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2010年3月24日 (水)

<文学3月>(読売新聞3月23日)家長と余分者の距離

主夫選ぶ「父」、社会変化の一端
《対象作品》村上龍氏(58)「心はあなたのもとに」(「文学界」)/橋本治氏(61)「リア家の人々」(新潮)/広小路尚祈(なおき)氏(37)「うちに帰ろう」(文学界)/小川洋子氏(47)「原稿零枚日記」(すばる09年1月号~)/伊藤たかみ氏(38)「秋田さんの卵」(群像3、4月号)

 先月の「歌うクジラ」に続いて、村上龍氏(58)が「心はあなたのもとに」(文学界2007年6月号~)を完結させた。連載時期がほぼ重なった「――クジラ」は近未来SFだったが、こちらはリアリズムの現代小説である。
 橋本治氏(61)「リア家の人々」(新潮)は、父の権威が後退し、家族の求心力が失われていく時代の趨勢(すうせい)を1960年代末までの社会変動の中にとらえた。シェークスピア「リア王」になぞらえた、明治41年生まれの父と3人の娘たちのドラマは、悲劇の色調を帯びる。
 広小路尚祈(なおき)氏(37)「うちに帰ろう」(文学界)で、〈おれ〉は、育休明けの妻が職場に復帰する際、これから娘の面倒を誰が見るかを考えた末、勤務先の将来性や安定性から自分が会社を辞めて主夫業に専念することを選ぶ。娘を公園へ連れて行き、そこで近所の子のお母さんと知り合い、「心中の相手になって」と誘われて――というとんでもない展開だが、のんきに見えて繊細、結構したたかなこの父と、「リア家」の家長の間に横たわる距離は、この社会の激変の一端ではないだろうか。
小川洋子氏(47)「原稿零枚日記」(すばる09年1月号~)は、日記形式によってごく個人的な日常を装いつつ、苔(こけ)、運動会、母乳など〈私〉の偏愛と記憶が異世界への扉を開いていく意外性とスリルがあった。
伊藤たかみ氏(38)「秋田さんの卵」(群像3、4月号)は、30年近いキャリアを持つ付添婦〈秋田さん〉を巡る、病院内でのある出来事を描く。内科病棟で相部屋になった入院患者の男たちが、日常のレールを一時的に離れた弛緩(しかん)した時間の中で交わすとりとめないうわさ話。そこから秋田さんの姿が浮上して来る様が絶妙だった。(文化部 山内則史)

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