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2010年2月28日 (日)

安部龍太郎さん『蒼き信長 上・下』―父子2代でめざした天下

 織田信長の誕生から、30代で尾張・美濃を平定するまでを描く長編小説。平易な文章だ。豊富な史料を背景にした着想に定評のある著者だが、近年は詳しい説明は省き、文章を刈り込んでいる。「読者の方々に登場人物たちに寄り添ってもらおうと考えた結果です」という。
 信長の父・信秀を重視し、筆をさいているのが際立った特徴だ。信秀は尾張守護代の家臣だったが、次第に勢力を広げる。信長的なるものの先駆的な存在として、父親がいたというのだ。
 「2代かけて天下をめざしたのだと思います。信秀や信長が拠(よ)って立っていたのは、伊勢湾と木曽三川(長良川、木曽川、揖斐(いび)川)の流通を支配することなんですね。当時の日本はいわば、高度経済成長期。中部地方の交通を押さえることで得られる税金が、2人の経済的基盤でした。信秀の経済力が隣の今川義元に拮抗(きっこう)していたのは、朝廷への寄進額でもわかります」
 父子の共通点は、商業の重視だけではない。鉄砲など新しい文明への理解、国際的な視野、朝廷へのかかわり方、情報収集の卓抜さ、人事での思い切った抜擢(ばってき)。実に似ている。
 その信秀は脳出血で倒れ、2年間、寝たきりで過ごす。このことは、違う城にいた信長には秘されたままだった。実権を握った信長の母親や弟は対外政策で妥協を重ねる。これに反発して、優等生だった信長は反抗と放浪の日々を送るようになる。
 「この時期に、港湾などで知り合った多くの少年たちが、信長の直参になりました」。信長は統率力も養った。
 桶狭間(おけはざま)の戦いから、稲葉山城攻略へ、信長の精神のすさまじさを描く一方で、悩んだり、無気力に陥ったり、身近な面にも触れる。いくつかの色事も、明るく肯定的に披露される。
 「信長がきちんとわかれば、日本人が理解できる。その保守性と先鋭に向き合い、真正面からぶつかった人です。彼が成し遂げたこと、やれなかったことを知ると、我々自身が持っている可能性もわかってきます」<文・重里徹也/写真・荒牧万佐行>(毎日新聞 2010年2月21日 東京朝刊)

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