« 文芸時評7月(毎日新聞7月29日)川村湊氏 | トップページ | 文芸時評7月(東京新聞7月29日)沼野充義氏 »

2009年7月31日 (金)

詩の紹介  「亀」 門林岩雄

(紹介者・江素瑛)
人間は二通りに分けられる。悪い環境にいることを自覚し、一生めげずに抜け出そうとする人と、全く自覚なしに、一生楽しく安住できるひと。脱出することに意義を見出す習性、そこから悲劇が始まるのではないか。

「亀」
野井戸の底に、亀が住む。若い一匹の亀が住む。
野井戸は古く、すでに涸れ、苔むし、羊歯が生茂る。
底は暗く、湿っぽく、しずくがポタポタ落ちてくる。
亀はそこを抜け出そうとする。しかしその都度、いつも失敗。

あるとき、別の亀が野井戸の縁に立つ。
何気なく中をのぞき込む。下の亀は懸命に合図。
上の亀は思わず身を乗り出し、落っこちた。

そのうち、子亀が一匹生まれた。
物心つくと、子亀は野井戸を抜け出そうとする。
とても石垣は登れない。それでもこりずに、くり返し挑戦。

あるとき、子亀が宙に浮いた。野井戸を抜け出し、空を飛んだ。
秋草の乱れ咲く野が広がる。子亀は有頂天!
――鵙が子亀をくわえているのだ。

ケヤキの梢を飛び越えると、鵙は口を開けた。子亀は真っ逆さま。
激しく地面にぶちあたり、甲羅はグシャグシャにつぶれた。
子亀は鵙に食べられた。

野井戸の底に、亀が住む。老いた二匹の亀が住む。
野井戸は古く、すでに涸れ、苔なし、羊歯が生い茂る。
底は暗く、湿っぽく、しずくがポタポタおちてくる。
抜け出そうとして、いつも失敗。亀の甲羅はひびだらけ。
「門林岩雄詩集」より 土曜美術社出版販売 09年7月(東京)

|

« 文芸時評7月(毎日新聞7月29日)川村湊氏 | トップページ | 文芸時評7月(東京新聞7月29日)沼野充義氏 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸時評7月(毎日新聞7月29日)川村湊氏 | トップページ | 文芸時評7月(東京新聞7月29日)沼野充義氏 »