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2009年11月 2日 (月)

詩の紹介 「降り止まぬ雨へのレクイエム」 伊武トーマ

 詩韻が良く、繰り返しが効いた詩である。落ちかかる橋を渡る勇気が試される。一歩を踏みださないと、始まらない。一歩を踏み出したからと言って、かならず橋を渡ることができるとは限らない。渡ったとしてもなにができるのか。どっちにしても、すべてが終わることはない。終わることがありえない。万物流転、循環回帰の世界の向こうに、虹の世界があったとしても、なんの不思議もない。その時、果たしてレクイエムは、終章へのピリオドとなりえるのだろうか。

「降り止まぬ雨へのレクイエム」   伊武トーマ

すべてが終わることはない。
道端にひとり咲く花を見ずして/崩れた橋を渡ることはできない。
向こう岸に/光がさしているのではない。/誰かが/待っているのではない。
何かが終われば/何かが始まり/人知れず花は散り/またひとり花は咲く……。
尻尾を垂らした野良犬が/橋の前を行ったり来たり。/すりきれた影をひきずり/くんくん鼻を鳴らしている。
向こう岸に/帰る家があるのではない。/飼い主がまだ/ちぎれた首輪を握っているのではない。
絶望もなければ/希望もなく/鳴き濡れて犬は/ひとり咲く花をみつめている。
もう道はない。
ぴんと尻尾を立て/イチか/バチか/崩れた橋を渡るしか道はないのだ・・・。すべてが終わることはない。
崩れた橋を渡らずして/道端に咲いた恋を成就させることはできない。
向こう岸から吹く風に/舞い戻る雨が/すりきれた影をひきずる野良犬の背を/容赦なく打ちのめす。
ああ/土に帰ればこの雨も道。/野良犬は顔を上げ/猛勢一拳に駆け出した。
濁流とうとうと口をあけ/波が波を呑み巻き煽りたて/幾千匹の大蛇のようにのたうち荒れ狂う/崩れた橋の橋脚から橋脚へ
翼の代わりに尻尾を立て/一足飛びに跳躍した・・・。
すべてが終わることはない。
道端に咲いた恋を成就させることなくして/降りしぶく雨が止むことはない。
ああ/土に帰ればこの雨も道。/野良犬は空を駆け/崩れた橋に花と散っても
向こう岸からこちら岸へ/やがて/虹は架かるだろう。
「洪水」4号より 09年7月1日(横浜市・草場書房にて販売
(紹介者「詩人回廊」江素瑛)


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