文芸時評3月(毎日新聞3月29日)=川村湊氏(担当・最終回)
売れない小説家主人公に描く/喪失を覚悟するから愛おしく
《対象作品》小川洋子「原稿零枚日記」/橋本治「リア家の人々」(新潮)/青来有一「スズメバチの戦闘機」(文学界)/広小路尚祈「うちに帰ろう」(文学界)。次回担当は田中和生氏。
売れない小説家主人公に描く/喪失を覚悟するから愛おしく
《対象作品》小川洋子「原稿零枚日記」/橋本治「リア家の人々」(新潮)/青来有一「スズメバチの戦闘機」(文学界)/広小路尚祈「うちに帰ろう」(文学界)。次回担当は田中和生氏。
本誌は朝日カルチャーセンターの「短編小説を読む・書く」(藤田充伯講師)の受講者の作品集である。新しい人が加わって執筆者が16人にまで増えたという。どれも「読ませてやる」という創作意欲に満ちていて、大変面白く読める。幾つかを紹介する。
【「グリーンハウス」渡辺勝彦】
日本の未来社会を舞台にスリルとサスペンスに満ちたSF娯楽小説。読みやすく面白い。日本は道州制になり、性犯罪者は刑務所を釈放されても、身体に探知機を埋められ、監視の保護司がつくという時代になっていて、その犯罪者の更生と再犯の狭間の物語。
中篇作品だが、各章を手を入れて充実させれば、長編になる。犯罪者が被害者を追跡して見つけ出す手順が平凡で面白くないところを修正強化すればもっと良くなるように思った。
未来SF小説では、たまたま東浩紀「クォンタム・ファミリー」を読んでみたが、未来日本と、ドライセックス描写、残酷性のスプラッタ調など題材の扱いが偶然に似通っている。時代の雰囲気なのかも知れない。
【「生魑魅(いきすだま)」松蓉】
時計草が怨霊をもって迫ってくる物語。植物に怨霊という組み合わせで、巧く完成させている。
【「連想」改田龍男】
一種の官能小説だが、小説にするための描写の選びどころが巧く達者。読んで楽しませる。
みなさん研鑽の成果があがっていてハイレベル。粒よりの感じがした。
発行所=愛知県愛知郡長久手町湫上井堀82-1、渡辺方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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テレビが新聞を読み上げる時代になりました。情報ルートが単純化しすぎています。情報の多様化に参加のため「暮らしのノートPJ・ITO」ニュースサイトを起動させました。運営する団体・企業の存在感を高めるため、ホームページへのアクセスアップのためにこのサイトの「カテゴリー」スペースを掲示しませんか。文芸同志会年会費4800円、同人誌表紙写真、編集後記掲載料800円(同人雑誌のみ、個人で作品発表をしたい方は詩人回廊に発表の庭を作れます。)。企業は別途取材費が必要です。検索の事例
重力に関する二編 山崎夏代
(1)わたしが立っているのは 地球/それは 確かなことなのだろうか/憧憬 あるいは 妄想ではないか/自分が寄って立つと信じている場/そんなものがあるとすれば 幻想のなかにだけ//わたしと地球とのあいだには/思いも及ばないほどの はるかな 距離がある//わたしの足 靴下 靴 コンクリート/枯れ朽ちた草の根 乾いた土 それぞれは果てしない空間を持ち 地球は遠い 地球とわたしとの間の幾層もの宇宙//距離を 無数の微粒子が行き交い/ぶつかりあい/ふくれあがったり つぶれたり/あらたな粒子を生んだりしている//この険しいへだたりを/つなぐもの/重力/脳天から足の裏にいたるまで/すべて わたしというものを/一点に集めて 垂直に/地球へ その中心へ/向かわせる//わたしは ヤジロベエ だ/面積もない 目にも見えない/ただ一点に 己を架けて/均衡を保ちながら/あやうく地球に結ばれている。
(2)皮膚と皮膚は呼吸さえできないほどに/密着しているというのに/肌と肌の間を滲み出てきた汗が/あなたの体液か わたしのものか/わからぬほどなのに//この距離のはてしない遠さは なんだろう/空間を/言語感情の体系を異にする生命体を乗せて/無数の円盤が飛び交っている/あなたの重さが わたしに掛かっても/わたしの中心には届かない/わたしの重力と あなたの重力は/のけ反りあって/反発しあい//相反するかたへ遠のく/爆発を避けて 不毛を孕みながら//存在とは重力/ 重力とは愛だ と/あなたは言ったが//横たわる/非在と非在/重さの幻だけが/無限のかなたへと 拡散していく
<紹介者・詩人回廊・江素瑛>
「地球とわたしとの間の幾層もの宇宙」「あなたの重さが わたしに掛かっても/わたしの中心には届かない」夢想の中の現実を表現する。
個体と個体、こころとこころ、愛の絆の手ごたえがあるのに、しかとつかめない。人と人の関係に距離のない相手は存在しないのか。定点に居なければ、無限大の距離さえ感じる。足底は地球表面に、同じ地心に引っ張られても、肌は肌に、触れる距離に居ても、「距離を 無数の微粒子が行き交い」、見える固体が熔けて液状になり、液体が蒸発して、気体になるまで求めあっても、心を求める微粒子が残る。微粒子同士の距離を無くすことはできないので、愛のあかしを芳醇な体液で、互いに潤し、混合させるのだろうか。詩誌 「流」32号より(2010年3月 川崎市 宮前詩の会)
