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2010年2月 9日 (火)

同人誌「文学街」269号・270号(東京)

 月刊の文芸同人誌で主宰の森啓夫氏が、同人誌の連携を提唱し、富士正晴・全国同雑誌フェスティバル(今年は、徳島県三好市で10月30日に開催される)の参加を呼びかけている。また、3月14日には東京都大田区の区民プラザ(東急多摩川線・下丸子駅すぐ)で「関東地区同人雑誌交流会」が開催される。多摩川線というのは、多摩川沿いに走るのどかな電車で、どの駅も河川敷に近い。天候さえよければ、一日中散歩人の絶えない風光明媚な地域である。
(参照:多摩川の中流域はボラが群れて、岸辺には釣り人とヒガンバナ!=東京
原石寛という作者が269号で「侘びしき凱歌」、270号で「我が老残人生」を発表している。書き方は古いが、擬似私小説の手法を使っており、文学精神のあり処を心得ていて読ませる。また、毎号同人雑誌評を根保考栄氏と吉岡昌昭氏が沢山の雑誌の作品を批評している。

 余談だが、自分の紹介は、幾度も同じ事をいうが、社会の動向が文芸伝統にどう表れているかという視点で読んで紹介している。その資料の応用だから批評ではなく紹介となる。
 現在、菊池寛の「作家凡庸主義」論についての評論を準備しているが、当時の文壇と同人誌というのは、文学の質の向上のために、また次の作品を良く書くために仲間同士で読みあって批評をしあったという気配が感じられる。それだから、どんなつまらない実験的な作品でも、面白くない作品でも我慢して読むという忍耐をしていたのであろう。
 ところが、現在では、生活日誌的な作文集に属するのと(これも書く人の精神安定と生きがいについては有用である)、読者を意識した向上心を含んだものが同列にある。作文集を読む方はポリシーがなく、忍耐だけを強いられる。これが同人誌のジャーナリズムに乗らない原因のように思える。
 菊池寛は「作家凡庸主義」のなかで、どんな名作を読むよりも、下手でも自分で書いて表現する方がどれだけ楽しいかわからない、と述べている。文学のカラオケ要素である。
 とは言っても、やはり才能のある人の作品は読みたい。人生に与える良い影響ははかり知れない。そこに価値がある。カラオケにしてもプロの手本があってのカラオケである。
 しかし、菊池寛のこの意識があってこそ芥川賞・直木賞の創設をし得た発想であることに感慨を感じざるを得ない。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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コメント

同人誌作家と商業ジャーナリズムに乗った作家との違いは、ずばりいうと、実力の差でしょう。実力があってジャーナリズムに乗らない同人誌作家は十数人だけ。運不運の差だけでジャーナリズムに乗れないでいる同人誌作家は、そんなに多くはいません。ただ力があっても高齢化してしまって、旬でない実力派は十人ほどいますが、ほとんどは素人に毛の生えた程度の書き手で、プロには距離のある書き手がほとんど、というのが同人誌作家群像です。
 私が全国の同人誌作家の作品を読んでいて感ずるのは、野にも磨かれていない珠玉が存在している可能性を信じるからです。
 そして、実際に数は少なくても珠玉は存在します。そのような珠玉は、三段式ロケットのようにある霊感に触発されて怪物に変身するでしょう。そういう珠玉の後押しが自分の役目と思っております。過去何人か発掘してますが、今後さらにそれらの珠玉を日の当たるところに導くのが時評家の役目と心得ております。
 最近の文芸誌の文芸時評家は、珠と石との見分けも出来ないのがほとんどで、同人誌作家におもねて誉め言葉を撒き散らしている体たらくですから、どうしようもありません。
 この場でも珠と石を見分ける慧眼を、少しは持っていただきたいものです。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2011年1月31日 (月) 06時02分

伊藤さんの「文学カラオケ現象」の指摘、その通り。同人雑誌評は、今風に言えば「文学』の差別化です。カラオケは黙殺で良い。私はそうゆう意識で同人雑誌評をやってます。真剣な書き手は励まし、カラオケ層の書き手は黙殺、特に同人誌ボスのカラオケ層の酷いのはチクリ覚醒剤投入です。
同人誌作家の半分は、カラオケサークルで安住している現実。嘆かわしいことです。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2010年2月12日 (金) 19時07分

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