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2010年2月28日 (日)

安部龍太郎さん『蒼き信長 上・下』―父子2代でめざした天下

 織田信長の誕生から、30代で尾張・美濃を平定するまでを描く長編小説。平易な文章だ。豊富な史料を背景にした着想に定評のある著者だが、近年は詳しい説明は省き、文章を刈り込んでいる。「読者の方々に登場人物たちに寄り添ってもらおうと考えた結果です」という。
 信長の父・信秀を重視し、筆をさいているのが際立った特徴だ。信秀は尾張守護代の家臣だったが、次第に勢力を広げる。信長的なるものの先駆的な存在として、父親がいたというのだ。
 「2代かけて天下をめざしたのだと思います。信秀や信長が拠(よ)って立っていたのは、伊勢湾と木曽三川(長良川、木曽川、揖斐(いび)川)の流通を支配することなんですね。当時の日本はいわば、高度経済成長期。中部地方の交通を押さえることで得られる税金が、2人の経済的基盤でした。信秀の経済力が隣の今川義元に拮抗(きっこう)していたのは、朝廷への寄進額でもわかります」
 父子の共通点は、商業の重視だけではない。鉄砲など新しい文明への理解、国際的な視野、朝廷へのかかわり方、情報収集の卓抜さ、人事での思い切った抜擢(ばってき)。実に似ている。
 その信秀は脳出血で倒れ、2年間、寝たきりで過ごす。このことは、違う城にいた信長には秘されたままだった。実権を握った信長の母親や弟は対外政策で妥協を重ねる。これに反発して、優等生だった信長は反抗と放浪の日々を送るようになる。
 「この時期に、港湾などで知り合った多くの少年たちが、信長の直参になりました」。信長は統率力も養った。
 桶狭間(おけはざま)の戦いから、稲葉山城攻略へ、信長の精神のすさまじさを描く一方で、悩んだり、無気力に陥ったり、身近な面にも触れる。いくつかの色事も、明るく肯定的に披露される。
 「信長がきちんとわかれば、日本人が理解できる。その保守性と先鋭に向き合い、真正面からぶつかった人です。彼が成し遂げたこと、やれなかったことを知ると、我々自身が持っている可能性もわかってきます」<文・重里徹也/写真・荒牧万佐行>(毎日新聞 2010年2月21日 東京朝刊)

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文芸同人誌評「週刊 読書人」(2010年2月12日付)白川正芳氏

《対象作品》西本綾花「白牡丹μは鯖の目に咲く」(「三田文学」冬季号)、『庚申堂主人言行録』(ずいひつ遍路宿の会)、「カプリチオ」31号より草原克芳「下北沢路地裏ツアー」、「矢作川」11号より小野慈美華「江戸の松飾り」。
吉開那津子「谷間の家」(「民主文学」1月)、雨宮湘介「蛍橋」(「小説と詩と評論」329号)大畑靖「母の影」(「時間と空間」63号)、しん・りゅう「狂想曲・石の宴」(「山形文学」98集)。
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年2月27日 (土)

文芸時評2月(東京新聞2月25日)沼野充義

松本圭二「詩人調査」浮かび上がる詩人の魂/石原慎太郎「再生」モデルを輝かせる表現
《対象作品》「小説家52人の2009年日記リレー」(新潮)/松本圭二「詩人調査」(新潮)/石原慎太郎「再生」(文学界)/羽田圭介「御不浄バトル」(すばる)。


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2010年2月26日 (金)

文芸同人誌評「週刊 読書人」(2010年1月15日付)白川正芳氏

《対象作品》竹内のぞみ「片付け上戸」(「別冊関学文芸39号)、北村方志「足立巻一覚え書 立川文庫と池田蘭子」(「個性」35号)、安芸宏子「山梨県・山中湖畔・三島由紀夫文学館」(「半獣神」88号)。「衣笠」15号(立命館文芸会)より沢田和「川柳と私」、宮地国敬「その日を見据えながら」。
清水信「金子兜太の元気」(「文芸きなり」69)。「鬣」(たてがみ)33号の藤川義之「魯伴は古いか」、「現代文学史研究」13集の大久保典夫「私の敗戦後文壇史」、高山京子「中上健次『鳳仙花』論」、「いっぽ」9号のたかぎよりこ「パスバイ」。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年2月25日 (木)

