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2009年7月12日 (日)

詩の紹介 「紀子の帰宅」・勝畑耕一

(紹介者 江素瑛)
“しかし組まれた指は/冷たく誰の交信をも拒絶し続ける”ある日突然、生の世界を閉ざしたこの妻の指は、生に送る最後のサインでもあるのだ。死の世界は生きる者には知ることが不可能であるが、もう一つ生の別世界があるのであろうか。目には見えないが、きっと彼女は毎日「家計簿」をつけ続けているだろう。
「熱ある孤島」全詩集は海外でのセンチメタルジャーニー、クラシック音楽と妻紀子への思い出の数々で綴られている。衒う言葉はなく、友情、愛情そのままの優しさと温かさが伝わってくる。
              ☆
「紀子の帰宅」
紀子は帰ってきた、杉並の自宅に/改築したばかりの二階の和室に/アパートから移ってこの部屋での生活はわずか四ヶ月/真新しい畳の上で/紀子は肩や腰にドライアイスをあて/花に囲まれて眠る/枕元には歌集「青き海青き風」/110号室でずっと見守ってくれた/はらだたけひで「フランチェスコ」/沖縄の海の写真/親戚や友人たちからの電報/紀子は眠っている/あふれるほどの菊と百合の花びん/清潔なランが、白バラの花かごが/紀子を皆見つめる中/ひっそりと薄化粧をして眠っている/しかし組まれた指は/冷たく誰の交信をも拒絶し続ける/ピンクのタオルケット/その上には/服部のおばさんの千羽鶴が/赤、青、そして桃色に舞い/悲しくも暖かく紀子の指を囲んでいる

紀子は帰って来た/けれど、もう棚に並んでいる/スタイル画の本も/アルバムも/ずっとつけていた家計簿も/「今日の料理」も/もう二度とその頁をめくることはない/明日、遺骨になる紀子だから

詩集「熱ある孤島」(文治堂書店)より 2009年5月  東京都杉並区

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