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2009年11月19日 (木)

姜尚中ブームの謎に迫る。鋭い分析 やさしい論述

「三四郎と美禰子の出会いの場面は印象派の絵のよう」と語る姜さん(東大本郷キャンパスの三四郎池で=飯島啓太撮影) 本を出せばベストセラー、テレビでは討論番組のコメンテーター、美術番組の司会とひっぱりだこ――。政治学者で東大教授の姜尚中(カンサンジュン)氏が多彩な活躍を見せている。“姜ブーム”の背景には何があるのか。(泉田友紀)
 氏は、討論番組「朝まで生テレビ!」の常連論客として知られ、在日2世の立場から朝鮮半島問題を積極的に論じるなど、政治をめぐって鋭い社会的発言をしてきた。2004年には生い立ちと心の遍歴をつづった半生の自伝『在日』(講談社)がベストセラーとなった。
 ブレークを決定づけたのは、昨年刊行された85万部のベストセラー『悩む力』(集英社新書)。マックス・ウェーバーと夏目漱石という100年前の同時代人を通じ、悩みの本質に迫った。今年4月からはNHK教育「日曜美術館」の司会に起用され、来年の刊行に向けて実母をテーマに小説を執筆するなど、専門を超えて活動の幅を広げている。人となりを紹介したDVD付きのムック本『姜流』(朝日新聞出版)も話題を呼んだ。
 最新刊『リーダーは半歩前を歩け』(集英社新書)では、韓国の元大統領で、今年8月に亡くなった金大中氏との対談を軸に、先の見えない時代をリードする人材論を展開している。

 <私は子供のころから、「リーダー」というものが根本的に向いていない性格でした>と自らの人生に重ね合わせながら、リーダー像を考察。カリスマ性に満ちた人物が大衆を引っ張るのではなく、だれもがリーダーになりうる時代の心構えを提案し、政治参加の大切さを訴えた。担当編集者の落合勝人さんは「鋭く状況を分析し、わかりやすい言葉で伝えられる人」と、その魅力を語る。
 一方、『マックス・ウェーバーと近代』(岩波現代文庫)などを担当した編集者、林建朗さんは「原書を読み込む地味な研究が一種の重しになって、多彩な分野を論じても軽薄に流れない」と話す。
 端正なルックスやソフトな語り口だけが人気の理由ではない。天下国家を論じる場合、どこか「自分」が置き去りにされがちだが、氏は自身の問題に引き寄せ、身近な言葉で社会や生き方を論じる。読者はそこに引きつけられるのではないだろうか。
 ――幅広い活動の理由は?
 日本では政治、経済、文化など、領域ごとに垣根がある。領域横断的に自己表現することで何かが学べるのではないかと思い、マルチな場に出てみた。時代と「添い寝」した部分があるかもしれません。
 ――イメージが先行することをどう思うか。
 いろいろな場に出る上で仕方がないこと。テンポの遅い話し方を揶揄(やゆ)されることがあるが、高校時代に軽い吃音(きつおん)になり、自分の話を耳で確かめるスピードになってしまった。戦略的な意味は全くない。ファッションもほとんど妻まかせで、あまりポリシーはない。
 ――今後の活動は。
 私も来年で還暦。今後5年間で、自分のあるべき方向に収束していこうと思う。物を書き、そして学問の分野では、ライフワークの「日本の戦後」を考えたい。人生の秋は、少し落ち着いてやりたいと思っています。(09年11月16日 読売新聞)

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