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2009年10月26日 (月)

詩の紹介 「崖に打ち寄せる波」大井康暢

 人の声なき声。無言の映像だけの影と光。崖に繰り返し打ち寄せる波のように、遠い時間とも、遠い空間から伝わってきた叫びは、聞きたくても聞こえない。或いは、聞く機能を閉じ、拒否している。
 自分の叫びは、留守番電話に吹き込んでも、手紙を出しても、伝わることがない。無言黙秘、返事がないことは黙って受け取ったことなのか、黙って拒否したのか。
確かに「ITテクノロジーは人間の精神を破壊する」言葉の流れは、その一語で核心に届いている。
  ☆
「崖に打ち寄せる波」          大井康暢

画面いっぱいの大衆の群れ/人々が何か叫んでいる/しかし/映像だけで音がない/拳をかざし腕を振っている/顔がゆがみ口を開けたり閉じたりしている/彼らの声はこちらには聞こえない/向こう側の叫びはこちら側には届かない/バンザイクリフに打ち寄せる/波しぶきに音がないように/永遠に繰り返す悲しみは/動く物体に当てた光の影に過ぎない
悲しみとはそんな光の影なのか/それか知りたくていらいらしてくる/しかしなにも聞こえない/テレビのアナンスか/蹴る音投げる音か/それは騒音の中の無音でしかない/真空状態では音はでない/音は空気の振動としてあるからだ/それは骨の鳴る音なのだ
留守電に用件を話しても/返事がないことがある/決して返ってこない留守電だ/幾度録音しても相手は答えない/これはきわめて現代的な脅迫に違いなかろう/ITテクノロジーは人間の精神を破壊する/手紙を出しても返事が来ない/返答拒否が返答であり/真空パックの恐怖の犯罪なのだ
電話口の半狂乱の叫びが多分現代だ/無音電話の方が効果がある/密室のひとつである電話/怒鳴っても喚いても誰も知らない/しかし一瞬露出した自我は再び消える/無言の威圧は恐ろしい

詩集「遠く呼ぶ声」より 大井康暢 2009年10月10日 東京都砂子屋書房 
(紹介者「詩人回廊」 江素瑛

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