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2009年2月 6日 (金)

読売文学賞の人(3) 随筆・紀行賞「詩の風景・詩人の肖像」白石かずこさん(77)旅が日常「詩をまく人」

(金巻有美記者09年2月4日 読売新聞) 読売文学賞随筆紀行部門で受賞が決まった詩人の白石かずこさん(22日午後2時56分、東京・杉並区で)=冨田大介撮影 「偉大ですばらしい詩人のことをみんなに知ってほしかったから、本当にうれしい」。おかっぱ頭に真っ赤なセーターの詩人は、心底うれしそうにほほ笑んだ。
 受賞作は、西脇順三郎や富岡多惠子から、ビート詩人のギンズバーグ、南アフリカの亡命詩人クネーネ、中国の芒克まで、世界中の詩人15人との交流を生き生きと描き出した交友録。「みんな長い間お友達で、あるいは先輩として尊敬している人たち。この本で、私は後ろにいる紹介者の役なのよ」。それぞれの詩も添えられた作品を、選考委員の池澤夏樹氏は「贅沢(ぜいたく)なアンソロジー」と評価した。
 世界を飛び回り、国境や人種のへだてなく友達づきあいをする。それは、自身が“ボーダーレス”な存在だったからだろう。
 カナダ・バンクーバーで生まれ、7歳のとき帰国。やがて戦争が始まり、疎開先ではいじめにあった。終戦後、14歳のときにボードレールの「悪の華」と萩原朔太郎の「月に吠える」に出会い、17歳で田村隆一の詩の中の<地球はザラザラしている!>という一行に感激。北園克衛の詩のグループ「VOU」に参加し、早大在学中に、<青いレタスの淵で休んでると/卵がふってくる>という書き出しで始まる初の詩集『卵のふる街』を刊行した。
 卒業、結婚を経て詩と遠ざかっていたものの、30歳で離婚を機に再び詩を書き始めた。ジャズ演奏とともに詩を読む独特の朗読を始めたのもこの時期。奇抜なファッションや性的な言葉を使った詩で、「性詩人」と呼ばれたこともあった。
 「でも、本当に偉大な人は私を受け入れてくれた」。1970年には、『聖なる淫者の季節』でH氏賞を受賞。73年に米アイオワ大の国際創作プログラムに招かれて以降、「旅人であることが日常」という日々を過ごしてきた。その姿は「現代のユリシーズ」とも呼ばれ、自身の詩にもユリシーズをモチーフにしたフレーズは多い。<彼はユリシーズであることを知らないで/たえまなく生き たえまなく死ぬ>(「真夏のユリシーズ」)
 以前、ある国で「お前は何しに来た」と問われ、「私はポエトリー・プランター(詩をまく人)」と答えた。「詩は政治も主義もこえてコミュニケートできるハートの言葉。詩を通じて本当の対話ができると信じてる」と口調を強める。
 つい最近も、新たに翻訳詩集が出版されたニューヨークで朗読ライブをしてきた。「私はずっと、ポエトリー・プランターを続けるんでしょうね」。喜寿を迎えてなお少女のようなまなざしが、力を帯びた。

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