同人誌「カオス」第17号(西東京市)
本誌は20数年の歴史があるという。1年半ぶりの発行らしい。
【「恵林寺まで」今野一成】
住民の老齢化の進む団地センターが舞台。主人公は58歳だが、3年前に妻を亡くして独り暮らし。妻の生命保険が入ったので、早めに退職し、その後は年金の支給をまとうというつもりなのだ。こういうひねった設定で、主人公の人間的な癖を浮き彫りにする。読みはじまれば、この作者が小説を作るのが巧い人だとわかる。彼は、住民の中で、気の合う友達が一人いたが、その友人が亡くなって孤独にならう。自殺したという噂も出る。主人公は、団地内の老齢化した人々とのサークルに、気の進まないままに、巻き込まれていく。皮肉のきいた視点で、主人公の見聞でうわさと実際とのギャップが埋められるようでいて、なかなか真実は煙のなかのようで見えないという話の運びが巧い。登場人物の出現の仕方や性格付けに、効果を心得た設定がなされて、同種の同人誌小説とは比較にならない手腕が感じられ、面白かった。
【「森永・江崎の便利屋事件簿―不思議な事件の巻」木野晴海】
タイトルの通り便利屋商売をしている3人が、頼まれた仕事のなかで怪しい事件のにおいを嗅ぎつけ、それに巻き込まれるというか、入り込むというか、ミステリーのシリーズ物のスタイルである。明るい主人公たちの調子の良い活躍ぶりで、楽しく読ませる。中味はきちんと書かれていて、おとぎ話的な世界を展開するのは良いのだが、-不思議な事件の巻―とするセンスがひっかかる。この題材であったらせめて「○×邸の謎」くらいのところにしないと、結構良くかけていても、このセンスだと、この作品はまぐれで出来が良いだけではないのか?と疑問を持ってしまうのでは。タイトルを見て脇に置いてしまうほどのものに思えるが、そこが同人誌の良さであろう。
発行所=〒202-0013西東京市中町2-7-8、竹内方。カオスの会。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
| 固定リンク
コメント