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2010年3月14日 (日)

同人誌「山音文学」(さんおんぶんがく)第116号(北海道)

【「銀次郎の日記-年金生活一年四ヵ月の心理」青江由紀夫】
 作者は、あちらこちらと同人雑誌を掛け持ちで、「銀次郎の日記」をハシゴ投稿している。最初はなんであろう、と不思議に思ったが、これは案外、人間社会の関係を絶やさない良い方法なのかもしれない。生活に余裕があるからの話ではあるがー―。友人の話によると、文芸同人誌には、退職金をもらって悠々自適のお役人が非常に多いそうである。富裕層の趣味の同人誌か、貧しい民衆の声の同人誌か階層別で個性が異なるかもしれない。
 ここでは、「サラダ記念日」の俵万智が25歳でデビューし、それから22年、395刷となった本が200万冊売れたとして、印税が10%として2億円という計算をしながら、作者も短歌や歌詞を作って発表している。印税が10%というのは、条件は良すぎるし、それほど収入があるとは思えないが、俵さん、今頃そうしているのだろう?と考えさせられる。日記全体の書き方が洗練されてきている。

【「恭一とダックスフント」山岸久】
 大きな湖に警察の駐在所があって、警官のその家の少年が主人公。たびたび水死人が出る。その収容の風景が、なかなかリアルさと幻想性をもって描かれている。自分も少年時代は水上署が近くにあって、土佐衛門の収容や自殺か他殺かの検視を見てきた。水死者のどこがリアルでどこが空想かが判別できるような気がした。犬を連れた自殺志望者が、犬を道づれにできずに、少年に犬を預けた後に、安心して投身自殺する様子を語って面白い。文章に幽玄さがあるのが作品を高質なものにしている。犬連れの自殺志望者についての人間的な手がかりも読みたかった。

【「同人雑誌評」根保孝栄】
 読んでいる同人誌の数が大変多いのに驚かされた。精力的な活動である。なんでも、一度この欄を廃止したら、復活の要望が多くて復活したそうである。同人誌の交流のあり方について、各同人誌はそれぞれの小結集団であって、そこに所属している書き手を結集して何ができるか、という交流の場以上のビジネス化は見込み薄ではないか、という考えが示されている。
 たしかに、交流はそこから何かが生まれるのか、従来の路線を行くのかを確かめるだけで意義があるので、定例化したものがあって不思議ではない。何も変わっていないということを定時的に確認することも意義がある。
 その一方、ビジネス化の活動というのは、具体的には五十嵐勉氏の雑誌「文芸思潮」の運営について、触れているのだが、自分はジネス化の可能性をさぐって、実現すれば、社会的に文芸の地位向上になるのではないか、と思うので成功して欲しいと思う。しかし、現在の商業文芸誌と同様のスタイルでは、現実に赤字なのでまずいし、社会的な地位もイメージは必ずしも確立していない。それでも、文学活動を社会と深くつなげるには、ビジネス化がいちばん良い。その意欲そのものが創作と同じかそれ以上の価値があるのだと思われる。
発行所=〒北海道虻田郡豊浦町大和、宇川方、「山音文学会」
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭

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コメント

伊藤昭さんへ
「山音」紹介ありがとうございます。
      根保孝栄

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2010年3月14日 (日) 18時26分

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