全国同人雑誌振興会の森啓夫氏(雑誌「文学街」主宰者)と文芸思潮(該当記事サイト)の五十嵐勉氏の呼びかけで、関東地域の同人誌団体の結成を話し合う懇談会が3月14日に東京都大田区区民プラザで開催された。
東京・神奈川・栃木・群馬・長野から、同人誌の編集者や同人誌の参加者約20人が集まり、交流会の名称や活動の計画などを話し合った。そのなかで、他地域では地域のペンクラブなどが設立されているので、関東甲信越の地域的な名称がいるのではないかということで、とりあえず名称を「関東同人誌雑誌交流会」とすることになった。
活動の内容については、開催地を回り持ちで、作品出版者を集めての出版記念パーティ開催や各地での文化活動としての応援、中部ペンクラブで実施しているといわれる各同人誌合評会への押しかけ参加活動、独自の雑誌の発行などの提案があった。また、同人雑誌評論のあり方などでも熱論が交わされたが、どれも意見提案の段階で結論には至らなかった。
名称が決まったので今後の活動の企画については、7月11日(日)に第1回関東同人雑誌交流会」を開催し、懇談して決めることになった。
参加した文芸同人誌グループは「私人」「サブカルポップマガジンまぐま」(HPサイト)「白雲」「サロン・ド・マロリーナ」(HPサイト)「相模文芸クラブ」(HPサイト)「クレーン」(HPサイト)「なんじゃもんじゃ」「銀座線」、「顔」、その他「文芸同志会」や個人で同人雑誌に参加している人たちであった。文芸同志会の伊藤は、参加者の熱弁をきいていると「まだまだお互いに意見交流を重ねる段階」と見て、当面は充分な交流をする会でよいのではないか、と述べた。
なお、文芸思潮の五十嵐勉氏は3月25日付け読売新聞「枝川公一の東京ストリート」連載記事に「書道と作家二足のわらじ~~同人誌で文学再興はかる」というタイトルでその人柄が紹介されている。
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主夫選ぶ「父」、社会変化の一端
《対象作品》村上龍氏(58)「心はあなたのもとに」(「文学界」)/橋本治氏(61)「リア家の人々」(新潮)/広小路尚祈(なおき)氏(37)「うちに帰ろう」(文学界)/小川洋子氏(47)「原稿零枚日記」(すばる09年1月号~)/伊藤たかみ氏(38)「秋田さんの卵」(群像3、4月号)
先月の「歌うクジラ」に続いて、村上龍氏(58)が「心はあなたのもとに」(文学界2007年6月号~)を完結させた。連載時期がほぼ重なった「――クジラ」は近未来SFだったが、こちらはリアリズムの現代小説である。
橋本治氏(61)「リア家の人々」(新潮)は、父の権威が後退し、家族の求心力が失われていく時代の趨勢(すうせい)を1960年代末までの社会変動の中にとらえた。シェークスピア「リア王」になぞらえた、明治41年生まれの父と3人の娘たちのドラマは、悲劇の色調を帯びる。
広小路尚祈(なおき)氏(37)「うちに帰ろう」(文学界)で、〈おれ〉は、育休明けの妻が職場に復帰する際、これから娘の面倒を誰が見るかを考えた末、勤務先の将来性や安定性から自分が会社を辞めて主夫業に専念することを選ぶ。娘を公園へ連れて行き、そこで近所の子のお母さんと知り合い、「心中の相手になって」と誘われて――というとんでもない展開だが、のんきに見えて繊細、結構したたかなこの父と、「リア家」の家長の間に横たわる距離は、この社会の激変の一端ではないだろうか。
小川洋子氏(47)「原稿零枚日記」(すばる09年1月号~)は、日記形式によってごく個人的な日常を装いつつ、苔(こけ)、運動会、母乳など〈私〉の偏愛と記憶が異世界への扉を開いていく意外性とスリルがあった。
伊藤たかみ氏(38)「秋田さんの卵」(群像3、4月号)は、30年近いキャリアを持つ付添婦〈秋田さん〉を巡る、病院内でのある出来事を描く。内科病棟で相部屋になった入院患者の男たちが、日常のレールを一時的に離れた弛緩(しかん)した時間の中で交わすとりとめないうわさ話。そこから秋田さんの姿が浮上して来る様が絶妙だった。(文化部 山内則史)
私は一度も死んだことがありません だから、よく解らないのが 静かに息を
吸いながら あなたの詩をゆっくりと読みました ゆっくりと
もう一度と言う声にうながされ 残照の黄色の花に気がついた
紅いバラが大好きなあの人は 陽炎ゆらめく春の野を 小川へ遊びに歩いてた 忙しげな揚げひばりの声も 明るい空の光も気にせずに 赤い鼻緒の下駄はいて はしゃぐ影法師追いかけて 小さな日時計手に持って
詩集 「啄木鳥」より(09年12月 東京都杉並区 青葉茂)
(紹介者 江素瑛)
一人の老いた男と、いつまでも小さな女の子と存在している「あなた」との思い出が、静かな時空で織りなす美しさ。透きとおった小渓の流れのような詩である。
・必ず持参する…43% ・持参することが多い…40%・持参しないことが多い…13% ・持参しない…5%(講談社『BOOK倶楽部メール』10年3月15日号)
【Q2】外出してすぐに本がないことに気づいたらどうしますか?