文芸時評2月(毎日新聞2月23日)川村湊氏

想像もつかない世界/石原慎太郎「再生」視覚と聴覚失った人を主人公に、孤独とエロスを描いた秀作
《対象作品》石原慎太郎「再生」(文学界)/松本圭二「詩人調査」(新潮)/木村紅美「見知らぬ人へ、おめでとう」(群像)/羽田圭介「御不浄バトル」(すばる)。

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2010年2月24日 (水)

同人雑誌季評「季刊文科」第47号2010年2月7日

◆勝又浩氏「移り変わり」
和田信子「ミッドナイト・コール」(「南風」26号、福岡市)、同誌より松本文世「花見坂」、遠山孝「名古屋・季節工物語」(「八月の群れ」51号、明石市)、同誌より辻加奈江「うらら うらら」、春木静哉「大地の緑の空」(「こみゅにてぃ」81号、和光市)、本千加子「死刑囚・Nさんへの手紙」(「カンテラ」22号、西宮市)、青海静雄「偽学生と哲学」(「午前」86号、福岡市)、鈴木京子「老人生態学」(「午後」19号、横浜市)、北原文雄「ごね屋」(「淡路文学」4号、洲本市)、福島広子「風の遠景」(「時空」31号、横浜市)、柴田宗徳「子規の妹」(「流氷群」52号、鳥取市)。
◆松本道介氏「小説の味つけ」
垂水薫「同行(どうぎょう)」(「照葉樹」7号、福岡市)、藍道子「シュークリーム」(「こみゅにてぃ」81号、和光市)、印内美和子「水辺の小春」(「小説家」131号、東京都)、高安修蔵「公園」(「河」151号、東京都)、難波田節子「遺産の周辺」(「季刊遠近」38号、東京都)、喜田周三「童子(わらし)」(「とおん」9号、大東市)、田村くみ子「家」(「あてのき」36号、金沢市)、金山嘉城「三十年はとても短い」(「青磁」26号、福石井)、文正夫「つゆ明け」(「繋」2号、吹田市)。
●「同人雑誌の現場から」執筆者は以下です。
「同人誌の周辺」笹沢信(「山形文学)、「同人雑誌をとりまく環境」白崎昭一郎(「日本海作家)、「同人雑誌活動は滅びない」塩見佐恵子(「米子文学」)、「『高齢』がどうした」岩崎清一郎(「安芸文学」)、「松山と同人雑誌」織田こべに(「原点」)、「同人誌の発行と書き手たち」なかみや梁(「南涛文学」)。
●今号の転載は、「文芸復興」20号より「杠(ゆずりは)」多門昭作、「狼」54より「ふりかけごはん」森静泉作。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年2月23日 (火)

五木寛之さんが直木賞委員辞意表明!!日刊ゲンダイの連載エッセーで

 作家の五木寛之さん(77)が、1978年から務める直木賞選考委員を辞任する意向を示していることが19日、分かった。同日発行の日刊ゲンダイの連載エッセーで明らかにした。
 五木さんは22日発売予定の「オール読物3月号」(文芸春秋刊)に佐々木譲さんの同賞受賞作「廃墟に乞(こ)う」の選評を書いたが、その中に「間違いがあった」ため責任を取るという。同誌編集部によると、五木さんは誤って、佐々木さんの作品中にはない「破顔した」という表現について言及した。文芸春秋側では「見過ごしたのは我々のミス」として慰留している。(10年2月22日 読売新聞)
 
 メモ=昨年、五木氏の講演をきいたが、ウツの時代について仏教的な話をし伝道師てき活動に感じた。東洋人には心のうさを晴らす方法を長い間つちかってきたという。それをきいて、日本の和歌、俳句や同人誌活動などが、憂さ晴らしの方法をよく活用していると感じたものだ。


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2010年2月22日 (月)

