第十回文学フリマの出店参加の申込み受付けを開始
文学フリマ事務局は、第十回文学フリマの出店参加申込み受付けを開始した。
■第十回文学フリマ 開催概要
2010年5月23日(日)
開場11:00~終了16:00(予定)
場所 大田区産業プラザPiO 大展示ホール
(京浜急行本線 京急蒲田駅 徒歩3分、JR京浜東北線 蒲田駅 徒歩13分)
出店参加者 360ブース募集
出店参加費 4,000円(追加イス+500円)
※申込締め切り=2010年2月23日(日)
文学フリマ事務局は、第十回文学フリマの出店参加申込み受付けを開始した。
■第十回文学フリマ 開催概要
2010年5月23日(日)
開場11:00~終了16:00(予定)
場所 大田区産業プラザPiO 大展示ホール
(京浜急行本線 京急蒲田駅 徒歩3分、JR京浜東北線 蒲田駅 徒歩13分)
出店参加者 360ブース募集
出店参加費 4,000円(追加イス+500円)
※申込締め切り=2010年2月23日(日)
電子書籍販売サイトの「電子文庫パブリ」に参加の出版社21社は、電子書籍市場に対応するため、「一般社団法人日本電子書籍出版社協会」を設立する。アマゾンの読書端末「キンドル」日本語版のほか、ソニーやシャープなども新型電子端末の開発に乗り出すなど出版コンテンツの争奪戦の激化が予想されるなか、出版社の主導権と権利を確保する狙いがある。
日本電子書籍出版社協会は「電子文庫出版社会」を発展的に解消し、新たに設立する。3月中旬の設立総会で代表幹事を選出する予定。事務局長には光文社を今春定年退職する細島三喜氏が内定している。
拡大する電子書籍市場はグローバル化している。そのなか、「アマゾンの全文検索」や「グーグルブック検索和解」、「国立国会図書館のジャパンブックサーチ」などの事態も噴出し、任意団体では対応できない局面を迎え、法人化に踏み切った。
ネット書店のアマゾンは小売の側面からみれば出版社にとって頼もしい存在だが、デジタル出版社となる可能性を秘めることから“脅威”の存在でもある。「キンドル」日本語版をテコに出版コンテンツの収集を加速させる一方、そのバイイングパワーを背景に中小出版社にデジタル化権を要求するのではないかとの懸念を抱く出版社もいる。また、出版社がデジタル化による作品の二次利用の権利を著作者と共有できるよう経済産業省などと交渉する。
参加出版社は次の通り。朝日新聞出版、NHK出版、学研ホールディングス、角川書店、河出書房新社、講談社、光文社、実業之日本社、集英社、主婦の友社、小学館、祥伝社、新潮社、ダイヤモンド社、筑摩書房、中央公論新社、徳間書店、日経BP社、PHP研究所、双葉社、文藝春秋(50音順)。
芥川賞は、今世紀に入って初めて「該当作なし」に終わった。第142回で31度目の「なし」だから、驚くべきはむしろ前回までの20回、受賞作が連続したことの方なのかもしれない。選考後の記者会見で池澤夏樹委員は、議論中の発言を紹介した。「小説とは、作者が何かを偏愛するその偏愛が核にあって、その話が書きたいという意欲があって、そこから生まれてくるものではないか」。2002年『王国 その1 アンドロメダ・ハイツ』(新潮社)に始まり、「アナザー・ワールド 王国その4」(新潮)で今月完結したよしもとばなな氏(45)の長編には、偏愛の核がある。
占い師・楓(かえで)と彼のアシスタントの女性・雫石(しずくいし)、楓と同性愛で結ばれた片岡。不思議な三角関係を中心に、雫石=〈私〉の視点から語られてきた『王国 その3 ひみつの花園』(同)までの3作と違い、「その4」で語り手〈私〉は、雫石の娘ノニに代わっている。今は亡き〈パパ〉楓、法律上の〈パパ2〉片岡、〈ママ〉雫石の3人に育てられ、〈石を扱う魔法〉を持つノニは、〈パパ〉との思い出の地、ミコノス島をひとり訪れ、妻を交通事故で亡くしたキノと出会い、新しい世界の扉を開く。
ゆるやかに結ばれた家族の紐帯(ちゅうたい)は語り手が世代交代しても寛容で心地よい。登場人物たちは、社会が強いる価値観に自分を無理に合わせれば、本然的にあった感覚や人間の時間は失われ、自然の流れを見過ごしてしまうことを知っている。「効率」が幅をきかせる現代に、ゆっくり歩くからこそ見えるものを感受して生きる彼らは、なおさら自由で魅力的に映る。
よしもと作品の人びとは、意識するしないにかかわらず、善く生きたいと願う。個の命が絶えても受け継がれていくもの、魂と世界の成り立ちを包み込む柔らかでつよい希望の物語に、作家が繰り返し書いてきたテーマの集成を感じた。
すばる文学賞で昨秋デビューした木村友祐氏(39)の受賞第一作「幸福な水夫」(すばる)にも、書くことの核がある。東京で小劇団を率い芝居を書き続けるものの芽が出ず、妻の収入頼みの40目前の男が、夢に見切りをつけ、職人養成の学校に入る金を借りようと八戸の実家に帰省する。3年前の脳梗塞(こうそく)で今は車いす生活をする73歳の父の希望で、家業の製粉・製麺(めん)業を継いだ兄と3人、下北の温泉へ1泊2日の小旅行に車で出かける。泊まった温泉旅館には、父の〈色っぽい過去〉があった――。
