同人誌「仙台文学」73号・創刊45周年記念号(仙台市)
創刊45周年というと、東京オリンピック前後の時代の創刊である。メンバーは大変な教養のある文人らしく、伝統と地域力をもった古式豊かな重厚さをもった創作、詩作品が粒ぞろいである。
【「落下傘花火」渡辺光昭】
俊介は中学を卒業して、村の製剤所に勤めている。17歳である。経営者の源次郎にいつもがみがみ叱られている。俊介は、源次郎の娘、春子に思いを寄せているために我慢をしている。しかし俊介は、春子にどう想いを伝えたら良いかわからない。そこで、春子の弟に手紙を頼むと、やんちゃな弟は、学校でやる行事の落下傘花火の打ち上げで、落下傘を取ってくれたら、いうことを聞くといわれる。落下傘には景品がついているので、村人たちで奪い合いになる。その様子を描く。村の雰囲気がよく書かれている。
【「妻恋の果て」牛島富美二】
万葉時代の防人(さきもり)を描く重厚な歴史小説である。自分は、その時代のことを良く知らないので、きっちりとした時代の生活ぶりの描写に、井上靖の作品を思い浮かべながら読みふけった。
あとで、それが「日本霊異記」の武蔵の防人に原作があるように記してある。その小説化する手際と創意は見事で、読み応えがあり、良き歴史小説として堪能できた。
【「思うは青葉城―仙台藩戊辰史譚」江田律】
郷土史の専門家であろうか。仙台藩の運命の時代を、冷静に、しかも情熱をもって興味津々として展開している。
【「姉歯の松探訪」石川繁】
姉歯の松が歴史的な由緒があるとは知らずに、びっくり。
その他、詩が充実している。みな年季が入って元気。
【詩「内視鏡と図書館」金子忠政】
「文字のはらわたを探索する」人々の精神的な情景。現代詩が勢いをもっていた時代をほうふつさせる。緊張感もった詩風になにか、北川冬彦ばりの懐かしさを感じた。それに現実へのアイロニーの味を加えたところに現代的な意義がある。
【詩「遠景」色川幸子】
澄んだ筆致の情景が美しく、失われた愛の空気を描く。端正な精神が読み取れる。
【詩「赤い羽衣」笠原千衣】
古文調であるが、赤く萌える愛の情念を激しく歌う。この取り合わせが、意外で面白い。
【詩「ただひとたびのーー」紺野惠子】
「わたしは独りで歩かねばならない」ではじまる、どうして孤独に甘んじるのか、その姿勢が受けとれる格調高い詩風。
発行所=〒981-3102仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島方、「仙台文学の会」。
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