吉本隆明フェア。雑誌「BRUTUS」(マガジンハウス)が連携

吉本隆明フェア(新宿・紀伊国屋書店5階) 評論家、吉本隆明さん(85)のブックフェアが書店の枠を超え、横断的に行われている。
 参加しているのは紀伊国屋書店(新宿本店、新宿南店、新潟店、福岡本店など)、丸善丸の内本店、三省堂書店神保町本店、ジュンク堂書店池袋本店、リブロ池袋本店、青山ブックセンター全店など、「最大の吉本隆明フェア」のキャッチフレーズを裏切らない主要書店。生年の節目や作品の映像化もなく、硬派なテーマで各店が特集をするのは珍しい。
 雑誌「BRUTUS」(マガジンハウス)が2月15日号で吉本隆明特集を組んだのが契機となり、各書店が連携し、書店員が個性的な売り場を作った。
 紀伊国屋書店新宿本店では2月末まで、3階と5階でフェアを開催中=写真。担当した仕入課係長の大籔宏一さん(34)が、「言葉が腑(ふ)に落ちた本を並べた」という。『今に生きる親鸞』(講談社+α新書)などと並ぶお薦めの一冊が、吉本さんとコピーライター、糸井重里さんの対談『悪人正機(しょうき)』(新潮文庫)。フェア期間中、普段の5倍ペースで売れているそうだ。「若い読者が『BRUTUS』を窓口に、先入観なく読み始めているようです」(大籔さん)
 またギネスブックに、「世界一長いオーディオブック」として登録された講演集『五十度の講演』(総収録時間115時間超、CD115枚、DVD-ROM1枚。東京糸井重里事務所・5万円)を“大人買い”する人もあり、根強い吉本人気を見せている。(産経ニュース10.2.21)

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2010年2月21日 (日)

著者インタビュー: 小沢一敬(スピードワゴン)さん

 お笑いコンビ・スピードワゴンの小沢さんが作家デビュー!!18人の登場人物に起こる小さな出来事から非日常的な事件までを描いた、小説『でらつれ』。サプライズ&バラエティに富んだ世界に、あなたをトリップさせます!
小沢:最初から自伝じゃなく、フィクションでいこうと考えていたんです。10代の頃に家出物語を書いていたこともありましたから。僕の人生、自伝にするほどのものじゃないし……。書きたいことが多かったから、何を書こうか結構迷いましたね。
(編集部)さらりと読める文章のおかげで、物語の世界にのめり込めます。
小沢:文章が拙いかもしれないけど、僕は誰でも書けるような文で書き上げたかった。甲本ヒロトさんがブルーハーツ時代に“誰にでも歌える歌がいいんだよ”と言っていたけど、それと同じ気持ちなんです。
(編)最後の物語、ラストの五行を読んだ瞬間は温かい気持ちに包まれます。
小沢:金城一紀さんの小説『対話篇』に収録された『花』の最後の五行が、今まで読んだ中で一番美しかった。その影響か、読者をハッとさせるラストが書きたかったんですよ。
(編)この物語の登場人物は全員35歳。いわゆる“大人”と言われる世代です。
小沢:35歳を過ぎた今、僕は中学生の頃と何も変わっていない。だから無理して大人になろうとしなくていいんだよ、とにかく生きていれば何とかなるさ、そう伝えたかったんです。
(2/16発売「TOKYO1週間」掲載のインタビューより)

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2010年2月20日 (土)

【Q4】あなたの好きな私小説は?

(講談社『BOOK倶楽部メール』 2010年2月1日号) ・「人間失格」(太宰治) ・「蒲団」  (田山花袋) ・「岳物語」 (椎名誠) ・「死の棘」 (島尾敏雄) ・「命<四部作>」(柳美里)
★「君は白鳥の死体を踏んだことがあるか(下駄で)」(宮藤官九郎)私小説とは思えないほどの煙に巻きっぷりで面白く読めました。(京都府 I様 20代)★『蒲団』(田山花袋)高校生の時に読んで、とにかく衝撃を受けたのを覚えています。一種のフェティシズムというか、匂いで異性に対して何かしらの感情を吐露するというのが当時の私には驚きでした。(神奈川県 O様 30代)
★「富嶽百景」(太宰治)太宰の生きようとする決意が感じられる。(東京都 T様 30代)★「死の棘」(島尾敏雄)学生時代にはまりました。人間の強くて弱いところが描けていると思います。(東京都 Y様 30代)★「兄弟」(なかにし礼)弟に能力で劣るということが明確になってしまった兄が取った破天荒な行動が、兄弟ともに不幸な結果になった点が気の毒だった。(兵庫県 K様 30代)★「暗夜行路」(志賀直哉)暗い、長い、でも何となく救われる気がするラストまで読ませます。(東京都 K様 50代)★「死顔」(吉村昭)私小説の古典的な手法で書かれている。小説は自分を語るという意味で、すべて私小説ではないでしょうか。(神奈川県 F様 70代以上)
【Q5】“この人の自伝or伝記があったら読みたい!”と思う人物は?(敬称略)
 ・西尾維新 ・イチロー ・京極夏彦 ・小泉純一郎 ・オバマ大統領