・取りに戻る…12% ・外出先で買う(借りる)…28%・無いまま過ごす56%… ・その他…6%
【Q3】自宅で読む本と外出先で読む本は同じですか?
・同じ(続きを読む)…29% ・別…26% ・特に決めていない…45%
【Q4】公共の場で本を読んでいて、泣いたり大笑いして困ったことは?
・ある…47% ・ない…42% ・覚えていない…11%
【Q5】公共の場で、大泣きしたり大笑いした本は?
大笑い…ダントツ1位『化物語』
大泣き…相当バラけたので割愛(以下の書き込み参照)
★西尾維新さんの「化物語」です。周りに誰かいる状況で読む本じゃないです。これを笑わずに読める人はすごいと思います(笑) (沖縄県 T様 10代)★「化物語」(西尾維新)あの掛け合いは我慢できませんでした…。当然下巻以降は必ず家で読んでます! (神奈川県 O様 20代)★『別冊図書館戦争2』(有川浩)待ち切れずに帰りの電車で読んだら、にやにやが止まらなくて困った(笑)(福岡県 Y様 20代)★「小生物語」(乙一)。とにかく笑いそうになるのを必死に堪えるけど、時々堪えきれずに吹き出したり引き笑いが出たり。早々に読むの諦めました。笑いを堪えてる姿も恥ずかしい。(岡山県 A様 20代)★三浦しをんさんのエッセイ。笑いをこらえる顔が相当引きつっていたようで、傍にいた友人がいつの間にか離れたところに…(笑) (山形県 M様 20代)★「海馬が耳から駆けてゆく」(菅野彰)あれは本当にどうしようかと思うくらい笑いがこみ上げて来て、咳き込む振りをして誤魔化しましたが、誤魔化しきれていなかったと思います。(北海道 K様 20代)★「幽霊人命救助隊」(高野和明)空港で購入したのですが、タイトルからは、こんなに感動するとは思わず…飛行機の中で号泣してしまいました。(東京都 S様 20代)★「博士の愛した数式」(小川洋子)高校生の頃授業中に読み、涙を相当我慢しました。わざとあくびをしてちょっと出た涙はごまかした恥ずかしい思い出があります。(東京都 K様 20代)★『珍妃の井戸』(浅田次郎)軽々しく読み始めたのに、最後の光緒帝の章で不意打ちのように胸を衝かれて、もうダメでした。恥ずかしいというより、涙を堪えられなくて電車を降りました。(鹿児島県 I様 30代)★「今日われ生きてあり」(神坂次郎)読むものがなくなってついつい通勤中に読み始めたら涙が止まらなくなりました。あぁ恥ずかしい。(神奈川県 M様 40代)★「椿山課長の七日間」(浅田次郎)本になってからではないですが、新聞連載中、最後の2、3回が抜けてしまって、後から図書館で新聞を読んでいた時に、号泣した。(岡山県 N様 40代)★重松清『その日の前に』の最後の話。泣かせる意思が見え見えだったのに、それでも泣いてしまいました。反則です。(神奈川県 M様 50代)★「壬生義士伝」だったろうか。地下鉄の座席に座って読んでいて、思わず涙が滲んできてしまった。あわててそっと手でぬぐいごまかした。男を泣かすのがうまいよ、浅田さんは。山本周五郎もそうだ。男を泣かす小説が多い。(千葉県 M様 50代)
「透明人間 1」相川祐一
少年は 透明人間に 成りたいと夢見た。 青年は 透明人間に 興味を失った。 壮年は 透明人間を 忘れ去った。
ときうつり すまいうつり やがて つとめおわり いえにこもり いつしか 老い。
世界はすべて透明になり 地球 無惨 繙いたウエルズの「透明人間」も 悲惨な死を遂げていたことを知る
☆
(紹介者・江素瑛)
「裸の王様」という物語では、透明な服装は王様の新しい衣になる。裸で、生まれた快活な人間は、悩みや憂いや死のない生涯になるはずが、アダムとイブが智慧の果を食べたから、恥を知り、裸身を隠し始めた。
姿を隠す、他人を覗く、透明人間にあこがれる少年。やがて姿を隠すより見せたがって、青年になる。若い感性の失われた老壮年は、恥の感覚も薄れ、世の出来事がわれとかかわなく動く。自分も他人の姿も忘れ見えなくなるとき、世界をすべて透明になると悟る。
悲観的な詩であるが、人の一生の自然な姿を表している。
「騒」80号記念より(09年12月 町田市本町田 騒の会)
昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本連覇を記念して、「サムライジャパン野球文学賞」(同賞実行委員会主催)が創設され、第1回大賞に本城雅人さんの小説「ノーバディノウズ」(文芸春秋)が選ばれた。
同賞はベースボール・マガジン社など出版5社が後援。昨年1年間に出版された、野球を扱った小説や漫画などの中から、元プロ野球選手で野球評論家の小宮山悟さんら選考委員が選んだ。受賞作の「ノーバディノウズ」は米大リーグで活躍する野球選手の謎に迫るミステリー小説。(10.3.14 産経ニュース)
先日、仮称「関東文芸同人誌交流会」の集まりがあったときに、本誌の主宰者の小川和彦氏がいらして、なんとなく催促されたような気がして、「そういえばあったな」と積み重ねられた同人誌置き場をみたら、やはり出てきた。