下北半島を北上する途中には、高度経済成長期の夢の残骸(ざんがい)のような「むつ小川原開発区域」の看板があり、原発のPR館があり、立ち寄った恐山は妙に観光化されている。父子3人が交わす南部方言のリズムが、道中のおかしみとかなしみを加速する。山場は旅館内のスナックで、開発に来ているらしい都会の連中と父子が衝突する場面。カラオケで父が歌おうとする演歌は、地方の人間を食い物にして恥じない者たちへの怨歌(えんか)の響きを帯びる。息子たちに言わせれば自分の思いを全部曲げて〈つぐづぐ、あぎらめの人生〉を送ってきた父にも、忘れ得ぬ記憶があり、抑えてきた怒りがあり、誇りがあった。そこを見つめる作家の眼が光っている。
赤坂真理氏(45)の新連載「東京プリズン」(文芸春号)の出発点にあるのは〈私の家には、何か隠されたことがある〉という予感。中学卒業後、海外に出ることを強いられた〈私〉のアメリカ体験、敗戦後の東京裁判の際に資料の下訳をしていたという母の過去をたぐりよせていく。時間を自在に飛び越える叙述はダイナミックで、日米の歴史の流れの中で家族の秘密の核心へ分け入っていこうとするスケールがある。今後の展開を大いに期待させる始まりだ。
島本理生氏(26)「あられもない祈り」(同)は、暴力的なミュージシャンと不安定な生活をする〈私〉が、妻ある男と再会し、心揺れ動く様を少女時代の記憶を織り込んで生々しく描く。その男を〈あなた〉と呼びかけるように書くことから生まれる緊迫感が、題材をよく生かしていた。(文化部 山内則史)(10年1月26日 読売新聞)
見出し:「家」喪失した感懐描く
木下恵美子「死の島」(「詩と真実」727号)、江口宣「夜明け前のバスに乗って」(「長崎文学」62号)
文末抜き書き:圧倒的な「家」の存在を前提に、その現実を内部から描いた藤村に対し、いずれも痕跡としてのリアリティを描く点に現代の特色がある。
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
北国では、なぜか自死する人が多い。都会人の憂愁を多く表現する詩風の佐藤裕は、ここでは北方の白く無の大地に思いを馳せる。抑圧された夥しい北方人の知られざる苦悩が、花弁の紅は血と見え、川の黒い流れとなって溶けるように吸い込まれて行く。そこには都会における逃れざる暗欝につながるイメージがある。
。
戦争体験を次世代に伝えようと、毎年出版されている「孫たちへの証言」(新風書房刊)の原稿を募集中。第23集となる今年のテーマは「庶民の体験でつづる≪もう一つの戦争≫」。原稿は1600字以内。締め切りは3月末日。入選作約90編が23集として出版する予定。
本誌はエネルギッシュな書き手の集まりで、ショートショートあり、ユーモアコントあり、評論ありで、総合文芸的な面白さを持っている。
【「四人目の男」濱村博三】
ミステリー小説。ある婦人を仕事関係で訪ねてくる若者が相次いで、婦人の住む階から転落死する。警察では、事故死扱いをするが、刑事のひとりが、彼女に疑いをもち聞き込みをする。マンションの5階でエレベーターがないという話は、今風ではないが、オチもあって面白い。
【「裁きへの系譜」水郷流】
少女殺害事件で、DNA鑑定の誤りや検察の人権無視の取調べで、容疑者はむりやり自白され、死刑判決を受けたが、最終的には最高裁で無罪になった足利事件の概要をたどったようなモデル小説。小説であるので、真犯人への言及などもあってもいいかと思ったが、市民の関心として記録するのは良いかもしれない。
【「まわり道」山中正剛】
高齢になって病気になると、正しい診断をしてくれる病院になかなか出会うことができない。あちこち病院をまわされて、正しい治療を受けるまでをユーモラスに描く。若い頃から高齢者の病気を知っていても、いざ自分が高齢になって病気になると、高齢にならないと経験しないことなので、未知の分野。まごつくことが多い。共感をもって読んだ。
【「文豪の遺言」(5)木内是壽】
作家の生涯をたどりながら、死に際の言葉を明らかにする。よく調べたもので、大変面白い。
【「北方水滸伝を読む」福島泰吉】
中国の水滸伝を原作とする日本の水滸伝物語りを巡る話。これも面白い。
【「不況だ、笑って吹く飛ばせ!」出井勇】
タイトルの通り、笑い話、駄洒落などを面白く書く。秀逸。才気がある。現役の落語家はこういうネタを提供すると使ってくれることがある。
【「切ったり切られたり」外狩雅巳】