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伊藤桂一先生を迎えて同人誌「グループ桂」合評会の余談から

 指導にあたる伊藤桂一先生を迎えて14日、「グループ桂」61号の合評会が行われた。生徒の方は、体調が良くないとかで、休むひともいるのに93歳の伊藤先生は元気で、ひとりで折りたたみステッキをつかってやってこられた。耳がやや遠くなっているので補聴器を使っている。先生の体験によると、補聴器は周囲の音を全部平等に集音してしまうので、喫茶店や居酒屋など周囲がやかましいと、後ろの音まで拾ってしまうので不便で、正面を向いて静かに話し合う場面に向いているそうだ。
 たまたま同人仲間の川口氏が、事務所に寄ってきて、「文芸同志会」宛てに郵便がきていると、持ってきてくれた。封筒を開けると同人雑誌が2冊入っていた。
 たまたま伊藤先生の隣の席だったため、「これは何だろう」と「小説と詩と評論」という雑誌を眺めていたら、伊藤先生が「ああ、それは古い歴史のある同人雑誌だよ」と教えてくれた。自分は初めて見る雑誌である。もう一冊は「構想」であった。
 これは前によく送られてきたものと思っていたら、伊藤桂一先生も手にとって、ページをめくり「ああ、この人たちは、全作家のメンバーだね。あちこち送って反応を見てみようというところだろうね」と教えてくれた。
 その他、「東北北海道文学賞」は、主宰の大林さんが病に倒れ、中止状態だそうである。「仙台の新聞記者をされていた大林さんですか」というと伊藤先生は「君は、よく知っているね」という。先生が、全作家は有力な同人誌だから、いってみたら、というので、顔をだしていた時期があったのだ。
 選者の大河内昭爾氏も、仙台まで遠出をするような事情にないということだ。何年か前にある会場で、一緒に帰ることがあったが、当人の胃潰瘍の手術はともかく、夫人の負担を軽くするために、かわりに買い物をしていくとか、言われていた。
 そういうことを考えると大河内氏より10歳年長の伊藤先生は元気である。自分が伊藤先生と同年になるまで元気ならまだ一仕事できることになる。
 その他のことは、「詩人回廊」サイトに写真付で書いてある。このサイトはもっと宣伝して多くのひとの声かけしようと思っているのだが、ほかに頼まれごとがあって、そちらを優先するので手がまわらない。ある会社からも2社ほど支援しても良いといわれているが、どういうスタイルで参加してもらったらいいか考慮中で、手がつけられていない。基本は、自分が作品を書いてその下に、この「詩人回廊」サイトを###は支援しています、としてHPをリンクすることでどうだろうと思っている。

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2010年2月18日 (木)

村上春樹『1Q84 BOOK3』アマゾンの4月発売予約が1万部突破

 アマゾンが2月5日から予約受付を開始している村上春樹『BOOK1』『BOOK2』の同時予約受付の際は、約3週間で2巻合計1万部を突破したことから、市場の『BOOK3』への期待感は高まっている。『BOOK3』は4月16日に初版50万部で発売。定価は1995円(税込み)。

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2010年2月16日 (火)

同人誌「視点」第72号(東京都多摩市)

【「コマチ」(第7回・最終回)浜田雄治】
 75枚。病んだ現代日本の文明批評としての長編小説。若い世代ではSF的なライトノベルで、想像上の未来を描くのが多い。それに対し、本作品は原始的共同体社会の潜入を描く。人間の過去社会への郷愁の味がする。

【「湯煙が消えた街」筑紫亮】
67枚。一時は栄えた温泉町から温泉が枯渇してしまい、その町の住宅団地の管理組合の不正経理をからめて、話が進む。登場人物など細部は面白いものがあるが、話は割れてしまった。全体の構想と物語の割り振りにムラがあるようだ。
 その他、石原テイ子「白いしゃがの花」7枚。矢田山聖子「おんな万時塞翁が馬」(5章)」42枚。随筆、萩照子「古都・許容」、吉岡和夫「シャーマン」を掲載。
 発行所=東京都多摩市永山5丁目4-9、大類方、視点社。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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2010年2月15日 (月)

