長嶋公栄「昭和イセザキストリート~東京大空襲余話」(文芸社)
長嶋公栄「昭和イセザキストリート~東京大空襲余話」(文芸社) 著者の長嶋公栄(ながしま きみえ)氏は、1834年、東京生まれ。夫の経営する現代芸術社の木馬座を手伝ったこともある。作家・伊藤桂一氏に師事し、1985年に発足した同人誌「グループ桂」の主宰者となる。
1997年、「温かい遺体」が女流新人賞最終候補、1998年、「はなぐるま」が北日本文学賞選奨、2002年、「残像の米軍基地」で新日本文学賞佳作、2003年、「幻のイセザキストリート」で新日本文学賞佳作などの経歴を持つ。
発表作品のタイトルを見ても、太平洋戦争における米軍の無差別空爆や、その後の占領米軍に対応する日本人の苦悩に強い関心を抱いてきたことがわかる。それらは多くが短編であったが、本書は、そのライフワークの集大成といえる。
1945年の東京大空襲のなかで、思春期に学徒動員に借り出されていた主人公・石坂藍が、兄の友人に抱くあこがれ――。国の破滅のなかで、ほのかな思いから相愛の恋に発展する。純愛の心と裏腹に、敗戦のなかで押しつぶされ、肉体は生きる道具となってしまい心が裂かれる。破滅的な運命から生き直す心を取り戻すまでを描く。
参考資料に早乙女勝元「東京大空襲―昭和20年3月10日の記録」、蜷川壽恵「学徒出陣―戦争と青春」(吉川弘文館)、日本戦没学生手記編集委員会編「きけわだつみのこえ―日本戦歿学生の手記」(東京大学出版会)、ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて―第二次大戦後の日本人」(上・下)三浦陽一・高杉忠明訳(岩波書店)があげられており、作者の地道な調査と資料重視のリアリズムからなる。事実に即したフィクション化であるから内容は地味である。戦争の悲惨さをしみじみと身近に感じてほしいという作者の意図が見える。高所からの国益論よりも、庶民感覚での平和の意味と尊さを示している。(紹介者:「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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