「ダブル・ファンタジー」村山由佳さん、「性愛の極み」徹底的に
著者来店(石田汗太記者09年2月3日 読売新聞) ナイフのように虚空を切り裂く裸の両足。表紙からして不穏な気配に満ちた、スキャンダラスな小説だ。35歳の脚本家・高遠(たかとお)奈津が、6人の男との遍歴を通じ、自らの性の極みを見つめようとする。2年半ぶりのハードカバー長編は、「村山由佳=ピュアな純愛小説」という等式を粉々に打ち砕く強烈な一撃だ。
「これまでの自分のイメージが白やブルーだとすれば、今回初めて『黒ムラヤマ』を思いっきり出しました」
創作をめぐり夫と衝突した奈津は、別の男と恋に落ち、楽園のような田舎暮らしを捨てて出奔する。3年前に千葉・鴨川から東京に移った作家をどうしても重ねたくなるが、「それも虚構のたくらみ。この作品では私自身の『強すぎる性欲への罪悪感』という問題を徹底的に検証したかったので、自分からかけ離れた主人公で逃げたくなかった」。
レノンとヨーコのアルバムに触発されたタイトルは、どれほど愛し合っても別々の幻想を見ている男と女を暗示する。最後に奈津がたどり着く岸辺はさびしく切ないが、これほどドロドロの肉欲を描きながらあくまで透明感を失わない筆致は、作家自身の大きな脱皮を感じさせる。「黒って、本当はすがすがしくてきれいな色なんですよ」(文芸春秋、1695円)
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