第17回三田文学新人賞に岡本英敏さん「モダニストの矜恃(きょうじ)--勝本清一郎論」

 第17回三田文学新人賞(三田文学会主催)は、岡本英敏さん(43)の評論「モダニストの矜恃(きょうじ)--勝本清一郎論」に決まった。賞金50万円。

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2010年2月14日 (日)

文芸季評2010(読売新聞2月13日) 文芸評論家・安藤礼二氏(多摩美術大准教授)

「家族と言葉 問い続ける」
《対象作品》舞城王太郎「ビッチマグネット」(新潮社)/大森兄弟「犬はいつも足元にいて」(河出書房新社)/大江健三郎「水死」(講談社)/東浩紀「クォオンタム・ファミリーズ」(新潮社)/円城裕「烏有此譚」(講談社)。

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東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)が店頭で見当たらなかった話

 東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)を読んでみようと書店に買いに行ったところ、本が見つからない。在庫を調べてみると、取り寄せになるという。別の店でも、在庫を調べてもらったら、当初から配本がないようだという。噂は下記のサイトにあるように知っていたが、発行部数が少ないのか、人気で品薄なのかはっきりしないまま、あるところで買えた。
<東浩紀著『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)店頭で一時、品薄に>

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2010年2月13日 (土)

石原慎太郎都知事の観た「文学と世相」

 世相を憂うなら、都立日比谷図書館がぼろぼろで、集まった文芸同人誌を寄贈したいといったら、整理する本が多く受けられないという。なんでも日比谷図書館は千代田区に移管するのだとかいう話もでた。
 作家なんだからオリンピック招致よりも文芸文化の維持の方が重要だと思うのだが。文学で人心を高めると世相も変わるのでは。
石原慎太郎都知事の観た「文学と世相」
 太宰治は文弱の徒とするなら文芸同志会は文強の徒をめざす人たちを支援します。自分のことは自分でアピールするが情報交流をしたいという方は会員になりましょう。見返りの約束はなく、年会費4800円です。すでに相聞歌サイトの近藤圭太代表とも連携支援し、近藤氏は社長ブログのビジネス化など、事業展開をしています。今年は間もなくさらに2団体加入するので支援活動をします。

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2010年2月11日 (木)

同人誌「カオス」第17号(西東京市)

本誌は20数年の歴史があるという。1年半ぶりの発行らしい。
【「恵林寺まで」今野一成】
 住民の老齢化の進む団地センターが舞台。主人公は58歳だが、3年前に妻を亡くして独り暮らし。妻の生命保険が入ったので、早めに退職し、その後は年金の支給をまとうというつもりなのだ。こういうひねった設定で、主人公の人間的な癖を浮き彫りにする。読みはじまれば、この作者が小説を作るのが巧い人だとわかる。彼は、住民の中で、気の合う友達が一人いたが、その友人が亡くなって孤独にならう。自殺したという噂も出る。主人公は、団地内の老齢化した人々とのサークルに、気の進まないままに、巻き込まれていく。皮肉のきいた視点で、主人公の見聞でうわさと実際とのギャップが埋められるようでいて、なかなか真実は煙のなかのようで見えないという話の運びが巧い。登場人物の出現の仕方や性格付けに、効果を心得た設定がなされて、同種の同人誌小説とは比較にならない手腕が感じられ、面白かった。

【「森永・江崎の便利屋事件簿―不思議な事件の巻」木野晴海】
 タイトルの通り便利屋商売をしている3人が、頼まれた仕事のなかで怪しい事件のにおいを嗅ぎつけ、それに巻き込まれるというか、入り込むというか、ミステリーのシリーズ物のスタイルである。明るい主人公たちの調子の良い活躍ぶりで、楽しく読ませる。中味はきちんと書かれていて、おとぎ話的な世界を展開するのは良いのだが、-不思議な事件の巻―とするセンスがひっかかる。この題材であったらせめて「○×邸の謎」くらいのところにしないと、結構良くかけていても、このセンスだと、この作品はまぐれで出来が良いだけではないのか?と疑問を持ってしまうのでは。タイトルを見て脇に置いてしまうほどのものに思えるが、そこが同人誌の良さであろう。
発行所=〒202-0013西東京市中町2-7-8、竹内方。カオスの会。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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2010年2月10日 (水)

