自費出版の小雑誌「リトルプレス」が人気
写真を多用し、レイアウトに工夫を凝らした「リトルプレス」と呼ばれる自費出版の小雑誌が人気を集めている。飲食店情報や雑貨など生活に関係した事柄を扱うものが多く、おしゃれなデザインで若者を中心に支持を集める。地方発のリトルプレスが増えており、全国流通の雑誌では得られない話題を見つけることができる。
「リトルプレス」とは、自費出版の小出版物のことを指し、以前の「ミニコミ」とほぼ同じ意味。しかし、単色印刷で文字が多かった「ミニコミ」に対し、「リトルプレス」は写真やイラストなどの視覚面を重視しているのが特徴。大手出版社の雑誌と見間違えるほどデザイン性の高いものも少なくない。
多くは広告などが入らず、出版側ももうけより、自己表現の場と考えていることが多い。この点で、従来ある地域情報誌とも違う。
東京・神保町の東京堂書店神田本店は昨年春から、全国の「リトルプレス」を集めたコーナーを3階に設けた。担当している畠中理恵子さんは「地方のリトルプレスが元気です。料理のレシピを入れるなど実用性を重視し、生活の魅力を見直す内容が目立ちます」と話す。同店で取り扱っているのは、約30種類。多くの雑誌は300~500円程度だ。
その一つが、金沢市で2005年から発行されている「そらあるき」。作っているのは、市内のギャラリーや喫茶店などの店主たち。年2回発行し、今年4月に発行した最新号では、市内に残る近代洋風建築の由来や雰囲気の良いカフェ、金沢を題材にした書籍の紹介などの記事を掲載している。前号の売り上げで印刷費などを賄っている。
文字の位置なども見やすいように工夫されているリトルプレス。市内の観光名所やお薦めのレストランをまとめた地図。雑貨店を経営する編集長の田中義英さんは「元々は観光客に役立つ小さなガイドブックにしようと作ってきたが、地元の人にも売れている」と手応えを話す。
盛岡市で発行されているリトルプレス「てくり」は、南部鉄瓶や染め物といった地域に残る伝統的な物づくりなどを取りあげる。紹介する飲食店も、地元に根ざしたハンバーグ屋や喫茶店などで、観光客向けの店は少ない。題名の「てくり」は「てくてく歩く」という意味を込めている。編集スタッフの木村敦子さんは「郊外に大型ショッピングモールが増え、中心市街地が寂しくなってきている。雑誌をきっかけに昔からの街の良さに気付いてもらえれば」と話す。
こうした出版が盛んになってきた背景には、パソコンの普及で、写真やイラストを手軽にデザインできるようになったことがある。原稿を書く執筆者のほかに、雑誌全体のデザインをする人もメンバーに加わっていることが多い。
畠中さんは「リトルプレスもインターネットと同じく情報を扱っているが、手元に物として残すことができる点が違う。気軽におしゃれな雰囲気を味わえることが読み手に受け入れられる要因です」と魅力を話す。(09年10月30日 読売新聞)
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