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2009年6月 4日 (木)

同人誌「奏」2009 夏

今回の「奏」18号には、「資料・小川国夫―未完の長編小説「浸蝕」第三章冒頭原型」というのが掲載されており、貴重な資料になりそうだ。小部分だが、19世紀的な作風の味わいがある。そのほか編集者・勝呂奏「小川国夫『速い馬の流れ』『あじさしの洲』論―『故意の言い落とし』と『照応』」がある。そこには小川国夫の飛躍的なところのある簡潔文の特性が語られている。「掌果集」と称する上質な寸編小説的な作品もある。
【掌果集「花びら」小森新】
 女性の独白体で、愛する男への情念を語る。愛と官能を結び付ける状況が密度濃く語られ、ほとんど完璧な仕上がり。言葉の働きが堪能できる。読後に寸編小説に自分が求めているのはこういうものかも知れないと思わされた。
【同「野茨」小森新】
 妻を失った独り暮らしの老人の日常と生活、回顧の想念を描く。生活の匂い、生きることの臭いというものを痛切に感じさせる描き方が、よく計算され効果的。死の床にたどり着くまでの時間の漂流が的確に表現されている。
【同「月下の門」小森新】
 俳句の結社を率いる先生は、死の病に倒れ入院している。「僕」が尊敬しているその先生を見舞う。その間に交わされる会話や行為によって、先生の句にたいする信念、死生観が表現されている。自然に書いたような巧みさとセンスが抜群の効果を生んでいる。
 三作とも、じつに味わい深い。どうしたらこのようなセンスがもてるのか、不思議におもうほど完成度の高さがある。
発行所=〒420-0881静岡市葵区北安東1-9-12、勝呂方

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