トルタが「詩のいま、世界のいま」で言葉の交流イベント=首都大学東京

文学フリマに出店しているTOLTA(トルタ)と首都大学東京現代詩センターが共済した詩のコラボレーション。
「詩のいま、世界のいま」で言葉の交流イベント=首都大学東京

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2010年2月 9日 (火)

同人誌「文学街」269号・270号(東京)

 月刊の文芸同人誌で主宰の森啓夫氏が、同人誌の連携を提唱し、富士正晴・全国同雑誌フェスティバル(今年は、徳島県三好市で10月30日に開催される)の参加を呼びかけている。また、3月14日には東京都大田区の区民プラザ(東急多摩川線・下丸子駅すぐ)で「関東地区同人雑誌交流会」が開催される。多摩川線というのは、多摩川沿いに走るのどかな電車で、どの駅も河川敷に近い。天候さえよければ、一日中散歩人の絶えない風光明媚な地域である。
(参照:多摩川の中流域はボラが群れて、岸辺には釣り人とヒガンバナ!=東京
原石寛という作者が269号で「侘びしき凱歌」、270号で「我が老残人生」を発表している。書き方は古いが、擬似私小説の手法を使っており、文学精神のあり処を心得ていて読ませる。また、毎号同人雑誌評を根保考栄氏と吉岡昌昭氏が沢山の雑誌の作品を批評している。

 余談だが、自分の紹介は、幾度も同じ事をいうが、社会の動向が文芸伝統にどう表れているかという視点で読んで紹介している。その資料の応用だから批評ではなく紹介となる。
 現在、菊池寛の「作家凡庸主義」論についての評論を準備しているが、当時の文壇と同人誌というのは、文学の質の向上のために、また次の作品を良く書くために仲間同士で読みあって批評をしあったという気配が感じられる。それだから、どんなつまらない実験的な作品でも、面白くない作品でも我慢して読むという忍耐をしていたのであろう。
 ところが、現在では、生活日誌的な作文集に属するのと(これも書く人の精神安定と生きがいについては有用である)、読者を意識した向上心を含んだものが同列にある。作文集を読む方はポリシーがなく、忍耐だけを強いられる。これが同人誌のジャーナリズムに乗らない原因のように思える。
 菊池寛は「作家凡庸主義」のなかで、どんな名作を読むよりも、下手でも自分で書いて表現する方がどれだけ楽しいかわからない、と述べている。文学のカラオケ要素である。
 とは言っても、やはり才能のある人の作品は読みたい。人生に与える良い影響ははかり知れない。そこに価値がある。カラオケにしてもプロの手本があってのカラオケである。
 しかし、菊池寛のこの意識があってこそ芥川賞・直木賞の創設をし得た発想であることに感慨を感じざるを得ない。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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2010年2月 8日 (月)

【読売文学賞の人びと】「正弦曲線」 堀江敏幸さん(46)

 サイン、コサイン、タンジェント。受賞作は、数学の授業で習った三角関数の「魔法のような言葉の響き」から語り起こされる。正弦曲線とは、サインの関数をグラフで表したときのなだらかな波形のことだ。
 〈なにをやっても一定の振幅で収まってしまうのをふがいなく思わず、むしろその窮屈さに可能性を見いだし、夢想をゆだねてみること。正弦曲線とは、つまり、優雅な袋小路なのだ〉
 「日常は、地震計のように跳ねる大きな振幅ではなく、遠くから見ると直線に見えるほどの小さな浮き沈みで成り立っている。それは退屈に見えるかもしれないが、僕には退屈ではない」と語る。
 「婦人公論」に2年間連載した各編は緩やかにつながりながら、波のようなうねりを描き出す。周期律表、測鉛……。硬質な用語を「あえて曲解し」、思いがけない風景へと読者を導く。
 4年前、セーヌ川に係留された船の上での生活を描いた『河岸忘日抄』で読売文学賞小説賞を受賞したばかり。受賞の知らせには「びっくりしました。エッセー集はこれまで何冊も書いていて、そんなに違ったことをやっているつもりはない」と少し戸惑い気味だが、「波のような」二つの本での受賞には不思議な縁を感じる。
 二つの受賞作は同じ「散文」。今作が「小説といわれても問題ない」という。一つの波の山や谷が、時には小説、時には随筆と呼ばれるにすぎない。
 「フランスの仮とじ本が好きだったんです。大家でも新人でも同じ扱い。潔くていい」。研究室の本棚に並ぶ一冊を手にとって語る。
 2007年から、母校の早稲田大で創作を指導する。受賞の知らせを受けたのは、ちょうど学生の卒業小説を見ている時期。原稿用紙300枚を超える長編も含めて約30作。一作一作、誠実に向き合う様には激しさもにじむ。「読むと、書いた学生の気持ちが入ってきてしまって、それが抜けるまで自分のものが書けなくなる。3週間に1回は全く動けなくなって、家でずっと倒れています」
 語り口は穏やかだが、日常の振幅を乱さず、一定の幅に収めるためには強靱(きょうじん)な意志を必要とする。そんな強さを秘めながら、作家は美しい波形を描き続ける。(堀内佑二)(10年2月4日 読売新聞)

