人間が「無化」されていることを指摘。「今日的な新しい視点を持ち込みうることに気付いた作家」と賛辞を贈った。
 中村さんは「デビュー以来、ずっと人間の関心の強弱や偏りを書いてきた」と振り返り、「デビュー前から尊敬してきた大江さんの鋭い選評を読めたことは作家として大きな喜び」と笑顔を見せる。
 大学生のときに大江氏の『個人的な体験』を読んで「(小説の)言葉が迫ってきて、自分の中に深くしみこんできた」という。「生きにくくてパンクしそうだった青年時代、大江さんの小説の言葉が必要だった」
 今年迎える。古典的で硬質な「純文学」作家として知られるが、「僕がデビューした時からすでに純文学は厳しい状況」と語る。
 「文学には大きな財産があり、その上に積み重ねていく新しさもあるはず。小説の魅力を総動員した作品を書いていく」(三品貴志)

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2010年4月12日 (月)

第4回大江健三郎賞・中村文則氏の『掏摸(スリ)』で記念公開対談

 第4回大江健三郎賞(主催・講談社)の中村文則『掏摸(スリ)』の大江氏選評が4月7日に発売された「群像」5月号に掲載された。5月16日には主催の講談社の本社内ホールで中村、大江両氏の受賞記念公開対談が行われる。

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2010年4月11日 (日)

書評・小泉今日子(女優)/朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社)

(2010年4月5日 読売新聞)
どんな音、聞いた?
 高校のバレー部でキャプテンを務める桐島が突然部活をやめた。その小さな事件は数人の同級生達の心の中にある変化をもたらす。それぞれの氏名で章立てされた物語からは、それぞれの放課後の音、部活の音や心の音が聞こえてくる。
 放課後の学校はたくさんの音で溢れていた。私は、どの音の中にいたのだろうと考えると、ソフトボール部をサボって友達の部屋で聴いていた洋楽のレコードの音が蘇ってきた。あの頃は自分のことばかりに関心があって身の回りの音しか聞こえていなかったけれど、音の数だけ青春の物語があったのだと今ならよくわかる。
 主人公達は、高校生活の中でいつの間にか見えない線を引かれ階層化されていることに気付く。カッコイイ、普通、カッコ悪い、大きく三つに分けられた階層の中、自分はどこにいて、どうあるべきかを考え出す。それは大人の入り口への第一歩なのだ。楽しいばかりの毎日の中に少しずつズレを感じ始め、この先に待つ大きな世界に不安や焦りを抱いて無性にイライラした時期が私にもあった。ううん、今でもある。第一歩を何度も繰り返し踏み出してちょっとずつ大人になればいいのだと、当時の私と小説の中の高校生達に言ってあげたい気分になった。
 桐島くんは最後まで人の会話の中にしか登場しない。渦中の人はその時どんな場所で、どんな音を聞いていたのか、本を閉じた後に想像するのも楽しかった。読書ってやっぱり最高!
 ◇あさい・りょう=1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中。本作で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

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2010年4月10日 (土)

「文學界」2010年上半期同人雑誌優秀作は塚越淑行氏の作品

 雑誌「文學界」5月号で、2010年上半期同人雑誌優秀作として塚越淑行「三十年後のスプートニク」が掲載された。奨励金として10万円が贈呈される。作品は同人誌「まくた」VOL266号に掲載されたもの。塚越淑行氏は、1947年栃木県足利市生まれ。慶大文学部卒。
 なお、5月号には第110回文學界新人賞の応募作品の第1次予選から4次予選通過作品、そしてい、最終予選作品を公表している。新企画として4次選考講評をおこなっており、同人雑誌評を廃止したあとの新しい方向づけを示している。
 同人誌雑誌優勝賞の掲載と文学界新人賞の応募作の講評は、それぞれの文学性の評価のありどころをわかりやすくしているように見える。
 最終予選の候補作5作品次の通り。
一田和樹「エレベーター統計官」、奥林浩之「四本の渇いた右手」、古谷田奈月「夜の双子」、鶴川健「乾燥腕」、穂田川洋山「自由高さH」。

