文芸時評(産経新聞1月31日)2月号 石原千秋・早稲田大学教授
《対象作品》青山七恵「ファビアンの家の思い出」(文學界)/ 朝比奈あすか「クロスロード」(群像)/原田ひ香「東京ロンダリング」(すばる)/島本理生「あられもない祈り」(文藝)/ よしもとばなな「王国」(新潮)。
【文芸時評】2月号 早稲田大学教授・石原千秋 青山七恵の意外な「したたかさ」 今月の小説の中で、最も印象に残ったのは青山七恵「ファビアンの家の思い出」(文學界)である。15年前の話。大学4年生の「私」は友人の卓郎に誘われて、スイスに住む卓郎の女友達ナディアに会いに行く。ところが、ナディア一家はリフォーム中で、ファビアン家に一時的に住んでいるのだった。乳製品でお腹(なか)をこわす「私」は、旅行中ずっと体調が悪い。それでも何とか日程をこなして、ナディアと別れた。15年後のいま、「私」はまだナディアと文通をしている。毎回、あてもなく「会えるのを楽しみにしています。いつこちらに来られそうですか?」と締めくくりながら。
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