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2010年2月 7日 (日)

西日本文学展望「西日本新聞」2月2日朝刊・長野秀樹氏

題「モノ」や「コト」
木下恵美子さん「死の島」(「詩と真実」727号、熊本市)、井上百合子さん「祭りのあと」(「火山地帯」160号、鹿児島県鹿屋市)。
「九州文学」第7期8号(福岡県中間市)より暮安翠さん「南天と蝶」、西田英樹さん「近藤父子」、波佐間義之さん「ある男の軌跡」、林由佳莉さん「母に出会う日」
「荒草」15号(福岡県筑後市)より深田俊祐さん「おめでとう『荒草』15号、杉山武子さんの特別寄稿、佐野ツネ子さん「麦秋の風(後編)」、小西なほみさんの評論「野上弥生子研究」。「火山地帯」は酒井久志さんの追悼号。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)

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2010年2月 6日 (土)

文芸時評1月(毎日新聞1月27日)川村湊氏

「仕事をする女性」のハシリ/書くことが生きることの祈りだった
《対象作品》しまおまほ「奄美のマンマーの家で」(新潮)/朝比奈あすか「クロスロード」(群像/島本理生「あられもない祈り」(文芸・春季号)。

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2010年2月 5日 (金)

文芸時評1月(東京新聞1月28日)沼野充義氏

よしもとばなな「アナザーワールド」脱中心的志向の魅力/津村記久子「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」/木村友祐「幸福な水夫」
《対象作品》よしもとばなな「アナザーワールド」(新潮)/高原英利「日々のきのこ」(文学界)/朝比奈あすか「クロスロード」(群像)/津村記久子「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」(同)/木村友祐「幸福な水夫」(すばる)2009年ノーベル賞受賞作家ヘルタ・ミュラー(ルーマニアからドイツに亡命した女性作家)インタビュー記事(「すばる」。ドイツ『ツァイト』紙からの翻訳、浅井晶子訳)/管啓次郎「斜線の旅」(インスクリプト)。

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2010年2月 4日 (木)

【読売文学賞の人びと】(1)小説賞「太陽を曳く馬」 高村薫さん(56)

 15年前の1月17日、激しい揺れを感じたのは、大阪の自宅のベッドでだった。炎に包まれた神戸を映すテレビ、鳴りやまない救急車の音、6400人が亡くなった現実――。
 「人間が言葉を積み重ね、築き上げた社会が、大震災によって一瞬で瓦解する。言葉で何かを形にすることに意味なんてあるのか」
 漠然と持っていた言葉への信頼が壊れた。2か月後、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きる。
 荒涼とした心境が、浜風の吹きすさぶ海辺の光景を引き寄せた。1997年から津軽に根ざす福澤家の物語へ挑み、戦中戦後を描く『晴子情歌』、80年代の保守政治を追う『新リア王』。いつしか4世代をまたぐ話に膨らみ、三部作を締める本作で賞を射止めた。
 「この12年、五里霧中でした」。本棚が並ぶ自宅の応接室で、静かに喜びをにじませる。
 受賞作は、9・11米同時テロ発生直後の2001年の東京が舞台だ。絵に執着する福澤家の末裔(まつえい)が、同棲(どうせい)中の女性や隣人を突然殺害した事件と、元オウム真理教信者でてんかんの持病を持つ若者が、禅寺で修行中に起こした事故を核に進む。
 一見、理解不能な事件を直木賞受賞作『マークスの山』に登場した合田雄一郎刑事が捜査する。道元の仏書『正法眼蔵』を踏まえた難解な宗教論や美術論を戦わせ、中でも、オウム真理教について僧侶や合田が延々と議論する場面は、作家が登場人物に乗り移って教義を論破せんばかりだ。
 「圧倒的な迫力」「冗長で退屈」――。選考会の評価は割れた。
 「読者に伝わるか葛藤(かっとう)はあった。世間には二つの事件のように、法律や宗教、哲学の専門家でも、意味や背景を的確に言い表せない出来事がある。様々な分野の言葉から漏れ落ちてしまう現にある出来事に、小説の言葉で迫りたかった」
 阪神大震災で崩れた自身の言葉への信頼を取り戻すため、一語一語を積み上げ、高い物語を築くことが作家として必要だった。
 <私たちの生命は、どんなときも生きよ、といふのです>
 「ぐちゃぐちゃ言わずに生きればよい。三部作を書き終え、ようやく楽天的な場所に来ることができた気がします。人間は生きていることの意味を問い続けることで、人であり続ける。問い、書き、新しいことを始める衝動から私は、死ぬまで逃れられない」
 自宅には猫が3匹。2階の書斎で執筆を続けると1階の猫が寂しがり、階段を時々降りてはパソコンに向かう。(待田晋哉)(10年2月2日 読売新聞)

