同人誌「仙台文学」75号(仙台市)
本誌のコラムに、発行元「仙台文学の会」が、昨年10月にウェブ誌「破滅派」の基幹編集委員・高橋文樹氏の講演会を実施した記述がある。高橋文樹氏は30歳。学生文学賞や新潮新人賞を受賞している。山形在住の直木賞受賞作家・高橋義夫氏の子息であるという。講演では、本の再販制度の崩壊や、電子書籍の標準化、小出版社の隆盛、単行本・文庫による利益追求の動向が解説されたとある。このブログでも、こうした動向は知ることができるが、ウェブデザイナーでもある同氏の話を直接聴くことは刺激的あったであろうと思う。
こうした変化の激しい状況のなかで、文芸同人誌は、旧態依然として大正、昭和時代のシステムを維持している。このシステムの固定化というのものが、ひとつの安心感となり、その世代の参加意欲を高めている。同時に、文芸同人誌がケータイ、ネットの情報文化のなかでガラパゴス化している傾向があり、それが関係者に実態以上に衰退感を感じさせているようだ。
現在のネットサイト利用は、雑誌掲載物をネットに上げる手順が主流だが、これはまだ途中段階である。自分はネットサイトに上げたものから、世間で価値があると見たものを紙印刷本にするという流れが、自然だと感じる。現状は、そのパターンが定着する前の段階だと思う。いずれにしても最終は印刷本の世界にいくと思う。高橋氏の「破滅派」は、ネットサイトから出発し、文学賞受賞者が出たので印刷雑誌「破滅派」になったのであろうと見る。
【「大堤」安久澤 連】
貞享元年(1684年)の金ヶ崎館の城の近くを流れる宿内川の治水をめぐる歴史小説である。歴史と文学性という高度な結合を実現させた作品で、読み応えのある力作。すばらしい。当時は、人柱という風習がまだ残っていたようで、それを実行するまでの村人の心理やいきさつが、はらはらどきどきさせる運びで、引き込んでいく。とくに、文学的な面でみると、洪水の川と堤の描写の巧さ、またイタコのような「口寄せ」の場面は、情念の意識の流れを見事に表現して、すばらしい完成度を見せている。良い作品である。
【随想「金売吉次のふるさとを訪ねる」石川繁】
金売吉次といえば、奥州の金を都で売った男で、義経伝説や当時の歴史物語に登場する。しかし、その正体はよくわかっていないようだ。その謎の男について、ここでは相当丁寧に追跡調査している。自分は、この分野はよく知らないのだが、これが吉次調査の最新決定版としてもいいのではないかとおもわれるほど、説得力のある調査をしている。興味深く、ふんふん、そうなのか、と読んだ。やはり、地元の人のじっくりとした姿勢に勝るものはない。歴史小説の作家には、貴重な資料となるのでないか。
発行所=〒981-3102仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島方、仙台文学の会。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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