労働者文学的な、労働体験小説。筆力がある。作者は、「この路地抜けられます」(東京経済社)などの小説は、紀伊国屋書店などで、200部以上売れているそうである。私も読んで見たが、リアルな仕事体験や職場体験は、時代の情報があるので売れることが多い。ドキュメンタリー的な明確な文章がわかりやすく良いのであろう。昔の編集者は、短い文で仕事場の状況を巧く伝えるものや、4人~5人の同時会話、群集描写能力があるかとかで、作家的な手腕を評価したものだ。今でも事情は似たようなものがあるのではないか。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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テレビが新聞を読み上げる時代になりました。情報ルートが単純化しすぎています。情報の多様化に参加のため「暮らしのノートPJ・ITO」ニュースサイトを起動させました。運営する団体・企業の存在感を高めるため、ホームページへのアクセスアップのためにこのサイトの「カテゴリー」スペースを掲示しませんか。文芸同志会年会費4800円、同人誌表紙写真、編集後記掲載料800円(同人雑誌のみ、個人で作品発表をしたい方は詩人回廊に発表の庭を作れます。)。企業は別途取材費が必要です。検索の事例
連携サイト穂高健一ワールド
第26回織田作之助賞(大阪文学振興会主催)は、大賞が中丸美繪(よしえ)氏(54)のノンフィクション「オーケストラ、それは我なり-朝比奈隆 四つの試練」(文芸春秋)に決まった。賞金100万円。青春賞には島谷明氏(24)の小説「マニシェの林檎」、同賞佳作には木田肇氏(24)の小説「換気扇」がそれぞれ選ばれた。
中丸、島谷両氏は長崎県小値賀(おぢか)町生まれ、福岡市在住。木田氏は神戸市生まれ、京都市在住。(産経ニュース10.1.17)
直木賞が佐々木譲さん『廃虚に乞(こ)う』と白石一文さん『ほかならぬ人へ』の2作に決まったのは午後7時半。選考委員を代表して、宮城谷昌光氏が4回にわたって投票を重ねた選考過程を説明した。(産経ニュース10.1.14)
まず初回の投票で、辻村深月さん『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』、葉室麟(りん)さん『花や散るらん』が脱落。2回目の投票で道尾秀介さん『球体の蛇』、3回目では池井戸潤さん『鉄の骨』が外れた。残った2作で決選投票が行われ、まったく同じ点数だったため同時受賞となった。
佐々木作品の受賞理由について、宮城谷さんは「小説の破綻(はたん)のなさ。読み終えたあと、何となしによかったと思わせる。そこにこの作品の持つ良さが表れている」とたたえた。白石作品は「文体および構成力がすぐれている。高級な文体を使い、高級な展開。テーマ、小説の作り方を含め、推す声が多かった」と高く評価した。
3回目の投票まで残った池井戸作品については、「受賞2作と甲乙付けがたかった。読み手にたいそう分かりやすい。談合がどうして必要で、どうして悪なのか考えさせられるストーリー」としながらも、「人間関係などが少し弱い。それが文章の荒さとともに欠点とされた」と話し、受賞作には一歩及ばなかったとした。
2回目の投票で落ちた道尾作品については、「訴えてくる力が弱かった。対岸の火事のようで、火の粉がここまで届いてこない。期待している作家なので、もっといい作品で受賞してもらいたい」と、次回作に期待を込めた。
最初に脱落した葉室作品について、宮城谷さんは「前回の『秋月記』はよかったが、それに比べると今回は少し慌ただしい筆だった」と、作品としての荒さを指摘。辻村作品については、「語り手の立ち位置が明示されておらず、会話でも誰がしゃべっているのか分からない」と、文体に問題があると話した。(磨井慎吾)
直木賞を受賞した佐々木譲さん(59)は「もう少しリラックスしているはずだったのですが、すごく緊張している」と第一声。還暦を目前にしてつかんだ栄冠を静かに喜んだ。
受賞作は、バブルに沸くリゾート地や寂れた炭鉱跡の町で、心を病み休職中の北海道警の刑事が事件の裏側に迫る。北海道・夕張生まれ。「一番身近で風土を熟知した」郷里が舞台の作品での受賞となった。
高校卒業後、「今風に言う自分探しのフリーター」生活を送り、広告会社などを経て、20代でデビュー、冒険小説、歴史小説など次々とジャンルを変えてきた。「一つのことをやっていると飽きてしまう」
昨年、映画化された「笑う警官」など近年は警察小説がメーン。「警察組織が、日本社会が持つ問題を普遍的に体現している」と気づいたからだ。「絶対的正義を掲げるテレビドラマ的刑事は好きじゃない」
東京の自宅に妻子を置き、普段は道東の仕事部屋で一人暮らし。「小説を通し本当に格好いい男を追究したい」(文化部 佐藤憲一)(10年1月14日 読売新聞)
直木賞を受賞した白石一文さん 「大嫌いな賞」。直木賞に決まった白石一文さんは、そう公言してきた。
作家だった父・一郎さん(故人)が、直木賞を受けたのは、実に候補8度目でのことだった。それまで息子は、父が候補になると「これで食うや食わずの生活が変わる」と思い、父は落選するたび、団地の狭い一室に詰めかけた記者たちに頭を下げていたという。子供心に思った。「なんでパパが謝るんだろう」
だが息子が選んだのも同じ棘(いばら)の道だった。きっかけは大学1年の時、一郎さんの小説を批判したこと。父は猛烈に怒った。「なら、お前も書いてみろ」。挑発された息子は、東京の下宿で作品を書き、故郷・福岡に送りつけた。すると驚くことに、父は絶賛。「それで僕は道を誤ってしまった」
