「法政文芸」第5号に漂う途上の幸福感
「法政文芸」第5号(法政大学国文学会)が出た。特集が「土地の力/場所の力」で、これをテーマに「日本全国ご当地&出身作家紹介」の一覧が組まれている。
評論のなかに「群像」新人賞受賞者の永岡杜人「<路地の奥の、何か>――リービ英雄と中国大陸」があるが、この執筆は受賞前のもので、結果的に受賞第1作になるそうだ。
テーマ関連で、いしいしんじインタビュー「“小説を生きる”ということ」(聞き手=岩瀬さゆり・徳西萌)がある。これは、いしい氏の作風をしのばせる芒洋としたもので、いいかげんに応えているうちに、聞き手が真面目にしつこいので、うだうだとしてしまう。そこがなんとなく、無から有を生む文学性に富んでいるのが面白い。
その他、赤江瀑、大城立裕、笠原淳、堀江敏幸の関連エッセイがある。各教授ゼミの習作などもある。
巻頭のエッセイの齋藤慎爾「芭蕉変幻」では、サリンジャーが芭蕉の句を導入していることから、彼の隠遁生活と関連させている。
なんとなく啓蒙的色彩と学習から研究に移行する段階の雰囲気があって、まだこれから成熟途上にある文学ファンのために、というような幸福感の漂う編集になっている。
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