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2009年2月10日 (火)

文芸同人誌「照葉樹」第6号(福岡県)

【「トワイライト」水木怜】
ライトノベル風のミステリーである。ジャズピアニスト上がりでバーを経営している64歳の睦夫は、若い麻美と、3度目の結婚をしている。60代になってうっかり魔がさして結婚してしまった、というノリのお話である。結局、麻美にしてみれば、それはあまりにも若気の至り、気ばかり青春時代のアーティスト爺さんと結婚したことを後悔し、何とか睦夫に死んでもらって消えて欲しいと考えるのは、図式通りである。
 睦夫がいつまでも青春時代から抜けようとしない老人の面白さを、作者の若さでよくがんばって描いているが、それを読者に完全に伝わるように書けているかというと、年配の世代には難しい面がある。ところどころムラとして疵がある。しかし、同世代の者には、けっこう面白い爺さんとして読めるのかもしれない。しかし、そのキャラクターづくりにムラがないに越したことはない。その点では、筆力にやや不足がある。
 では、麻美の立場で視点を変えて書いたらどうか、という仮定で考えると犯人側からの倒叙ミステリーとなるが、ネタばれしているので面白く読ませるには相当の筆力が必要。そのハードルを超えるのを避けてトリッキーにした結果とも読める。
 単純な構成にして風変わりのキャラクターづくりに挑戦する意気は感じられる作品。

【「三叉路」垂水薫】
 眠り病のように昼間でも眠くなってしまう更年期の主婦。車に乗っている状態で、半睡状態の独白が続く。かつてJ・ジョイスが「ユリシーズ」の前衛的小説で女性の意識の流れという手法を用いたが、その前衛的な手法が、このように今は市井の作家のなかに取り込まれている。その現実を示した証拠として、大変興味深いものがある。前衛的手法が普通になっていることに、やはり文学の世界は進化しているとみるべきだろう。

【「慶賀の客」垂水薫】
 叔父に寄せる情念を綿々と述べている女性の独白体。ところがその叔父のキャラクターがはっきりしない。人格的なことを示す表現がないため、叔父にどんな魅力があって情念を燃やしているのか、それとも女性の異常な執念なのか、読みとれなかった。そして、最後にその情念をあっさり捨てる行為に読めたが、その辺もなにか納得しにくい流れであった。情念の表現に技術的に的を絞ることに手違いがあるように思えた。
発行所=〒811-0012福岡市中央区白金2-9-2、花書院。

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