大学卒業後、出版社に入ってからも書き続けたが芽が出ず、デビューできたのは41歳。以来、人はどう生き、どう社会と対峙(たいじ)すべきかを考えさせる作品を発表しながら、一貫して小説の可能性を探ってきた。
「僕が小説家になることに父は反対だった。でも結局は、僕も、父と同じようにこの道しかない」との思いを、いま改めてかみしめている。(文化部 村田雅幸)(10年1月14日 読売新聞)
第142回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考委員会が14日夕、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、直木賞に佐々木譲氏(59)の「廃墟に乞う」(文芸春秋)、白石一文氏(51)の「ほかならぬ人へ」(祥伝社)が決まった。白石氏は初の親子受賞。
第142回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)芥川賞の該当作がなかったのは、平成11「年の121回以来、11年ぶり。
映画専門誌「キネマ旬報」の2009年ベストテンと個人賞が12日決まり、「パンドラの匣(はこ)」に出演した芥川賞作家の川上未映子さん(33)が、新人女優賞を獲得した。
芥川賞作家が俳優部門で受賞したのは初めて。受賞の知らせに「びっくりした」という川上さんは「これまで何気なく映画をみていたが、(映画に出演して)どんな映画も何かを目指して作られていることが実感として理解でき、いい経験をさせてもらった」と語った。(10年1月13日 読売新聞)
出版社「文化出版局」は、ファッション雑誌「ハイファッション」を2月27日発売の4月号で、生活美術雑誌「季刊銀花」を2月25日発売の161号で、それぞれ休刊する。
ハイファッションは昭和35年創刊の老舗ファッション誌。77~78年のピーク時は13万部を発行していたが、直近の平均発行部数は3万5000部に減少。「銀花」は67年に増刊として刊行され、70年に定期誌化。75年のピーク時には9万部を発行していたが、直近の平均発行部数は2万5000部だった。
今後、編集内容の一部を同誌ウェブサイトで配信することを検討している。季刊銀花は45年創刊。「心豊かな暮らし」をコンセプトに、生活に密接した日本の伝統工芸や美術などを取り上げてきた。同社は「広告費や部数の低迷といった市場環境の変化や、情報ソースの多様化が理由」と説明。
(「文芸思潮」五十嵐代表より)13日、村上春樹の「1Q84」の批評を中心に、中沢けい氏、富岡幸一郎氏、三田誠広氏などと、3時間の座談会をやる予定です。
日本文化チャンネル桜で、放映は1月16日土曜日20:00から23:00(スカパー!217チャンネルです)
今年は四国の三好氏で、富士正晴同人雑誌賞を中心に、全国同人雑誌会議を10月30日、31日にやり、まほろば賞公開選考会もそこでやる大きな同人雑誌のイベントがあります。日本の同人雑誌界のエポックになるような展開になったらいいと思っています。
同人雑誌作家の皆さんのご参加を期待しております。
どうかよろしくお願いします。 文芸思潮●五十嵐勉
対談勝又浩氏・伊藤氏貴氏「新 同人雑誌評」
《今号で取り上げられた作品》
大西智子「不眠不休ランナー」(「カム」5号、奈良県桜井市)/武田典子「羽化」(「文芸思潮ウェーブ」30号、東京都)/倉永洋「その向こうの影」(「雪渓文學」58号、大阪市)/田中重顕「盆踊り唄」(「中部ぺん」16号、名古屋市)/「山岸久「正月」(「山音文学」115号、札幌市)/北村幹子「或るマッサージ師の恋」(「季刊 遠近」37号、東京都)/山田無六「青の絵日記」(「京浜文学」14号、横浜市)/長瀬葉子「言えなかったこと」(「とぽす」47号、茨木市)/福井ゆかり「貧乏神」(「てくる」6号、大阪市)/佐佐木邦子「幻のブタ」(「仙台文学」74号、仙台市)/平木アイス「パスカルとわたし それから」(「メタセコイア」6号、大阪市)/石井国夫「侵蝕」(「火」7号、東京都)/安達久美子「ひとりあそび」(「法政文芸」5号、東京都)/石井利秋「鉄道団地」(「カプリチオ」30号、東京都)/河合愀三「霧と蜘蛛と」(「龍舌蘭」177号、宮崎市)/垂水薫「同行」(「照葉樹」7号、福岡市)/池部正臣「虞郷」(「九州文学」7号、福岡県中間市)/野田知子「寡黙」(「作品・T」17号、吹田市)/山口馨「風景-泪橋あたり」(「渤海」58号、富山市)/出水沢藍子「ワシントンの五色桜」(「小説春秋」22号、鹿児島市)/笹沢信「君になれにし……」(「山形文学」97号、山形市)
「ベスト3」
勝又氏:「その向こうの影」(「雪渓文學」)、「ひとりあそび」(「法政文芸」)、「青の絵日記」(「京浜文学」)
伊藤氏:「羽化」(「文芸思潮ウェーブ」)、「不眠不休ランナー」(「カム」)、青の絵日記」(「京浜文学」)