小川さんの送り状によると、同人誌「文芸東北」が大林しげるさんの病気で終刊となったこと、「金澤文学」が終刊のことが記してある。「なんじゃもんじゃ」は、自家制作本で、20号まで出したいとのこと。その時は、小川さんは80歳になっているそうである。
【ノンフィクション「火事」杵淵賢二】
自治会長をしている作者の地域内の火事の現場とその後の情勢が、生ナマしく活写されている。火事はこわい、という実感がわいてくる。観察力と表現力がマッチしていて的確で、文章家としても頼もしい。
【連作S町コーヒー店「かたえくぼ」坂本順子】
ティールムで、市井のちょっとした出来事を見聞したスタイルで連作をしている。今回は、乳がんを手術した女性に対する思いやりというものが、どういうものかを描く。なるほどそうなのか、と感心させられる。いつも鋭い観察力と表現力で、短くしっかり締める手腕に感心させられる。
発行所=286-0201千葉県富里市日吉台5-34-2、小川方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
付記=みなさんより同人誌を送っていただいていますが、体調不良その他の都合で、しばらく紹介記事は、お休みをします。
童 坪井勝男
鼻腔をくすぐる焦げた砂糖の匂い 綿菓子屋の前で老人の足は止まる 彼の「童」が騒ぎだしたのだ (ねえ あの綿菓子を買っておくれよ) おいぼれの着ぐるみを纏ってはいるが まだ幼いものも棲んでいる 孫にせがまれて とでも言う風に手に一つ 雑踏のなかで舐めるには勇気がいる。
職人が回転体に一握りのザラメ糖を放り込む と 熱風が真綿のようなものを吹き上げる 割り箸で それを手際よく掬いながら アセチレン灯の臭い 金魚すくいの歓声 女の子の木履の音など みな絡めて綿飴は膨くらんでいく 奉祝・紀元二千六百年の歌が流れていた
その「時」は確実に刻まれていた 慎ましく暮らしていたこの下町の人達を
囲い込み 舐め尽くした紅蓮の炎 昭和二十年三月一○日未明の東京大空襲
爆風と炎の中で死体を跨いで生き延びた記憶 死者は十万人とも
あの頃と同じようにぽっかり浮かんだ白い雲 惨劇から六十有余年の春 綿菓
子を 味わってみる 口ごもりながら「童」は問いかける
<紹介者「詩人回廊」江素瑛>
記憶は生まれてから始まるという。いや、赤ん坊は胎内にいる時、羊水の記
憶はすでに脳のどこかに棲みついてあるだろうか。
楽しい「時」も苦しい「時」も、幼児の記憶は人の一生と仲良く添い歩く。 歳をとるにつれて暈けた現実の世界に、幼時の経験が鮮明になり、「童」が騒ぎだす時がひんぱんになる。
肉体は衰え、力が失せつつ、友人が消えつつ、寂しい老年にとっては、「童」は無くしてはならない、大事な存在である。この小さな分身「童」が、時には人を慰め、時には意地悪、人を惑せる。多くの民衆の喜怒哀楽が継承されて奉祝・紀元二千六百年の歌が流れているのか。
<詩誌「岩礁」142号より2010 春 三島市 岩礁の会>
エンターブレインの『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』によると、ブックリーダーの利用者アンケート調査で72.0%が「キンドル」と答えた。2位は「Sony Reader」(23.0%)。利用者の63.0%が「満足している」。「満足していない」は8.0%に止まった。非利用者の間では電子ブックリーダーの認知度は低く、75.0%が「全く知らない」と回答。「キンドル」のみが21.0%で認知されていた。
題「歴史・時代小説と掌篇小説と」
「仙台文学」第75号より近江静雄「睡竜立てり-仙台戊辰史譚-」、安久澤連「大堤」、牛島冨美二「英雄互いに黙契す-仙台維新前夜譚-」、石川繁の歴史探究「金売吉次のふるさとを訪ねる」
石原裕次「『本能寺の変』前後の信長と光秀・秀吉」(「全作家」第76号)、塚澤正「堕胎目付始末記」(「群獣」第11号)
時代小説では西村啓「兄弟は他人の別れ」(「作家」第70号)、黒木一於「掛け軸の幽霊」(「コスモス文学」第368号)
現代小説では西向聡「海蛍」(「法螺」第62号)、「九州文學」第503号より暮安翠「南天と蝶」、山下濶子「赤い花」、波佐間義之「ある男の軌跡」
伊藤文隆「掌篇物語五編」(「駿河台文芸」第21号)、「九州文學」は「掌篇小説特集」4編、「文学街」第270号が「掌篇」と題し2編、「九州文學」より永芳達夫「斑鳩の里で」、「文学街」より原石寛、森啓夫
詩では遠山幸子「『南無阿弥陀仏』」(「みえ現代詩」第80号)、「風神」第22号「冥界」特集より鈴木漠「冥府行」
短歌では五十嵐良子「遠花火」(「谺」第56号)
研究・エッセイでは「個」第5号がトルストイ研究家石田三治の生誕120年記念特集、「青銅時代」第49号「小川国夫の文学世界(1)
追悼号(含訃報記事)は「猿」第65号が佐竹幸吉、「京浜文学」第15号が木村為蔵、「九州文學」第530号が緑川新、「作家」第70号が松本伸、「大衆文学研究」第142号が尾崎恵子、「八百八町」第10号が野村敏雄、「文学雑誌」第85号が中谷榮一、「労働者文学」第66号が原田筧
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
