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2009年8月11日 (火)

同人誌「海」(第Ⅱ期)創刊号(福岡市)

(おわび・再掲載=対象作品の作者名に誤りがありました。申し訳ありません。お詫びします。修正再掲載します)
【螺旋階段」有森信二】
 語り手である高木の友人で、市会議員をしている佐伯が、愛人のマンションの5階から転落する事故から話が始まる。当初はそれが致命傷で、社会的な再起は困難と思わせるものであった。しかし、意外にも彼は奇跡的に元通りの身体に回復し、活動をはじめる。佐伯は、愛人問題のほかに、選挙違反に手を染めている噂もある。
 高木とその友人仲間は、彼の転落事故が、そうした問題から周囲の目をそらすために、計算づくで転落事故を起こしたのではないかと疑いはじめる。
 男同士の友情と不信をお互いにプライバシーに踏み込めない微妙な関係をミステリー仕立てで描く。曖昧さを含んだ描き方で、人間関係の内にある曖昧さと、危うさを描いている。

【「うたかた」北里美和子】
 教師をしている岡島は、弟の起業する資金調達をするために保証人になる。それは岡島が長男であるのに、親の面倒を弟に任せている後ろめたさが一因であった。
 そこから、岡島がこれまで持家をもたずに借家暮らしを通し、教育の仕事に全力を注いできたこと。それに対し、妻の鈴子は持ち家でないことに不満を持ち、家を買って欲しいと思っており、夫を住宅展示場に向かわせる。
 そこで、岡島の万物流転的発想の無常観をもつ性格であることが描かれる。この固定資産を持とうとしないところは大変面白い。ただの損と得の問題でなく人間のらしさの発露として描けばよい純文学作品になる。それを逸している。
 やがて、弟が事業に失敗し、行方不明になる。保証人となった岡島は退職金を失うことになるので、妻に離婚をすすめ、せめて妻の取り分だけでも確保してあげようとする。妻は、自分たち夫婦の関係はなんであったのか、と反対する。
 細部のもっともらしさに不足があるのが欠点。読みやすい物語を書く力はある。が、問題は小説になるところと、小説にむいていない書きどころが混在しているところにあるようだ。
 タイトルの「うたかた」というところからすると、作者は人生の無常なところを軸にしているようだ。無常観をもった男を詳しく哲学的な思弁をいれて描くところは、危ういところで、ようやく小説になっている。普通はここはカットするようなところ。しかし、表現の神は細部に宿るというところもあり、作者の可能性を感じさせる。岡島が弟の保証人になったところを書いたら、結果は予想がつく。それでも書き込んで読ませるところがあれば純文学になる。保証人になって、ピンチになるが思わぬ出来事で、無事にめでたしめでたしになるなら娯楽小説である。これはどちらでもない出来上がり。

【「氷海の航跡」牧草泉】
 エッセイ風でもあるような自由なタッチで、オフィスレディの眼をとおした日本人と韓国人の関係を題材にして書いている。世代の変化によって日韓相互の意識が変化していくのか、ある時期のその意識を表現している。

【「桜」由比和子】
 江戸時代末期の大奥の世界にいる和光院という女性の身の上と心情を小説化したもの。現実離れしたところがあるが、そうなのかもしれない、と思わせるような、柔らかな表現力で和光院の視点からの物語にしている。
発行所=〒810-0012福岡市中央区白金2-9-6、TEL092-531-7102。

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コメント

御多忙のところ恐縮です。
はじめまして。実はわたし、文芸はど素人ですが趣味で少し書いており、御指導を受けつつ発表できる場を求めています。私のような者でも入会できる同人誌があれば教えていただけませんでしょうか?実は文芸同人案内の掲示板のサイトで一つ、ご紹介を頂きましたが、九州の中であればと思い、福岡の海という同人などはどうだろうと思ったりしたのですが、不可であれば他に九州内で素人でも入会できるところがありましたら教えて頂きたくお願い申し上げます。(建)

投稿: KEN | 2009年8月12日 (水) 13時28分

海の有森信二と申します。
勝手がわからず、お礼が遅れましたことをお詫びいたします。
第二期海の作品に対し、多くのコメントをいただき感謝いたします。
第二期の創刊号ということで、全くの手探りでやってきました。第一期の67号とのバランスが、私自身まだよくつかめない状態ですので、このような的確なコメントをいただいたことが、これからの航路を見定める上で大きな指標となるものと思います。
また、他誌の多くの優れた作品についての情報をこの紙面で得ることができ、感動と、たいへんな元気をいただいております。
今後とも、よろしくお願いいたします。

投稿: arimori | 2009年8月 9日 (日) 21時00分

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