(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
(紹介者「詩人回廊」江 素瑛)
「なぜ戦争を止めないのか」と問いかけると、「国家があるから」と答えるしかない。
いろんな国々といろんな人間。兄弟が喧嘩するのと、世界の国家が喧嘩するのとどう違うのか。違う個体が騒ぎ、それに国家がのりだすと戦争になる。国家は国民の貪欲と憎しみを引っ張りだし、武器を造り、武器の実験台になる戦争を起こす。国家は戦争を戦争で抑える。国民の間には、恨みの溝が深まり、また国家の戦争を呼ぶ。世界が一つの国になれば、一心同体、夢のような時が来られるように祈りたい。高雄の空が世界人類の空であるように。これからも国家戦闘機の交戦する空ではなく、旅客機の飛んでいる空であるように。
☆
「高雄の空」 秋山泰則
耕一さんは高雄の上空でなくなった/小さな木の箱の中で石になって帰ってきた/おじさんもおばさんも二人の弟も/親戚中の大人も子供も泣いた/葬列の白い幟が風で揚ったとき/「耕ちゃんの襟巻きみたい」と言う声がした/おじさんは何も書いてない白い幟を竿からはずして丁寧に畳み/シャツのボタンを外して胸にしまった/その間 葬式の列は道端に止まり/提灯行列で興奮したことを/ラジオの臨時二ュースに沸き立ったことを/新聞やラジオより先にみんなで戦争を喜んでいたことを悔やんだ/あれから何十年か生きておじさんが/次におばさんがなくなった/また何十年かして耕一さんの二人の弟もなくなった/耕一さんがいた頃の家族はみんないなくなった
おじさん達が行けなかった台湾の空へぼくは行った/耕一さんが果てたという高雄の空は大都市の上にあった/横に流れた白い雲 その端で光ったものを見て風防がと思い/旋回する翼かと思った時に/僕は心の中に平和がないことを知った/戦争が無いことが平和なのではなく/平和は戦争をさせない人間の心にあることを知った
(秋山泰則詩集 「遠い遺言」より 09年7月 長野県 松本詩人会)
チャップリンの秘書が日本人だったということは、ファンの中では以前から知られていましたが、私が研究を始めたのは2004年からです。
調べたら、滅茶苦茶おもしろい人で、人生でした。破天荒といってもいい。100年以上前に生まれた無名の人、広島から単身行った男が、戦争に翻弄されながら生きた人生。その男を主人公にした初めての本です。私が書いたチャップリンの本の中に、今まで高野を登場させたことはありますが、取材しなおして新発見が相当ありましたので、私にとってもツタンカーメンの棺で見つかった宝のような本です。今まで、映画に収録されなかったNGシーンの話とか、喜劇王チャップリンにまつわる新事実も収録しました。講談社100周年の記念企画という大企画に名だたる先生方の本と一緒に参加させていただき、光栄です。(大野裕之)(講談社『BOOK倶楽部メール』 2010年1月1日号より)
浅田次郎さんが、現代を舞台にした長編小説としては7年ぶりの『ハッピー・リタイアメント』(幻冬舎)を出した。債権保証機関に天下った男二人が、ある企(たくら)みを極秘裏に進める姿をユーモアたっぷりに描くが、ただの“お笑い”には終わらせず、人はどう生きるべきか、なぜ天下りが起きるのかにまで踏み込む。言うなれば、浅田流幸福論・社会論である。(村田雅幸)
“泣かせの浅田”という印象が強いが、「僕は、本当はお笑いなんです」と言う。「『鉄道員』が直木賞を受賞したために道を踏み惑い、シリアスな小説を書くようになってしまった」と、今作は確かに、初期の『きんぴか』『プリズンホテル』のように、コミカルな要素をふんだんに盛り込みながら進んでいく。
主人公は、ノンキャリアの財務官僚だった樋口と、愚直さだけが取りえの元自衛官・大友。共に55歳で「JAMS」なる組織の整理部に再就職したが、その部署は、さまざまな団体からの天下りの受け皿だった。与えられた仕事は、時効を迎えた債権の回収。つまり、踏み倒され、法的には返す必要のなくなった金を集める役目だが、実際に取り立てればトラブルになりかねないと、他の誰も何もせず、ただ高給をはんでいる。少しの呵責(かしゃく)も感じることなく、金があることが最高の幸せだと信じて。
「日本人が従来持っていた幸福感が失われつつあるのではないか」。今作をしたためた背景には、そんな思いがあるという。そういえば、かつてよく耳にした「成り金」という言葉は、気づけば、セレブという言葉にすり替わっている。「そこには、さげすみがない。だから、違和感があるんだ」
その違和感を託したのが、オヤジギャグを連発する樋口と大友という存在だった。二人には、働かなくていいということがしっくりこない。それに気づいた秘書の立花女史が誘う。〈ねえ、仕事しましょうか〉。二人は回収に挑み、まれに成功する。道義的責任を感じて支払う男、過去の記憶から逃げたくて返済する女。金が集まり出すと立花は「幸福な退職」実現のため、大胆な計画を二人に持ちかける。果たしてその計画とは?
