詩集「野の民遠近」大塚史朗(群馬詩人会議出版)
著者の大塚史朗氏は、1935年生まれ。日本農民文学賞の受賞詩人である。(参照:「第51回農民文学賞決まる(中)=詩集「引出しの奥」に民衆の歴史意識も」)
「道祖神」には、祭りごとのなかの収穫の祈り、男女の秘め事の教えがある。「十日夜」の祭りには戦争に狩り出されて戻ってこない農民がいる。それらは、まだ序の口で、大地からの収穫、エロスの悦び。介護に見る老いの現実。働くだけ働いて、老いて、ひっそりと死ぬ女性たち。農民を必ず巻き込む政治の権力などが示され、これを読めと迫ってくる。
ここには農民として生活するなかの労働と思索の全宇宙が表現されている。都会暮らししか知らない人も、かつては農家にいて都会生活をしている人も、また農民をしている人でも、日本農民がどのような歴史を背負わされた―ーまたは自ら背負った存在であるかが、如実に表現されている。
あとがきには、『「野の民遠近」として「まつり」「伝承譜」「野花咲いている」「山々追想」「野道を歩く」は一年半ぐらい前から私が編集している「夜明け(群馬詩人会議)」に発表してたのだが、これは当初から近々出版するつもりで書いてきたもの。そして「介護の中から」の詩も、捨てられないので集めてみたら、あちこちに発表してきた「神の塔」も収録することにした』とあるように旺盛な詩作意欲に満ちた作品集になっている.
発行所=〒370-3602群馬県北群馬郡吉岡町大久保1827、群馬詩人会議出版
(紹介者:「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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