夜半の雨 竹内オリエ
そう わたしがダイエットを始めて以来 一年あまりの月日が過ぎていた どんなにか細身に憧れていたものを 今ではさんざん後悔している 体重計の針はどんどん下り坂を示し ここで止めておけば良かったものを 歯止めがきかなくなったこの体 骨張った顔つきの鏡の中の自分 別人に見えて仕方がない
秋からはさんざん食べて 胃袋を大きく戻してきた 今度は上り坂で増えた体に歯止めをかける 何とまあ無駄なことばかりのわたし そんな時間と引き替えに 得た物はなんかしら 幸福は今のままが良い
夜半の雨を知らずに雨戸を開けた 久方ぶりの御湿りだったのだ 暖かで穏やかさを秘めた朝がきた
竹内オリエ詩集「春のあとさき」より(2010年3月 静岡浜松市 樹海社)
<紹介者「詩人回廊」江素瑛>
この時代の美人と思われる人はなぜか細身が多い、女性も男性も細身にあこがれる時代が延々と長引いている。
人間以外の動物はダイエットしない。満足な食事であれば、感謝する。ダイエットは餓死と等しい。
人間は謎めいた動物である。タレントは役造りのために、競技者は成績を上げるために、肥満患者は治療のために、ふところが貧乏のためにダイエットするか。普通の人間であるあなたはどっちなのですか?不平不満より「今のままが良い」とそこで、落ち着くことは難しい。人は何もしないでいることにどれだけ耐えられるか。人間の進歩とは何か?おだやかな朝が問いかけてくる。
【「銀次郎の日記-年金生活一年四ヵ月の心理」青江由紀夫】
作者は、あちらこちらと同人雑誌を掛け持ちで、「銀次郎の日記」をハシゴ投稿している。最初はなんであろう、と不思議に思ったが、これは案外、人間社会の関係を絶やさない良い方法なのかもしれない。生活に余裕があるからの話ではあるがー―。友人の話によると、文芸同人誌には、退職金をもらって悠々自適のお役人が非常に多いそうである。富裕層の趣味の同人誌か、貧しい民衆の声の同人誌か階層別で個性が異なるかもしれない。
ここでは、「サラダ記念日」の俵万智が25歳でデビューし、それから22年、395刷となった本が200万冊売れたとして、印税が10%として2億円という計算をしながら、作者も短歌や歌詞を作って発表している。印税が10%というのは、条件は良すぎるし、それほど収入があるとは思えないが、俵さん、今頃そうしているのだろう?と考えさせられる。日記全体の書き方が洗練されてきている。
【「恭一とダックスフント」山岸久】
大きな湖に警察の駐在所があって、警官のその家の少年が主人公。たびたび水死人が出る。その収容の風景が、なかなかリアルさと幻想性をもって描かれている。自分も少年時代は水上署が近くにあって、土佐衛門の収容や自殺か他殺かの検視を見てきた。水死者のどこがリアルでどこが空想かが判別できるような気がした。犬を連れた自殺志望者が、犬を道づれにできずに、少年に犬を預けた後に、安心して投身自殺する様子を語って面白い。文章に幽玄さがあるのが作品を高質なものにしている。犬連れの自殺志望者についての人間的な手がかりも読みたかった。
【「同人雑誌評」根保孝栄】
読んでいる同人誌の数が大変多いのに驚かされた。精力的な活動である。なんでも、一度この欄を廃止したら、復活の要望が多くて復活したそうである。同人誌の交流のあり方について、各同人誌はそれぞれの小結集団であって、そこに所属している書き手を結集して何ができるか、という交流の場以上のビジネス化は見込み薄ではないか、という考えが示されている。
たしかに、交流はそこから何かが生まれるのか、従来の路線を行くのかを確かめるだけで意義があるので、定例化したものがあって不思議ではない。何も変わっていないということを定時的に確認することも意義がある。
その一方、ビジネス化の活動というのは、具体的には五十嵐勉氏の雑誌「文芸思潮」の運営について、触れているのだが、自分はジネス化の可能性をさぐって、実現すれば、社会的に文芸の地位向上になるのではないか、と思うので成功して欲しいと思う。しかし、現在の商業文芸誌と同様のスタイルでは、現実に赤字なのでまずいし、社会的な地位もイメージは必ずしも確立していない。それでも、文学活動を社会と深くつなげるには、ビジネス化がいちばん良い。その意欲そのものが創作と同じかそれ以上の価値があるのだと思われる。
発行所=〒北海道虻田郡豊浦町大和、宇川方、「山音文学会」
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭
総務、文部科学、経済産業の3省は10日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けて、国内ルールを定める官民合同の研究会を発足させると発表した。17日に初会合を開く。
インターネット配信する電子書籍のデータ形式の共通化など電子書籍ビジネスを推進するための流通ルールを検討し、6月をめどに取りまとめる。