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2010年4月 9日 (金)

岡本かの子から川端康成への未公開書簡を茨城県近代美術館で展示

 (2010年4月9日 読売新聞)関東大震災後の川端康成らの安否を気遣う岡本かの子の書簡 戦前を代表する女性作家で歌人の岡本かの子が、ノーベル賞作家の川端康成(1899~1972年)にあてた未公開の書簡60通が現存していることが、8日分かった。
 10歳年下の川端の才能を慈しんだかの子は、後年、川端に師事を請うている。両者の関係の推移を裏付ける「第一級の資料」(川端文学研究者の平山三男氏)とみられる。
 川端が東大在学中の1921年、仲間と発刊した雑誌「新思潮」にかの子は戯曲を発表するなど、二人のつながりは知られている。今回発見された60通は、23年からかの子が病死した39年までのもの。初期のはがき5通には、作品中の表現にかかわる相談や、東京・本郷に住んでいた独身の川端に<遊びに居らっしやい。もし私達上京の留守でしたら自由に上って本もよみ 御はんもたべ、泊って行って下さっても宜いですよ>(23年8月)と、滞在中の神奈川県鎌倉の宿に誘ったはがきもある。
 この直後、関東大震災で二人は被災。かの子が避難先の島根県から同年10月に出したはがきには、<鎌倉で九死に一生を得 表記の處(ところ)へ逃げて来ってもふ半月以上になります。あなたはいかに、他の新思潮同人達はいかに、さては新思潮の現在および未来はいかに。おもひめぐらし案じをればかぎりもなし。御返翰(へんかん)を俟(ま)ちます>と安否を気遣っている。
 川端康成記念会によると、書簡は鎌倉の川端邸内で2月頃に見つかった。「岡本かの子全集」に収録されている25通を含む85通が、水戸市の茨城県近代美術館で10日から展示される。小説「かの子撩乱(りょうらん)」を書き、川端と交友の深い作家・瀬戸内寂聴さんの話「かの子は一平と物心両面から川端を励まし、川端は恩を忘れず、かの子を文壇に推挙した。全文が分かれば読者の胸を打つでしょう」
 ◆岡本かの子(1889~1939年)。大正期に歌人として活躍。芥川龍之介がモデルの小説「鶴は病みき」を47歳で発表。晩年の数年間に「母子叙情」「老妓抄」などの名作を残した。夫は漫画家の岡本一平、長男は画家の岡本太郎。
               ☆
(参考:「詩人回廊」岡本かの子の庭

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2010年4月 8日 (木)

村上春樹『1Q84』BOOK3、発売前に10万部

新潮社は村上春樹『1Q84』BOOK3について、10万部の発売前増刷を決めた。2刷は4月23日の出来予定。読者の強い関心と、発売に備えた書店のキャンペーンなどを見越しての対策。同書は4月16日、初版50万部で全国一斉発売となる。BOOK1(21刷132万部)、BOOK2(23刷112万部)と、今回のBOOK3(2刷60万部)をあわせると合計部数は304万部に達する。



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2010年4月 7日 (水)

第41回大宅壮一賞に上原善広さんと川口有美子さん

 第41回大宅壮一ノンフィクション賞(日本文学振興会主催)は、上原善広さん(36)の「日本の路地を旅する」(文芸春秋)と、川口有美子さん(47)の「逝かない身体」(医学書院)に決まった。

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2010年4月 6日 (火)

