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2008年11月20日 (木)

大衆小説 大学の研究対象に

成蹊大で整理が進むミステリー書籍と、寄贈者の戸川安宣さん(東京都武蔵野市で) 江戸川乱歩、横溝正史らのミステリーの資料収集を契機に、大学で、文学や文化研究を進める動きが出てきている。アカデミズムからは顧みられなかった大衆小説も「学問」の対象となる時代だ。(佐藤憲一)
 立教大学(東京都豊島区)は「大衆文化」という研究誌の創刊準備号を3月に刊行した。「二銭銅貨」の草稿の翻刻や「押絵と旅する男」論など乱歩関連の論文のほか、大衆雑誌「平凡」、任侠(にんきょう)ものの映画論など昭和の文化について学内外の学者の寄稿が並ぶ。
 同大では、東京・池袋のキャンパスに隣接する旧江戸川乱歩邸と蔵書を2002年に購入し、一昨年大衆文化研究センターを設立。センター長の藤井淑禎(ひでただ)教授(近代文学)は「ミステリーに限定せず、科学やモダニズム文化にも関心を持った乱歩の融通無碍(むげ)なありように倣い、広く大衆文化を視野に入れたい」と編集方針を語る。創刊号は来年3月の予定だ。
 また、学生に向け3年前から「乱歩再発見」という講義も行っており、「作品を通して、自動車の普及など急激な近代化がおきた昭和初めの社会や文化への関心を持ってもらう狙い」(藤井教授)という。
 昨年、横溝正史の遺品2600点を購入した二松学舎大(東京都千代田区)でも、来月「横溝正史研究」(戎光祥出版)という雑誌を創刊する。創刊号は横溝の生んだ名探偵金田一耕助特集で、恋愛から金銭感覚、戦争体験などの論考や、映像化作品に関する鼎談(ていだん)など盛りだくさんとなる予定だ。
 大学の文学研究は、長く夏目漱石、森鴎外に代表される思想性を持った純文学が対象だった。しかし二松学舎大の江藤茂博教授(メディア文化研究)は、「1980年代に、どんな小説や映画でも文学研究の対象となるテキスト理論が広がったり、90年代に多様な関心を持った『オタク教員』が登場したりしたことで変わって来た」と語る。
 同大の山口直孝教授(近代文学)も「精神史や文化史を総合的に取り上げようという構造変化に対応するために、サブカルチャーや大衆文学を無視できない」という。時代の風俗や意識を敏感に反映するミステリー小説や映画の特徴も、注目を集める一因といえそうだ。
 こうした状況を受け、この十数年で卒業生から小池真理子、桐野夏生、石田衣良、井上荒野と直木賞作家4氏を輩出した成蹊大(東京都武蔵野市)では、図書館に10万冊を目指す「ミステリSFコレクション」(仮称)の整備を進めている。宮部みゆきさんらのデビューにかかわった名編集者、戸川安宣さんから6万冊の蔵書の寄贈を受けたのをきっかけに、他の研究者の蔵書も受け入れ、将来的に10万冊のコレクションを目指す。大学図書館や文学館では、大衆文学関係の収集は手薄なだけに貴重な試みとなる。
 このほか、古典対象の岩波文庫に、今年乱歩の短編集が入り、04年から筑摩書房の高校の現代文の教科書に乱歩の短編が載せられるなど、周辺の環境も変わってきた。
 成蹊大の浜田雄介教授(近代文学)は、「自分の若いころは書きにくい雰囲気もあった乱歩や夢野久作を卒業論文に取り上げる学生も最近は多い。ただ、領域が非常に広く、どんな研究方法がいいのか確立していくのは今後の課題」と話している。(08年11月18日 読売新聞)

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