研究会は3省の副大臣、政務官のほか、出版社や通信会社、書店、インターネット企業の関係者などで構成。作家の阿刀田高、楡周平、三田誠広の3氏や漫画家の里中満智子さん、国立国会図書館の長尾真館長、日本新聞協会の内山斉会長(読売新聞グループ本社社長)らもメンバーとなる。
(10年3月11日 読売新聞)
「名人」 有森 信二
毎朝一人の男によって 駅のゴミ箱の清掃がなされる 容器のフタを開け ビニールの袋を取り出す 袋の中身に手を入れ分別する 分別したゴミを 中途まで入れた別の袋に それぞれ入れ込む 空き缶 ペットボトル 週刊誌 食べ物の殻 一杯になった袋の口を ぎゅっと結ぶ
新しい袋一枚を 空になった容器に 被せ 丁寧に四つに折りたたんだ 新聞紙を容器の底に沈める 真新しくなった容器を傾け 四方から確かめ頷く 雑巾を取り出し 容器をキュッキュッと拭きあげる 男がこの間に費やす時間は ほんの三分 黒い野球帽をあみだに被った 男は実に手際よく その場に新しいゴミ箱を 仕立てあげる 三分の後には ちゃんと次の仕立てにかかる 鼻歌を歌いながら 黒い野球帽をあみだに被った 男はいつも 実に機嫌がよい 同じ時刻に 同じフォームに降りる ようになって一年 男は傍のゴミ箱を 次々に作り替えていく ホームが込んでいようと 若い女が群れて騒ごうと ひどい雨が降ろうと
黒い野球帽をあみだに被った 男はいつも 鼻歌を歌いながら 三分という実に正確なタイムで 次々に 新しいゴミ箱を生み出していく
<紹介者「詩人回廊」江素瑛>
三分間の時間を有効に使うゴミ収集人の姿。詳細に作業手順をしめす。格好よく愉快な作品に出来上がっていく。それは文芸の芸の作業手順でもある。詩精神が見える。仕事の生甲斐を感じながら、環境衛生を維持する人達に脱帽しなくてはならない。
有森信二・詩集「零地点」より(2010年一月 福岡市 花書院)
<冒頭部>文月悠光さんの誌とエッセイのの個人誌「月光」紹介。「書きたいものを書くには同人誌に限ると同人誌の力をあらためて再確認した。」とあり、筆者手作りの句集『心の表現』『漱石の真実一つ』、一行詩集『心の融点』(学生との共著)
《対象作品》衣斐弘行「愛宕山詣」(「火点」61号)が最優秀作。「ずいひつ遍路宿」164号より結城しず「書くことはこころの癒し」、吉田知子「草取り」(「紅櫨草子通信」4)、大池文雄「西新井一丁目」(「丁卯」ていぼう26号)、「芸術至上主義文芸」35号より山田吉郎「川端康成『冬近し』至論」サブタイトル「囲碁の風景を起点として」
岡井隆「森鴎外の『うた日記』」(「未来」1月号)、和田伸一郎「井上光晴ノート」(「クレーン」31号)、和泉あかね「花葬の影」(「サロン・ド・マリーナ」創刊号)、森啓夫「ぐっ、ぱアーイ」(「文学街」269号)
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
題「幻の場所 影と光の両面」
「季刊午前」(41号)より中川由記子「きみのBARから海が見えて」、古木信子「月、犬、そして雨。」
おおくぼ系「海紅豆の秋」(第七期「九州文学」8号)
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
別冊ムック、「坂本龍馬の真実」が、5刷・10万部で累計43万部となり、200点以上もある龍馬関連書誌のなかでトップ。大河ドラマ「龍馬伝」が毎回20%以上の視聴率をあげるなか、女性の読者も取り込んで好調に売上げを伸ばしている。同誌のほか、NHK出版「大河ドラマ・ストーリー 龍馬伝」も40万部を発行しており、2誌の動きが顕著。(新文化)
第44回吉川英治文学賞(吉川英治国民文化振興会主催)は5日、重松清さん(47)の「十字架」(講談社)に決まった。副賞300万円。第31回吉川英治文学新人賞には、池井戸潤さん(46)の「鉄の骨」(同)と、冲方丁(うぶかた・とう)さん(33)の「天地明察」(角川書店)が選ばれた。副賞各100万円。
東京都大田区区民プラザで、3月14日午後1時、第一会議室。関東同人雑誌交流会の設立のための懇談会が開催される。
これは第2回目で会場は東急多摩川線「下丸子駅」のすぐそば。前回は、20人ほどが集まった。私も参加したが、なにはともあれ交流をしたいという意欲のある人が多かった。交流によって何かが生まれるかもしれないという期待があるのだと思われる。
主催者は、全国同人雑誌振興会の森啓夫会長と文芸思潮の五十嵐勉編集長。
この試みは文芸同人誌の主宰者が主な対象のようだ。
ちなみに文芸同志会は当初から個人の文芸情報交流だけを主眼にしてきた。あるのは情報のなかに何かがあるであろうという期待だけである。期待を生めばそれでよいのだ。これは私が「疎外」や「ニヒリズム」「脱アパシー(脱無気力)」をテーマにしていたことにある。期待しない人は情報に関心がない。今生きているのは、次の瞬間に何かを期待して未来に自分を投げ掛けているからである。ただ、それだけの会であるが、会員は、それなりに人生に意義を見出しているようだ。情報を出すだけで、ほかになにもしない。その意味は会員が自分で見いだしている。