 ライトノベルの市場規模は150億円

 ジュニア小説が80年代のアニメブームを経てファンタジー色を強めた結果、ライトノベルに発展した。現在、講談社(X文庫)、アスキー・メディアワークス(電撃文庫)、角川書店(角川スニーカー文庫)など10社以上が手がけている。1冊600円前後。市場規模は150億円といわれ、不況の出版界で唯一の成長分野である。
 大手のメディアファクトリー「MF文庫J」の三坂泰二編集長が言う。
「ライトノベルは学園を舞台にし、主人公が魔法を使うようなファンタジックなストーリーが中心です。SFや青春ものも受けています。読者は10~20代の男女で、空想の世界を楽しむ人が多いですね」
 MF文庫Jのヒット作は「ゼロの使い魔」(ヤマグチノボル)で、これまで18巻が出版され、累計430万部に達している。このほか「聖剣の刀鍛冶」シリーズ(三浦勇雄)は110万部。電撃文庫では「デュラララ!!」シリーズ(成田良悟)が200万部と派手な数字が並ぶ。
「ゼロの使い魔」の作者の場合、印税は単純計算で2億5000万円。作品がアニメやゲームになるとさらに収入が増える。「オレも書いてみるか」とニンマリしているサラリーマンもいるだろう。
「ライトノベルの作者は20~30代が中心です。ほとんどが各文庫の新人賞を受賞してデビュー、毎年40人前後の新人が世に出ます。サラリーマンをしながら書いている兼業作家もいます。ライトノベル作家を目指すならまず、中学生や高校生の会話のパターンを研究して軽妙な文体を身につけるのがいいでしょう」(三坂氏)(日刊ゲンダイ2010年4月1日掲載)

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2010年4月 5日 (月)

西日本文学展望「西日本新聞」(3月30日朝刊)長野秀樹氏

題「ハッピーエンド」
吉岡孝信さん「大安吉日」(「二十一せいき」15号、大分市)、足立正男さん「癌と孫」(「竜舌蘭」178号、宮崎市)
赤沼真通子さん『藤衣』(近代文芸社)
「竜舌蘭」は「黒木淳吉、吉川成仁追悼特集」
「しゃりんばい」32号(宮崎県教職員互助会)より佐々野喜市さん「家族団欒」、曽原紀子さん「ガラスの蛇」
「邪馬台」45号(大分県中津市)は「宇都宮靖先生追悼号」
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年4月 3日 (土)

文芸時評3月(東京新聞3月31日)沼野充義氏

橋本治「リア家の人々」父娘の愛憎を克明に/墨谷渉「きずな」不確かな家族の表現

《対象作品》橋本治「リア家の人々」(新潮)/墨谷渉「きずな」(群像)/広小路尚祈「うちに帰ろう」(文学界)/佐藤友哉「割と暗い絵」(「群像」)。

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2010年4月 2日 (金)

詩の紹介 「空洞の鞄」清水正吾

空洞の鞄    清水正吾

妻の鞄を捨てる/廃棄する手続きに/市役所の310円券を買う
  巨きな銀色の旅行鞄は空輸を繰り返し/古びて傷んでいる

鞄には十日分の着替えが詰め込まれ/ベルトでかたく締め付ける
  カートで空港を引き回し/金属の刃 薬物点検のゲートを通過する

着陸するたびに馬蹄形に流れるベルトから/鞄を引き取る/目印にと
  結んだ朱色の手巾は/無防備にもぎ取られていた

国境のスタンプがぎっしり捺印された/二冊のパスポート
  妻の鞄は危険情報の空を旅して/入国不可の国を巡り鞄だけ戻ってきた

三冊目の十年有効のパスポートは/白紙のまま
  妻は逝った/あれから十年になる

空洞になった妻の鞄を捨てる/閉じた口金の蓋を/ぱっくり開けて見る/すべすべした布切れの内ポケットに/小さく光るカギと
  凍りつく手首/妻が写る楕円形の手鏡が在った

<紹介者・「詩人回廊」江素瑛>
「妻は逝った/  あれから十年になる」「  入国不可の国を巡り鞄だけ戻ってきた」
妻が逝って行ってしまった国は、鞄が入国不能なので、戻ってきた。鞄から記憶の時間を一段また一段と汲みだす。空洞になった妻の鞄に、一緒に旅をする情景、深い思い出が満ちている。
     詩誌「幻竜」11号より(2010年3月   川口市・幻竜舎)

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