「年を取ったらさっさと仕事を辞め、遊ぶことですよ。遊びが文化を育む」。そう言うと浅田さんは、江戸時代に日本地図を作った伊能忠敬を例に挙げた。忠敬は50歳で隠居、地図を作り始めたのは、樋口らと同じ50代半ばだった。
「人生とはヒューマンアビリティーの発見の旅なんだ。自分の可能性をどれだけ発掘できるかという。何かを始めるのは、若ければいいというものでもない。年を取った人には経験がある。僕もデビューは40歳と遅かったが、実はそれがよかったんだと思う」
さて、この小説にはもう一つ、気になる部分がある。プロローグに書かれた、債権保証機関の男の訪問を受けた作家が、すでに時効になった30年前の借金を返済する羽目に陥るエピソード。作家の名は〈浅田次郎〉。著者一流のユーモアかと思いきや、「実話なんだよ。でもさ、借金を取りに来たヤツはその後すぐ、定年で辞めてるんだ。怪しいだろ。だまされたのかもしれない。じゃあ、小説にして元を取り返そうと思ったんだ」。
あさだ・じろう 1951年、東京都生まれ。自衛隊除隊後、ブティック経営などを経て作家デビュー。2000年、『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、08年、『中原の虹』で吉川英治文学賞。(10年1月4日 読売新聞)
本誌のコラムに、発行元「仙台文学の会」が、昨年10月にウェブ誌「破滅派」の基幹編集委員・高橋文樹氏の講演会を実施した記述がある。高橋文樹氏は30歳。学生文学賞や新潮新人賞を受賞している。山形在住の直木賞受賞作家・高橋義夫氏の子息であるという。講演では、本の再販制度の崩壊や、電子書籍の標準化、小出版社の隆盛、単行本・文庫による利益追求の動向が解説されたとある。このブログでも、こうした動向は知ることができるが、ウェブデザイナーでもある同氏の話を直接聴くことは刺激的あったであろうと思う。
こうした変化の激しい状況のなかで、文芸同人誌は、旧態依然として大正、昭和時代のシステムを維持している。このシステムの固定化というのものが、ひとつの安心感となり、その世代の参加意欲を高めている。同時に、文芸同人誌がケータイ、ネットの情報文化のなかでガラパゴス化している傾向があり、それが関係者に実態以上に衰退感を感じさせているようだ。
現在のネットサイト利用は、雑誌掲載物をネットに上げる手順が主流だが、これはまだ途中段階である。自分はネットサイトに上げたものから、世間で価値があると見たものを紙印刷本にするという流れが、自然だと感じる。現状は、そのパターンが定着する前の段階だと思う。いずれにしても最終は印刷本の世界にいくと思う。高橋氏の「破滅派」は、ネットサイトから出発し、文学賞受賞者が出たので印刷雑誌「破滅派」になったのであろうと見る。
【「大堤」安久澤 連】
貞享元年(1684年)の金ヶ崎館の城の近くを流れる宿内川の治水をめぐる歴史小説である。歴史と文学性という高度な結合を実現させた作品で、読み応えのある力作。すばらしい。当時は、人柱という風習がまだ残っていたようで、それを実行するまでの村人の心理やいきさつが、はらはらどきどきさせる運びで、引き込んでいく。とくに、文学的な面でみると、洪水の川と堤の描写の巧さ、またイタコのような「口寄せ」の場面は、情念の意識の流れを見事に表現して、すばらしい完成度を見せている。良い作品である。
【随想「金売吉次のふるさとを訪ねる」石川繁】
金売吉次といえば、奥州の金を都で売った男で、義経伝説や当時の歴史物語に登場する。しかし、その正体はよくわかっていないようだ。その謎の男について、ここでは相当丁寧に追跡調査している。自分は、この分野はよく知らないのだが、これが吉次調査の最新決定版としてもいいのではないかとおもわれるほど、説得力のある調査をしている。興味深く、ふんふん、そうなのか、と読んだ。やはり、地元の人のじっくりとした姿勢に勝るものはない。歴史小説の作家には、貴重な資料となるのでないか。
発行所=〒981-3102仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島方、仙台文学の会。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
自費出版や地域に根ざした関連本の㈱新風書房(本社・大阪市・福山琢磨社長)は、刊行された自費出版物を回覧し、読んだ人が読後感想を記入する「本の渡り鳥」のシステムを運営している。
昨年の第21回は、34冊の本が対象に選ばれ、止まり木とする会員に順次送られている。本の感想をノートに書き、1カ月以内に次の会員に送る活動が実施されている。
自費出版本は、著作関係者の範囲でしか読まれることがなく、見知らぬ人に読まれる機会が少ない。「本の渡り鳥」で読まれた自費出版が、かつてはテレビドラマの題材に使用され、取材をされたものなども出ている。
福山琢磨氏は、NHKカルチャーセンターなどで自費出版のノウハウを教える講師もつとめ、自費出版センターを運営するなどし、特に戦争体験を記録する「孫たちへの証言」を毎年刊行し、メディアからも注目されている。
「本の渡り鳥」のシステムも自費出版本の読者を拡大のための地道なシステムである。今回選ばれた本は次のとおり。
▽自分史▽
馬杉次郎「健康長寿百歳」/馬杉次郎「仕事は死ぬまで寿命はあるまで」/堀霧澄「難嶺に挑む」/堀霧澄「回想 朱夏の炎」/中村喜彦「激動の世を生きて」/小池さちみ「来し方春秋」/山崎照子「テコちゃんのテンテコ舞い」/藤井正恵「いのちキラキラ」/「辻尚子「胸、はって行こ!パートⅡ」/須田政美「辺境農業の記録」/石井正員「ほほえみの向こうに」/端田泰三「落椿」/品川文男「或る自分史―昭和初期の回想」/須崎俊雄「格子戸を破った男」/坂井薫美「向い山 猿が三匹とおる」/種子明「人に恵まれし我が道のり」。
▽随想▽
木戸湊「記者たちよハンターになれ!」/織田金雄「荷篭をかついで」/木元健二「わたしの鳥取」/橋本巌「木地師俳人 筒井寸風」/色川大吉「猫の手くらぶ」/成迫正則「汗と感動の学校づくり」/菅原千代子「梅の実のごとく」/中谷勝明「小原庄助さん謎解き満遊記」/森山諒子「天国へのかけ橋」/柴田敦姫「京都万華鏡」/白岩健二「過ぎて来し日日」。