人間は何かを求めているが、それがなんであるかは、そのものが目の前にだされないとわからないのだ。人生は、永遠の自分の良いと思うものの探す旅なのかもしれない。情報のなかにそれがあるかもしれないという期待をもって。
「せいぜい数百部」といわれる自費出版の詩集の世界で、3カ月余で1万部を完売した詩集が注目されている。全国紙の中では本紙だけの詩の投稿欄「朝の詩」の常連で、宇都宮市内で一人暮らしの柴田トヨさん(98)が出版した『くじけないで』だ。
1人息子の勧めで90歳を過ぎてから書き始めた作品集だが、その内容はタイトルが示すように、「朝はかならずやってくる」「私はヨイショと立ち上がる」など平易なことばで、人生を諦めさせず、希望を持たせる作品が中心だ。
そのため多くの人が「思わず涙がこぼれた」「前向きに生きなければと勇気づけられました」と感動し、「老いた親」や高齢、入院などの「友人」に「読ませたい」と、1人で数十冊、中には90冊も申し込んだ女性もいた。
読者からの期待に応え、飛鳥新社から拡充版の『くじけないで』が発行される。拡充版は、「幸来橋」など新作5点を含む42作品に、独白「私の軌跡」などを加え、サイズやカバー、デザインなども一新(B6判・上製)されている。定価千円(税込み)で、16日から書店販売される。(産経ニュース2010.3.7)
題「歴史・時代小説と掌篇小説と」
「仙台文学」第75号より近江静雄「睡竜立てり-仙台戊辰史譚-」、安久澤連「大堤」、牛島冨美二「英雄互いに黙契す-仙台維新前夜譚-」、石川繁の歴史探究「金売吉次のふるさとを訪ねる」
石原裕次「『本能寺の変』前後の信長と光秀・秀吉」(「全作家」第76号)、塚澤正「堕胎目付始末記」(「群獣」第11号)
時代小説では西村啓「兄弟は他人の別れ」(「作家」第70号)、黒木一於「掛け軸の幽霊」(「コスモス文学」第368号)
現代小説では西向聡「海蛍」(「法螺」第62号)、「九州文學」第503号より暮安翠「南天と蝶」、山下濶子「赤い花」、波佐間義之「ある男の軌跡」
伊藤文隆「掌篇物語五編」(「駿河台文芸」第21号)、「九州文學」は「掌篇小説特集」4編、「文学街」第270号が「掌篇」と題し2編、「九州文學」より永芳達夫「斑鳩の里で」、「文学街」より原石寛、森啓夫
詩では遠山幸子「『南無阿弥陀仏』」(「みえ現代詩」第80号)、「風神」第22号「冥界」特集より鈴木漠「冥府行」
短歌では五十嵐良子「遠花火」(「谺」第56号)
研究・エッセイでは「個」第5号がトルストイ研究家石田三治の生誕120年記念特集、「青銅時代」第49号「小川国夫の文学世界(1)
追悼号(含訃報記事)は「猿」第65号が佐竹幸吉、「京浜文学」第15号が木村為蔵、「九州文學」第530号が緑川新、「作家」第70号が松本伸、「大衆文学研究」第142号が尾崎恵子、「八百八町」第10号が野村敏雄、「文学雑誌」第85号が中谷榮一、「労働者文学」第66号が原田筧
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
題「歴史・時代小説と掌篇小説と」
「仙台文学」第75号より近江静雄「睡竜立てり-仙台戊辰史譚-」、安久澤連「大堤」、牛島冨美二「英雄互いに黙契す-仙台維新前夜譚-」、石川繁の歴史探究「金売吉次のふるさとを訪ねる」
石原裕次「『本能寺の変』前後の信長と光秀・秀吉」(「全作家」第76号)、塚澤正「堕胎目付始末記」(「群獣」第11号)
時代小説では西村啓「兄弟は他人の別れ」(「作家」第70号)、黒木一於「掛け軸の幽霊」(「コスモス文学」第368号)
現代小説では西向聡「海蛍」(「法螺」第62号)、「九州文學」第503号より暮安翠「南天と蝶」、山下濶子「赤い花」、波佐間義之「ある男の軌跡」
伊藤文隆「掌篇物語五編」(「駿河台文芸」第21号)、「九州文學」は「掌篇小説特集」4編、「文学街」第270号が「掌篇」と題し2編、「九州文學」より永芳達夫「斑鳩の里で」、「文学街」より原石寛、森啓夫
詩では遠山幸子「『南無阿弥陀仏』」(「みえ現代詩」第80号)、「風神」第22号「冥界」特集より鈴木漠「冥府行」
短歌では五十嵐良子「遠花火」(「谺」第56号)
研究・エッセイでは「個」第5号がトルストイ研究家石田三治の生誕120年記念特集、「青銅時代」第49号「小川国夫の文学世界(1)
追悼号(含訃報記事)は「猿」第65号が佐竹幸吉、「京浜文学」第15号が木村為蔵、「九州文學」第530号が緑川新、「作家」第70号が松本伸、「大衆文学研究」第142号が尾崎恵子、「八百八町」第10号が野村敏雄、「文学雑誌」第85号が中谷榮一、「労働者文学」第66号が原田筧
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
アスキー・メディアワークスは、今後の事業発展・拡大を図るため、角川グループ入りを決め、アスキー・メディアワークスによる魔法のiらんどの株式取得をすることになった。2007年に「魔法のiらんど文庫」をアスキー・メディアワークスが創刊するなど両社は協力関係にあった。
