同人誌「獣神」第33号(埼玉県)
本誌の「後書き」によると編集責任者・伊藤雄一郎氏は、08年8月に第8回シニア文学新人賞を受賞。昨年には同人の野田悦基氏が山手一郎のペンネームで時代小説を書き、第12回伊豆文学賞を受賞。同氏の「幸福の選択」(鳥影社)は全国販売され、松本の書店では平積みされたという。同時に「小説新潮」4月号には短編小説が掲載されたという。文学の世界は、読み手よりも書き手の方が多いというほど競争が激しい。それなのに大変なものである。
【「碧水まさる」野田悦基】
金田昭平さんという友人が内田百閒全集と山頭火全集を置いて行って間もなく亡くなってしまう。彼の死と関係者をめぐる話で、浮世の有情無情を感じさせる。人物の描き方が巧く、エピソードの出し入れの手順がなめらかで、面白く興味深く読んだ。
【「銀次郎の日記―年金生活の開始1年2ヵ月と読書」青江由紀夫】
ちょうど総選挙で自民党から民主党への政権交代の時期の日記。読書と千葉の海の釣り三昧に政治論、作詞したものなどが披露されている。社会的には、こうしたライフスタイルの記録は貴重である。つい最近、鹿島灘の防波堤で釣り人が波にさらわれる事件があったが、あれが出来たのはかなり昔である。出来たばかりの時から釣り人の間では名所となっていた。住金のコンビナートの話題もあるが、自分は流浪の時代に2年近く、泊り込んだり通ったりした。その時代は見放されていた砂漠地帯の鹿島灘に、完成までに20年を要するコンビナートができるというので、全国の建設業者がクレーンを持ちこんで、アメリカ西部の石油開発の時代のような様相を呈していた。当時は、冬場は、嵐になると雪が吹き荒れた。これを読むとあの激動の時代を思い出す。
昨年、事業仕分けで、話題になった雇用促進事業団の末裔は、全国各地の閉山した炭鉱労働者をここにも再就職させていた。その頃から、そうした仕事の斡旋は必要がなくて労働力は民間で流動化していた。当時から官僚は仕事がないのに税金で食うことを自民党と組んでやってきていたのだ。青江氏は、社会問題についても書いているが、一般人の意識の代表例として読める。
発行所=〒359-0025埼玉県所沢市安松1107-4、伊藤方。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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