▽戦記▽
「孫たちへの証言・第21集」「同第22集」(新風書房)/野島勲「シベリアの銀杯」/「孫たちへの手紙・第9集」(岩手県老人クラブ連合会)。
▽詩歌集▽
朝戸昭雄「ひこばえ」/斎川玲奈「句集 薔薇窓」/小田切南「お母さんへ」。
第142回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の候補作が5日付で発表された。芥川賞候補では、34歳と33歳の実の兄弟による共作で昨年、文芸賞受賞の大森兄弟や、劇団「大人計画」の主宰者で、舞台演出から脚本、俳優、映画監督の松尾スズキさん(47)らの5作、6人がノミネート。直木賞候補には、「空飛ぶタイヤ」で経済小説に新ジャンルを拓いた池井戸潤さん(46)、映画化された「笑う警官」以来、北海道警を舞台にした警察ミステリーを手掛ける佐々木譲さん(59)らの6作が選ばれた。選考会は14日、東京・築地の新喜楽にて開催される。
候補作は次の通り(敬称略)。
【芥川賞】=大森兄弟「犬はいつも足元にいて」(文芸冬号)/羽田圭介「ミート・ザ・ビート」(文学界12月号)/藤代泉「ボーダー&レス」(文芸冬号)/舞城王太郎「ビッチマグネット」(新潮9月号)/松尾スズキ「老人賭博」(文学界8月号)。
【直木賞】=池井戸潤「鉄の骨」(講談社)/佐々木譲「廃墟に乞う」(文芸春秋)/白石一文「ほかならぬ人へ」(祥伝社)/辻村深月「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」(講談社)/葉室麟「花や散るらん」(文芸春秋)/道尾秀介「球体の蛇」(角川書店)。
西尾維新です。あけましておめでとうございます。
2010年ですね。振り返ってみれば、去年はあまり小説を出版できなかった印象があります。
本人的には割と働いたつもりなんですけれど、書き下ろし小説に限れば2冊ですか。ただ、文庫化やアニメ化のおかげで、仕事ぶりとしては例年と変わらぬ貢献ができましたようですので、まあいい年だったと言えそうです。とは言え安定してばかりもいられません。出版界には現在、不況の波と共に電子書籍化の波が押し寄せて来ております。数年のうちには紙媒体が過去のものになりかねない情勢です。新時代の幕開けはすぐそこです――って対応できるわけね-じゃんそんなの!
なんだよ電子って!原子核のそばを回ってるあいつか!そんなわけでペーパーが幅を利かす(紙幅?)「古きよき時代」のうちに、できる限りの小説を書いておこうと思います。あー、ワープロが登場したときの小説家ってみなさん、こんな気分だったのかな……。
では軽く今年の執筆予定など。まずこの文章が配布される前後には物語シリーズの最新作『猫物語』を書き終わってるはずです。ゴールデンウィークのお話です。物語シリーズではもう一本、迷子の子の話で『傾物語』を書くつもりですが、それを書くのは夏頃です。
世界シリーズ第5作『ぼくの世界』は、メフィストの4月発売号に「第さん問」を発表、その続きは書き下ろし。たぶん全六話の短編集になると思います。世界シリーズはこれで完結です。
完結というならば、パンドラ連載小説『蹴語』、あちらも本年中に最終話を書き下ろしてしまおうと考えています。予定より長引いてますが、文字通りケリをつけようというわけです。
忍者小説『真庭語』のエピソードは、残すところあと8人。『刀語』のアニメも放映されていることでしょうし、これも今年中には書き終わっておきたいです。そうそう、つい先ごろに講談社100周年企画で刊行させていただいた『難民探偵』、なんだか評判がよかったので続編の制作が決定しました。今年中に『難民探偵2』を刊行できるでしょう。そしていよいよ『緋色の英雄』。タイトルで大体誰の話かわかっちゃうと思いますけれど、まあ彼女の生い立ちの物語です。カバーから小口から活字まで、全部赤色でお願いしたいです。電子書籍じゃ無理っていう。以上!
まあこれ僕が書くってだけのことで、出版社が書き上がった原稿を引き取ってくれるかどうかはわかんないですけど。それでは今年も――というか、電子書籍時代の到来まで、よろしくお願い
します。 西尾維新(講談社『BOOK倶楽部メール』 2010年1月1日号)
本書のなかに、三田村博史氏のコラムがあって、もともとは教室誌で、原稿用紙5枚までというきまりで始まったそうである。それがいつの間にか、長いものになっていったという。たしかに、ここにあるショート・ショートは、書き出しがピリッとしいてムダがない。
【「謎の空席」長沼宏之】
ショート・ショート。電車に乗っていると、空席が二つあって、そのうちのひとつに腰掛けたら、自分を変な顔でみられる。隣の空席は埋まらないで、みな避けているようだ。まるで、あの秋葉原の無差別殺人をした若者が、電車内で自分の隣に一度席をとった人が、急に席を変えたことで、心が深く傷ついたような、スリリングな空気を描く。なるほどと、というオチがつく。実に巧い。お見事と拍手の作品。
【「父の背中」岡崎博子】
ショート・ショート。爪のネイルとガンで亡くなった父との思い出を語る。これはオチがないが、必要を感じさせない。娘の気持と感を素直に表現することで完結させている。
【「インカローズ・プロジェクト」大西真紀】
年寄りを相手にする詐欺師の男女の仕事場にアルバイトで雇われた若い主婦の話。その割には長くムダ話が多い。現代という時代の特徴表現と作者の感性による夫婦関係の表現とが合成されている。欲張りな作品だが、どっちつかず。
発行所=〒458-0383名古屋市緑区青山2-71、安藤方、「創」編集部
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
本誌の「後書き」によると編集責任者・伊藤雄一郎氏は、08年8月に第8回シニア文学新人賞を受賞。昨年には同人の野田悦基氏が山手一郎のペンネームで時代小説を書き、第12回伊豆文学賞を受賞。同氏の「幸福の選択」(鳥影社)は全国販売され、松本の書店では平積みされたという。同時に「小説新潮」4月号には短編小説が掲載されたという。文学の世界は、読み手よりも書き手の方が多いというほど競争が激しい。それなのに大変なものである。