魔法のiらんどはケータイ小説サイト「魔法のiらんど」を企画・開発・運営し、月間35億pvのアクセス、120万タイトルのケータイ小説がアップされる最大サイト。文庫以外にも単行本やコミックなどの出版も積極化。600万人いるユニークユーザー向けに同グループ各社のコンテンツ配信事業も行う考え。(新文化)
『早稲田文学』は、30歳以下の書き手だけを集めた増刊「U30」を刊行した。紙媒体からウェブへの移行期の文芸誌のあり方を模索する試みだ。
第22回早稲田文学新人賞でデビューした間宮緑さんらの小説5編と、評論8編を収録。批評家の福嶋亮大さんの論文「現代中国文化に見るネットワーク効果」は特に興味深い。中国の新世代作家がウェブで作品を無料公開しているにもかかわらず、本が驚異的な部数を売り上げている現象などを例に、インターネットの普及で生じた文化や歴史観の変質を論じる。
今月中旬には、ネット上で寄せられた感想や疑問に答える電子版を無料公開する予定。編集を担当した同誌編集室の窪木竜也さん(27)は「1980年代生まれの世代は、10代半ばから紙とウェブの両方に触れてきた。紙媒体が最終形ではなく、データと紙を往還する中で見えてくるものがあるのではと思う」と語る。(10年3月2日 読売新聞)
《対象作品》古木信子さん「月、犬、そして雨」(「季刊午前」41号、福岡市)、周防凛太郎さん「羅生門の鐔(つば)」(「ガランス」17号、福岡市)
「季刊午前」より中川由記子さん「きみのBARから海が見えて」、吉貝甚蔵さんの評論「始点としての『四千の日と夜』」
「照葉樹」8号(福岡市)より垂水薫さん「刻む」、黒川嘉正さん「逃亡の果て」(「詩と真実」728号、熊本市)、「無辺」15号(熊本県高森町)
山下敏克さん『落暉は故山に燃ゆ』(北九州市、創作研究会発行)、轟良子さん『海峡の風』(北九州市芸術文化振興財団発行)(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
《対象作品》石原慎太郎「再生」(文學界)/「小説家52人の2009年日記リレー」(新潮)/松本圭二「詩人調査」(新潮)。
【文芸時評】3月号=石原千秋・早稲田大学教授
「時間について」 中西 衛
あれはいつの日だったか 親しい友人に新茶を送った 店の主人は明日着きますよと言っていた ああそうですかと頷く さほど驚くことでもないと思った
関西から九州の果てまで 集積 運送 配達 これは理屈ではない実態 荷物はどこをどう どの道を通って終着までいくのか 考えたこともない
当たり前のことが当たり前であるために 睡眠じかんをも惜しんで 真っ暗やみを走り続ける プロフエッショナルの悲しい技
☆
(紹介者・「詩人回廊」江素瑛)
「当たり前のことが当たり前であるために睡眠じかんをも惜しんで 真っ暗やみを走り続ける」小さなお茶ひとつだけを相手に届くまで、いかなる人が昼夜とも言わず、仕事を取り組むのだが。
もとも日が出ると活動する、日が沈むと休むという、純粋な古き生活リズムがだんだんと破壊される今時。エジソンが電燈を発明してから、人の脳内時計が混乱し始める。多くの現代人は昼間に睡眠を取り、夜の暗やみに灯火煌々で働く。昼夜顛倒も当たり前のことで、生きるため昼も夜も睡眠を惜しむのだ。
荷物を受け取る人には魔法のようにも、または当たり前のような感覚にもなる。どこまで人間は自分で作った異常な環境に適応してゆくのか。ここに現代人の恐怖感と不安が読める。
<「国鉄詩人」250号より 2010年春 神奈川県厚木市 国鉄詩人連盟>
本誌には第6回森田雄蔵賞(陽羅義光主宰)の受賞作が発表されている。藤田愛子「横須賀線」(同人誌「構想」掲載)、畠山拓「幼心の記」(同)が受賞作。賞金は五万円を折半、掲載誌「構想」に一万円授与される。
備考として「森田雄蔵氏(1910年~1990年)は、「小説と詩と評論」の元発行・編集人。木々高太郎氏(直木賞作家)が創刊したものを20年以上にわたり主宰して現在に承継した人」とある。
【「蛍橋」雨宮湘介】
幼な馴染みの夏子という女性をめぐる恋情のさや当てと友情を描く抒情的な短編。筋立ては平凡だが、行間に文学的な情感を横溢させているので、人物が短い表現でありながら清澄感ゆたかで、陳腐さから脱しているものがある。文体を吟味してみても、計算でそうしたというよりも、天賦の才能のようなものを感じさせる。エピソードを交えた話しの運びの呼吸もよく、計ったように納まっている。
【「詩に出会うとき―ポー詩集」石川友也】
ポーの「大鴉」といえば小説で有名だが、詩として全文が掲載している。アルコール依存症の幻覚をそのまま作品にしたような作風だが、あらためて詩を読むと、死の象徴である大鴉のイメージには芸術的な工夫が凝らされていて、効果的なのがわかる。恐怖だけでなく、幻覚的な対象を静かに観察し見守る覚悟というか、徹底した自己観察があるように思った。興味深く読んだ。
発行所=〒123-0864東京都足立区鹿浜3-4-22、(株)のべる企画
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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