本誌は、190頁にわたる雑誌で、(株)ギルガメッシュという会社の広告がいくつか掲載されている。裏表紙には「ブランド共和国」とあり、大統領石田天佑とするその人の写真がある。チャッティ・キャッツおしゃべり猫、ルチアーノ・フォルネリス、カロリーヌ・シルエット、アリス・アリサ、ヴァレンティーノ・ヴァザーリ、デボラ・モーガン、マリア・コモ、ヴィオラ・マッカートニー、モニカ・モニーニ、ニーナ・ニーロ、山田一好という人たちの顔写真が掲載されている。石田ブランド共和国の石田天佑大統領の編集による雑誌で、発行者は河野アサとある。
【「ある詩篇から」北岡善寿】
「ある詩編」というのは、文末に(詩の引用は「RIVIERE」94号、蘆野つづみ氏「雪の日」より)とあるように、「雪の日」という叙事詩的な詩作品を、詩句を引用しながら、散文で丁寧にその内容と心情を解説。共感をもって書いている。戦争にいったきり帰らない父親を、貧困のなかで母と共に待つ少年。母親は再婚したのか内縁なのか、別の男と同棲し、少年は邪険扱われる孤独。北岡氏は、自己の戦場体験と戦後の体験をその詩篇の語句に重ね合わせて、散文にして語る。蘆野つづみという詩人の作風に対する思い入れだけで、書いたようで、風変わりな詩評になっている。
【「零落記」石田天佑】
本誌編集者・石田氏の自伝が人生ロマン含んだ表現で、短く語られている。若き日は、京大入学し大学紛争のなか、ニーチェに傾倒。幾人かの女性に恋をしたものの、「いきずりの第三の女と結婚」、一子を得るが他界。悲しむ妻を見下ろし「悲しい。でも、もっと悲しいことがあった。初恋の少女のあとに現れた女学生を好きになり、心が揺れ動き続けたが、あの苦しさ、悲しさに比べれば、今の絶望感にはまだ救いがある」と真情を吐いて、妻を唖然とさせる。その妻と40年連れ添い、後半で、彼女が病んで意識不明の床に伏すと介護をし、自ら妻を抹殺した白髪鬼という自覚をもつ様子が表現される。
若き日は詩人を志して、「ギルガメッシュの恋歌」、「イシュタル讃歌」の2冊を自費出版する。公園のベンチで拾ったスポーツ新聞の求人広告で中小企業に就職するも変人扱いで勤まらず、30歳のときに輸入ファッション会社のコロネット商会に入り、ブランドビジネスを学ぶ。そのブランドビジネスで独立し、(株)ギルガメッシュで成功を収める。世界を股にかけて活躍したこともあり、65歳を過ぎて省みると至福な人生と言い切る。大変面白い自伝エッセイである。波乱万丈の話。読んで、どこが「零落記」なのかと思ったが、高齢になって人生の先細りの感じがするということで、このタイトルとなったらしい。筆力旺盛にしても、老後の零落感との戦いは意識されるところに生きる難しさを感じさせる。
【「忍性芳典行録」田島毓堂】
長男を32歳で亡くし、一番下の弟がALD(副腎白質変性症)という難病にかかり、親としてその療養と生活を支援する様子が描かれる。事実の持つ重みで、細部はよく理解しにくいが、情況説明から推察できる。人生は長さでなく、その時間をいかに充実させたかである、ということをしみじみ訴えかける力のあるエッセイ。
参考=(株)ギルガメッシュ〒619-0224京都府木津川市兜台4-14-24
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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