【「碧水まさる」野田悦基】
金田昭平さんという友人が内田百閒全集と山頭火全集を置いて行って間もなく亡くなってしまう。彼の死と関係者をめぐる話で、浮世の有情無情を感じさせる。人物の描き方が巧く、エピソードの出し入れの手順がなめらかで、面白く興味深く読んだ。
【「銀次郎の日記―年金生活の開始1年2ヵ月と読書」青江由紀夫】
ちょうど総選挙で自民党から民主党への政権交代の時期の日記。読書と千葉の海の釣り三昧に政治論、作詞したものなどが披露されている。社会的には、こうしたライフスタイルの記録は貴重である。つい最近、鹿島灘の防波堤で釣り人が波にさらわれる事件があったが、あれが出来たのはかなり昔である。出来たばかりの時から釣り人の間では名所となっていた。住金のコンビナートの話題もあるが、自分は流浪の時代に2年近く、泊り込んだり通ったりした。その時代は見放されていた砂漠地帯の鹿島灘に、完成までに20年を要するコンビナートができるというので、全国の建設業者がクレーンを持ちこんで、アメリカ西部の石油開発の時代のような様相を呈していた。当時は、冬場は、嵐になると雪が吹き荒れた。これを読むとあの激動の時代を思い出す。
昨年、事業仕分けで、話題になった雇用促進事業団の末裔は、全国各地の閉山した炭鉱労働者をここにも再就職させていた。その頃から、そうした仕事の斡旋は必要がなくて労働力は民間で流動化していた。当時から官僚は仕事がないのに税金で食うことを自民党と組んでやってきていたのだ。青江氏は、社会問題についても書いているが、一般人の意識の代表例として読める。
発行所=〒359-0025埼玉県所沢市安松1107-4、伊藤方。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
【「翻訳文化の新時代」尾高修也】
前回の続きで水村美苗「日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で」における日本の危機感について語っているなかに、村上春樹の話が出てこないのだという。そこから藤井省三「村上春樹のなかの中国」について解説している。中国の中産階級での村上ブームはすごいというのは聞いたことがある。挨拶に「きみは今日、ムラカミしたか」と、彼の小説の主人公の生活スタイルを追いかけるのが流行っているそうだ。そんな彼の文体論がないのが不思議だという。そういわれれば、たしかにそうである。
【「喪失」しみず黎子】
コケティッシュな女性の勝手な気分を描いたものだが、作者が彼女の喪失感をどうみているのかわからないのでつまらない。女性の心の動き描き出すのが巧い。
【「心を売る」庭さくら】
女性が、夫をなくしたり、年をとって虚しくなって、パチンコのギャンブルに取り付かれる話。話の段取りが悪く、あれこれとムダ話が多く、読む気分を逸らすが、それでもここぞというところの書き込みが的を得ている。話を盛り上げる作家的な感覚は良く、才能を感じさせる。全体に面白く読ませられた。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
【随想「銀次郎の日記―年金生活1年3ヶ月と友人の死」青江由紀夫】
この作者は、同じ日記のタイトルで他の同人誌にも発表している。発行回数が少ないので、いろいろの同人誌に書くのであるのか、読者層を広げるのか、意図はわからない。が、読んで書く、出かけるなど定年後の悠々自適の生活で、東京湾で釣をし、読書する。インテリの教授仲間も多いとか、自悠人の生活が書かれている。死の不安なども触れているが、それは自由な老年の悟った末のついでのようなものに読める。わが文芸同志会に入会をすれば、自分の庭を持ち、書いたものの発表ができる。会員の話によると、何を書いてるのかと聞かれ、「詩人回廊に詩を・・・」というと、その場でケータイで開いて「ほんとだ」と読んで見たという。締め切りまで待つ必要もなく、毎週でも書けるのだが、まだその気にはならないようだ。
【「蘇鉄」木村和彦】
学校の高校と中学の二部の先生なのだろうか。校長をはじめ、聖職であるが、先生も人間でもあることがよく描かれている。
発行所=北九州市小倉南区中貫1-13-18、中本方。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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お知らせ=文芸同志会が過去に発行していた「文芸研究月報」紙は当初ワープロ機で入力していたので、ワード転換ができずにいたのですが、事務所の近くにワープロデータを転換してくれる業者がみつかり、いくつが復活できました。何故か転換不能なものもあり、出来たものから、「暮らしのノート」の「復刻・文芸研究月報」欄に掲示します。主に土曜・日曜に公開していくつもりです。このサイトの右の下のほうにリンクがあります。
《対象作品》「草野心平研究」第12号(草野心平研究会)、「個性」第35号(個性の会)より北村方志「足立巻一覚え書き② 立川文庫と池田蘭子」、「イリプスⅡnd」第4号(イリプス舎)より劉燕子の論考「色淡き血痕のなかで-二〇〇九年六月三日~四日、香港」と「小野十三郎・初出版『詩論』②」(昭和17年「文化組織」3月号掲載分)の紹介、「文芸静岡」第79号(静岡県文学連盟)の特集は「比喩の力」、「碑」第93号(碑の会)より昆道子「あしかけ四日」、「せる」第82号(グループ「せる」)より奥野忠昭「公園からの裏通り」、「南風」第26号(南風の会)より和田信子「ミッドナイト・コール」、「ENTASIS」は福井久子・山本美代子・田中荘介による詩誌創刊号。(「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめ)
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