散文詩の紹介「あなたの毒はあたしに適合しはじめる」選 ・田中美咲
(紹介者 江 素瑛)
匂いを題材にする作品には、おおむね思い出がつきまとう。このエッセイも例外ではない。人はなぜ失ったものを捜し求めるのか、懐かしさと後ろめたさが、それかきたてるのか。日曜日の骨董市では、匂いがたちこめた思い出の市場なのだろう。
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朝私たちは時々骨董市へ行く。隣町の神社で月2回いずれも日曜日に開かれていて、骨董市はいつも静かな活気に満ちている。触るのも躊躇ってしまうほど古いものや、ぽってりとしていて、美しいガラス製品など様々なものが売られていて、どれも古い、というよりも年を重ねたと言いたくなるような毅然とした佇住まいだ。売主は初老の人がほとんどで、魚屋さんのように明るい人から佛頂面で挑むように座っている人も居る。そういった売主の顔を見ているだけでとても興味深い。
そのたくさんの骨董品の中に紛れていると、不意に懐かしい匂いがすることがある。埃っぽい、でも決して不愉快ではない匂い。物置の匂いだ、突然そう気がついた。正確に言うのなら祖父の物置の匂い。祖父の物置はそれこそ骨董品のようの物から大工道具まで所狭しと色々なものが無造作に詰め込まれていた。
幼い頃に祖父の影から恐る恐る覗いてみたあの物置の匂い。
祖父が生きて、ここにいてくれたら骨董市へ行く度思わずにはいられない。
二人誌 「薄紫の冬桜」創刊号08年11月(三鷹&中野)より
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