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2009年11月16日 (月)

詩小説の紹介  「ウナギ」佐竹重生

(紹介者 「詩人回廊」江 素瑛)
高度技術のセキュリティに守られて、安全と安心を保証される独居老人。どころか守られるべきセキュリティが、老人行動の自由を束縛されてしまう。安全と思ったものが命を奪ってしまう。古き社会の科学技術に頼らないアナログの隣近所の助け合いをどんどん失っていく、現代社会の孤独死。科学技術が生み出した悲しくい現実、現代人として変えることもできない話である。危険な外部からのリスクをゼロにしたところ、内側からしか開けられない棺であったという読み方もできる。

「ウナギ」     佐竹重生
食料は 石組の隙間から浸み出る水に たっぷりと含まれていた。石垣の奥の洞穴の住処は適当に温み 河の中で日々繰り返される食料獲得やテリトリーの疎ましくも哀しい争いを 食物連鎖の外にいて 壁に穿った小窓から同情しながら ときにはだれにも知られることなく 無差別な遊び心の矢を放ち 群れを乱す小魚をわくわくと眺めて暮らした。(中略)時折差し入れられる竿の先に外国生まれのミミズが断末魔の悲鳴を上げて 死を懇願してきたが そいつの腹に悪意が潜んでいるようで喰うことは冷たく拒絶した。

だが 今日はいったいどうしたというのだ。水と一緒に餌がどんどん流れ出ていく。急いで頭を出せば 青空から剥がれ落ちたか水面は遥か下にあり 空(くう)に突き出て重くなった上半身がだらりと垂れる。身体をくねらせ 脱出を試みるが 鰭は空を切り 出入り口の岩が 胴を締め付け食い込んでくる。岩屋のコルク栓になったという山椒魚の話が頭を掠める。だが 突き出てしまった上半身は 剥き出して進むことも戻ることも出来ない。セキュリティに守られて ひとり ひそかに 籠っていたのが間違いだったか。
(中略)
「今朝、ひとり暮らしの老人が、自宅マンションの玄関で亡くなっていることがわかりました。入り口には鍵がかけてあり、警察では・・・・」

佐竹重生詩集「蓮の花 開くときに」から(09年10月 東京 土曜美術社出版販売)

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コメント

ご紹介くださって、有り難うございます。
これを励みに、詩作を続けていきます。

投稿: 佐竹重生 | 2009年11月18日 (水) 12時19分

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