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2010年2月 3日 (水)

テアトル・エコー創作戯曲募集

2010年度(第37回)募集要項
テアトル・エコーは、喜劇を上演し続けている劇団です。意欲的な素晴らしい作品をお寄せください。
'09年度 選考結果発表
入選 該当作品なし
入選佳作 石川栄一作「時苦想(ジグソー)パズル」
■今年の応募数は122本でした。入選佳作の作品は、時間の枠を跳び越えてしまった男とその家族を描いたものです。構成がしっかりしていて、意外性・情感もあり、上質なコメディとして高く評価されました。最終選考には麓 貴広、武 浩幸、吉村健二(作品名略)の三氏が残りました。
=2010年度(第37回)募集要項=
■応募作品 テアトル・エコーで上演出来る未発表の創作劇に限ります。原稿枚数その他いっさい 制限ありません。応募作品はお返し致しません。
入選 70万円(初演上演料を含みます)
入選佳作 20万円

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2010年2月 2日 (火)

東浩紀さん、小説『クォンタム・ファミリーズ』を刊行!本気で小説家に

小説『クォンタム・ファミリーズ』を刊行 東浩紀さん
 このなかで、こう語る。
『目指したイメージは、ディックや、『素粒子』などが日本でも読まれているフランスの現代作家ミシェル・ウエルベックのような「外国文学っぽいもの」。物語には様々な謎や仕掛けが施され、エンターテインメント性も高い。「ふだん文学を読まないような人でも読んでくれるような小説を書いていきたい」と語る。』
 ミシェル・ウエルベックの「素粒子」は、自分も読んでいて、以前にこんな感想を書いている。
《ボ-ドレ-ル、セリ-ヌなど現実罵倒文学の伝統を継ぐ、ウェルベック》

《参考資料:東浩紀+桜坂洋『キャラクターズ』で読む日本文学の傾向と対策


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2010年2月 1日 (月)

文芸時評(産経新聞1月31日)2月号 石原千秋・早稲田大学教授

《対象作品》青山七恵「ファビアンの家の思い出」(文學界)/ 朝比奈あすか「クロスロード」(群像)/原田ひ香「東京ロンダリング」(すばる)/島本理生「あられもない祈り」(文藝)/ よしもとばなな「王国」(新潮)。

【文芸時評】2月号 早稲田大学教授・石原千秋 青山七恵の意外な「したたかさ」 今月の小説の中で、最も印象に残ったのは青山七恵「ファビアンの家の思い出」(文學界)である。15年前の話。大学4年生の「私」は友人の卓郎に誘われて、スイスに住む卓郎の女友達ナディアに会いに行く。ところが、ナディア一家はリフォーム中で、ファビアン家に一時的に住んでいるのだった。乳製品でお腹(なか)をこわす「私」は、旅行中ずっと体調が悪い。それでも何とか日程をこなして、ナディアと別れた。15年後のいま、「私」はまだナディアと文通をしている。毎回、あてもなく「会えるのを楽しみにしています。いつこちらに来られそうですか?」と締めくくりながら。

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