「門」と「道草」に新解釈、 熊倉千之さんが、『漱石の変身』(筑摩書房)で提示
罪の意識に満ちた小説と思われてきた夏目漱石の『門』と『道草』は、実は主人公の変身を示唆した前向きな物語だとする新たな解釈を、日本文学研究者の熊倉千之(ちゆき)さん(73)が、『漱石の変身』(筑摩書房)で提示した。
『門』は友の恋人を奪って結婚した宗助の物語。友の出現におびえ、禅寺に救いを求めた宗助が心の平安を得られず終わる話と考えられてきた。
熊倉さんは、『門』の作中、英語で書かれた「History of Gambling(博奕(ばくえき)史)」と、ふりがなをつけた「冒険者(アドヴェンチュアラー)」という言葉に注目する。悩み多い生き方をしてきた宗助が、人生を「賭け」て「冒険」に乗り出す「門」出の直前までを描いたとの解釈を示した。後の『道草』は、大学で教える主人公がもの書きになるまでを描いて『門』の後日談とした、と読み解いた。
「『門』にはロンドン留学直前の、『道草』では留学後に東大講師を務めた漱石自身が投影されている。どちらも自らが作家へと変身する過程を通じ、これから世の中へ出る若者を勇気づけようとする意思が感じられる」という。米ミシガン大などで日本文学を教えていた熊倉さんは、これまでにも『漱石のたくらみ』で新解釈に挑んできた。「近代日本の知識人の典型とされた漱石は苦悩する姿が強調されてきた。それが誤解を生んでいる」と話している。(09年8月24日 読売新聞)
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